地震・津波災害の「レジリエンス」とは?

ITO Yoshihiro
地震災害研究センター准教授
私は、2024年にメキシコシティに新たに設置された京都大学On-Site Lab「地震・津波未災学国際Lab」で、地震と津波災害に対する「レジリエンス」とは何かを考えています。メキシコシティをはじめとするメキシコ国内の多くの大都市は、「トランスメキシコ火山帯 (Trans- Mexican Volcanic Belt; TMVB)」と呼ばれる高地に位置しています。その一つで現在のメキシコシティの北東約50kmに位置するティオティワカンは、紀元前 2世紀から6世紀にかけて繁栄した都市として知られています。その後、TMVBをさまよっていたアステカ人は、14世紀頃からメキシコ盆地にあるテスココ湖の湖畔に定住を開始し、現在のメキシコシティの基盤を築きました。
TMVBには活動的な火山や内陸の活断層が多く存在し、火山や地震災害のリスクが高い地域でもあります。それにもかかわらず、スペインによる征服以前からその後の時代に至るまで、TMVBは多くの人々に居住地として選ばれ続けてきました。これは、火山や地震活動によって形成されたTMVBの地形が雨水を供給し、農耕を可能にしたことで文明の発展を支えたことと深い関係があると考えられます。
同様に日本もプレートの沈み込みによって形成された島弧であり、地震活動や火山活動によって山々が作り出されました。この標高差に富んだ地形は豊かな雨をもたらし、その水を利用した農業が長きにわたって営まれています。私たち日本人も、メキシコの人々と同様に、地震や火山によって形成された大地に生かされているといえるでしょう。そして、こうした大地に潜在する自然災害と共存することが求められています。
地震や津波災害へのレジリエンスとは、大地の形成を担う地震や、それに伴う津波といった災害と共存し、発災時を除いて大きな恩恵をもたらすこの大地で生き抜く力や知恵を意味するのかもしれません。
地震や津波災害との長期的な共存には、幾世代にもわたる経験や知恵の共有が欠かせません。日本の歴史の中でも、自然災害に関する経験が地域社会で共有されてきた例がいくつか見られます。その一例が、東北地方の太平洋沿岸部に残る津波石碑です。東日本の太平洋沿岸部や南海トラフ沿いでは、およそ100年ごとに繰り返される大地震や津波に対して、災害と共存するためのレジリエンスが求められます。この「100年」という数字は、沈み込み帯のプレート境界で発生する巨大地震の「地震サイクル」の周期を意識したものです。したがって、これらの地域では、 100年程度の間隔で発生することを想定した地震や津波への対策や、災害と共存するためのレジリエンスが重要となります。
一方で、1995年の兵庫県南部地 震、2016年の熊本地震、そして2024年の能登半島地震は、内陸の地殻内で発生した内陸地震に分類されます。内陸地震の「地震サイクル」の周期はおよそ1000年、またはそれ以上とされています。したがって、内陸地震の大地震が発生した地域では、今後数百年で同規模の地震が再び発生する確率は極めて低いと考えられます。このことを踏まえ、復興の在り方や、将来的な地震との共存方法を長期的な視点で検討する必要があります。
今後は、地震の種類とその発生間隔をより明確に意識した上で、地震や津波災害に対するレジリエンスを考えることが求められるでしょう。