特集│レジリエンスの視点 災害研究における理論と実践をつなぐ

特集

レジリエンスの視点 災害研究における理論と実践をつなぐ

(フローランス・ラウルナ)
  1. 導入:レジリエンス ――つなぎ、挑む概念

レジリエンスは災害研究の中核となり、多様な分野で共鳴しています。この概念の魅力は、混乱に対処し適応するための枠組みを提供する直感的なアプローチにあります。しかし、「境界オブジェクト」としての性質は、学際的な対話を可能にする一方で、概念の曖昧さを生む可能性があります。本特集では、災害研究におけるレジリエンスの進化、応用、課題を探ります。

 

  1. レジリエンスの軌跡:物理学から生態系、そしてさらに広がる

レジリエンスはラテン語の「resilire」(跳ね返る)に由来し、当初は物理学での概念として、物質が元の形に戻る能力を意味しました。 1970 年代にC.S. ホリングがこれを生態学に適用し、撹乱を吸収しつつ機能を維持するシステム能力として定義しました(Holling, 1973)。1990 年代以降、災害研究に取り入れられ、脆弱性から適応能力と変革への視点の変化を促しました(Cutter et al., 2008)。仙台防災枠組(2015‒2030)はレジリエンスを予防、適応、持続可能な開発目標と統合しています(UNDRR,  2015)。

 

  1. レジリエンスの実践:強化、回復、適応

現代の災害研究では、レジリエンスは動的かつ多次元的な概念であり、以下の要素を含んでいます。

1.抵抗力:最小限の混乱で危険に耐える能力

2.回復力:災害後に迅速に正常状態を回復する能力

3.変革力:学び適応し、長期的に脆弱性を軽減する能力(Shaw & Kato, 2024)

仙台防災枠組は予測的対策や危機を活用したシステム改善を強調しており、これがレジリエンスの実践的な方向性を示しています。

 

  1. サイロを壊す:学際的視点によるレジリエンス

災害リスクが多領域にまたがるため、レジリエンスには学際的アプローチが必要である。以下は分野別の貢献例です。

  • 工 学:耐震性の建物や堤防などのレジリエントなインフラ設計
  • 生 態 学:マングローブなど自然システムの保護的役割
  • 社会科学:コミュニティネットワーク、ガバナンスの研究
  • 心 理 学:トラウマとメンタルヘルス対応の重要性

都市洪水の例では、排水システム、生態系サービス、コミュニティ戦略が統合される必要があります。本特集では、これら学際的アプローチの効果を分析します。

 

  1. すべての人のためのレジリエンス:理論を実践に変える

レジリエンスは、実行可能な戦略への変換が不可欠です。脆弱性の特定、事前計画、共同行動の促進がその要素です。例えば、日本の「マイタイムライン」避難計画は、日常生活にレジリエンスを組み込む試みの一例です。

さらに、公衆の参加を促すことで、災害を異常ではなく内在的な課題として理解する視点の転換が可能になります。「私たちのコミュニティをレジリエントにするものは何か?」といった問いは、意味のある行動を促進し、社会的つながりを強化します。

 

  1. レジリエンスの視点

以下の寄稿は、異なる視点からレジリエンスを探求しています。

  • 言語とレジリエンスの役割(松田):リスク管理と回復の進化に焦点を当て、インフラや政策のシステム的促進要因を分析
  • 洪水レジリエンス(田中):高床式住宅など伝統的手法と現代的計画を融合し、過度なインフラ依存を批判
  • 回復における社会的レジリエンス(牧):物理的損害と社会的要因の相互作用を強調し、高齢化社会での事前計画の重要性を指摘
  • 地震と津波のレジリエンス(伊藤):津波標識など世代間知識移転と再発災害に対応する回復戦略を議論
  • 地すべりレジリエンス(松澤):ハザードマッピングと積極的なコミュニティ対策を提案
  • 日常生活とレジリエンス(松島):インフラとコミュニティの準備を統合し、大規模災害への備えを主張
  • 災害レジリエンスと社会的平等(サマダール):災害からの回復能力は地域社会の社会文化的・経済的な差異によって大きく異なり、普遍的なモデルではなく地域社会が主体的に定義する参加型のアプローチの必要性を提唱

これらの研究は、レジリエンスが文脈依存であり、統合的なアプローチが必要であることを示しています。

 

  1. 再考されたレジリエンス:安全で適応力のある未来へ向けて

レジリエンスは、災害リスクの複雑性を反映する動的で進化する概念です。その学際的性質は、ハザード管理の強力な枠組みを提供し、適応、回復、変革を強調します。本特集は、学問分野を橋渡しし、利害関係者を巻き込むことで、レジリエンスに関する対話を深め、希望と積極的なアプローチを提案します。