社会のレジリエンス ―災害からの復興―

MAKI Norio
社会防災研究部門 教授
2024年能登半島地震から1年が経過しました。9月の豪雨災害により社会基盤施設が再度被災するという被害も発生したものの、被災した市町は2024年末を目途に復興計画の策定に取り組んでおり、被災地域の取り組みは復旧から復興へと移行しつつあります。私は、災害からの復興を研究対象としていますが、地域が復興する力こそが社会のレジリエンスだと考えています。物理的被害と被災した地域の社会状況を、社会のレジリエンスを構成する要素とし、復興シミュレーションを行っています。
一般的に、被害が小さい方が復興は容易ですが、地域の社会状況により復興の進み方は変わってきます。図1は阪神・淡路大震災の被災地の事例です。もともと、若い人が多く住む都市部では、物理的に大きな被害を受けても、10年後には「社会に対する影響」はほとんど見られません。一方、六甲山の裏の郊外住宅地では、物理的な被害を受けていないにもかかわらず、復興プロセスの中でより利便性の高い地域に住宅が供給された結果、若い人が転出し高齢化が進むという影響が発生しました。
この研究を進める上での大きな課題は、そもそも「復興とは何なのか」についての一般的な定義が定まっていないこと、さらに「社会に対する影響」という言葉を使いましたが、その定義が漠としていることです。私は人口データを使って「社会の状況」を分析していますが、どのような状態を復興ととらえるのかは人によって異なり、時代ごとに変化していきます。30年前の阪神・淡路大震災では、復興を通した安定成熟社会への適応を「創造的復興」と定義して復興が進められた結果、神戸市全体としては10年で人口が回復しました。しかし、少子高齢化社会を襲った東日本大震災の復興では、まちが安全に再建されても人が戻らず、空き地が多く残っています(写真1)。今回の能登半島地震では被災建物の解体が進まないことが課題となりましたが、解体後に住宅が再建されず、ぽつぽつと空き地が残るまちの姿が予想されます。
東日本大震災以降、少子高齢化が進む中で、復興が防災上の大きな課題と認識されるようになり、復興に関する恒久法が制定されました。さらに、災害前からあらかじめ復興についても考えておく「事前復興」という取り組みが進められています。事前復興を進めるためには、その効果をどう検証するのかが必要となります。これまでの防災対策では、防災力を高めると人的被害・構造物の被害が減少する、という関係を明確に示すことができていました。一方、被災しても「復興できる」ようになること、社会のレジリエンスを定量的に評価する方法を確立することは、なかなか大変です。しかし、少子高齢化時代の防災対策を進める上で、事前復興の取り組みは重要であると考えます。