日常生活を早期に回復できるレジリエントな社会への投資

MATSUSHIMA Shinichi
地震災害研究センター
教授
日本列島は海に囲まれている上に、山地やそこから流れ出る川やそれによって形成される平野が存在し、これらが作り出す複雑な地形が織りなす風光明媚な光景やそれらによりもたらされる水や作物を、ここに住む我々は享受することができています。また、北は亜寒帯から南は亜熱帯の気候に属しており、様々な気候や、気候変動により様変わりしつつあるものの、春夏秋冬の季節の移り変わりを楽しむことができます。一方、これらの複雑な地形や様々な気候や季節の中で生活していると、地震、台風、大雨、高潮などによって引き起こされる、強震動、液状化、地すべり、土石流、崖崩れ、津波、火災、暴風、竜巻、洪水、浸水、氾濫、落雷、大雪などの自然現象による外乱(ハザード)に晒される危険性があります(図1)。
これらのハザードが生じることを完全に防ぐことは難しいものの、古代よりハザードによる被害(リスク)を最小限に留めようと人類は努力してきました。社会インフラシステム(ハードウエアとソフトウエアの両方を含む)は、災害が起こるたびに更新され、よりよいシステムにすることを通じて、ハザードによる被害が生じてもすぐに日常生活を回復できるよう、我々はレジリエンスを高めてきました。例えば、日本全国で年に数回は地震により震度5強程度の揺れに見舞われるものの、このレベルの揺れでは建物がバタバタと倒壊するようなことは起こらず、被害が出たとしても軽微で日常生活に支障を来すようなものではなく、上下水道・ガス・電力の供給は一時的に止まったとしてもすぐに復旧し、道路網も陥没、ひび割れ、斜面の崩壊など起こらず、鉄道はしかるべき点検作業ののちに運行を再開できるように整備されています。台風による強風や大雨による被害が出たとしても、ほとんどの場合は軽微であり、日常生活をすぐに回復できます。一方、数年、数十年、数百年に1回しか起こらない、頻度の低いハザードについては、それによる被害が甚大かつ広域となり、復旧には長い時間を要し、日常生活の回復は容易ではありません。ただし、このような低頻度のハザードに対しても、日頃からレジリエンスを高める努力をすることが回復を早めることに対し非常に有効です。
今後の風水害は気候変動により甚大かつ広域となることが予想されます。南海トラフ沿いの巨大地震および、それまでに複数の内陸地殻内地震が発生する危険性がある中、より一層、国としてのレジリエンスを高める必要があります。人口減少が始まり、投資できる総量が限られる中では、行政だけではなく個々人の努力が重要です。個々人のレジリエンスを高める努力を後押しするためにも、例えば、努力をしても被災してしまった場合には手厚い援助をして早急な日常生活への回復を支援すれば、これらの個々人はその後は行政に頼らないで済みます。そして、行政はその他の被災者の援助に集中でき、国全体としてのレジリエンスを高められます。レジリエントな社会を構築するための投資をどうすべきかについて議論を開始すべき段階にあるのではないでしょうか。