鹿児島・桜島火山観測所
最先端の科学研究と地域への貢献
NAKAMICHI Haruhisa
火山防災研究センター火山噴火予知研究領域
教授
観測所の歩み
1955年に桜島の南岳で爆発が発生し、登山していた大学生が死亡しました。その後も、爆発が頻発し、現地調査に入った京都大学理学部の佐々憲三教授(初代の桜島火山観測所長、後の防災研究所長)は南岳の爆発が長期的に頻発すると予見しました。そして、地元住民および鹿児島県など自治体が当時の文部省に桜島のための火山観測所の設置を要望しました。その結果、桜島火山観測所は 1960年12月に設立されました。このような設立の経緯から、火山災害の軽減を目指した研究および地元への研究成果の還元は設立当初から現在に通じる火山観測所の役割となっています。写真1は現在の桜島火山観測所の全景写真です。
注力している研究
桜島火山観測所は文部科学省による火山噴火予知計画および現在の災害の軽減に貢献するための地震火山観測計画に当初から参画しています。そして、観測所がある桜島をはじめ、口永良部島、諏訪之瀬島といった最近噴火した火山を含め、南西諸島にある火山を対象として、火山活動の推移の予測のために地震、地盤変動、空気振動、映像といった観測手法により火山研究を進めています。日本国内においても多数の噴火が観測されるという利点を生かして、噴火の仕組みの理解、噴火に前駆する現象の理解と噴火予測の研究、噴火規模の推定などをおこなってきました。その中でも、観測坑道(写真2)を用いた地盤変動による噴火サイクルの研究は桜島火山観測所の特徴となっています。また、長年の地盤変動の観測から、桜島にマグマを供給する元となっている姶良カルデラ直下にマグマ溜まりが見つけられ、そしてそこにマグマが着々と蓄積しており、既に110年前の大正噴火前の状態になっていることが明らかになりました。そのため、大規模噴火の発生の懸念があり、自治体など関係機関と連携した取り組みや、大学や研究機関と連携した共同研究も取り組んでいます。
桜島火山観測所には大型研究プロジェクトの実施場所としての役割もあります。例えば、原子力規制庁からの受託研究事業により、 2023年3月桜島の沖合に海底地盤変動観測装置が設置されました(写真3)。この装置によって、姶良カルデラの中心部に近づくほどマグマ蓄積による海底の隆起の検出が期待されます。また、文部科学省からの受託研究により、リアルタイムの火山灰ハザード評価手法の開発を行っています。レーダーや光学式ディスドロメータをつかった火山灰の計測、観測坑道(写真2)の地盤変動データと、気象データを用いた火山灰拡散予測シミュレーション、そして噴火発生前の確率的降灰予測技術の開発を行っています。
社会連携
桜島火山観測所には年間を通じて、学校、自治体、省庁などからの来訪があり、すべての要望に応えることはできませんが、可能な限り見学を受け入れています。また、広く一般の方々を対象として、京大ウィークスの一貫として年1回の施設公開を行っています。施設公開では、参加者はバスに乗り桜島島内を移動します。このバスツアーでは、観測坑道の中における装置の見学(写真2)、火口から3 kmの標高400 m地点(ハルタ山観測室)からの山頂展望、観測所設立当初から稼働している地震計および微気圧計の見学、そして桜島火山観測所の所内における最新機器および研究の紹介をしています。これまでの参加者アンケートによると、観測坑道(写真2)が一番の人気となっています。