特集│地域と科学が育む未来 フィールド研究拠点の活動に迫る

徳島地すべり観測所

地すべり研究の前線基地として60

山崎 新太郎
YAMASAKI Shintaro
斜面未災学研究センター斜面モニタリング研究領域
准教授

徳島地すべり観測所は、京都から新幹線と特急を乗り継いで約3時間で到着する徳島県三好市にあります。この観測所は、四国山地の中に位置しており、四国各県を結ぶ国道や鉄道の結節点にあたり、交通の要所です。また、四国の約 2/3の人口がその水を利用する吉野川の中流域にも位置しています。

観測所の歩み

徳島県は古くから地すべりの災害に悩まされてきました。例えば、1945年に現在の三好市山城町国政付近で発生した地すべりは、5年間にわたり停止せず、道路や線路を繰り返し破壊し続けました。この災害は四国全体の交通にも重大な影響を与えました。同時期には、吉野川の上流域でも活発な地すべりが発見され、川をブロックし洪水や利水にとって重大な問題を引き起こす懸念が生じました。

繰り返される地すべり災害を受けて、1951年に京都大学の研究者が徳島県に招かれ、地すべりの研究と対策を進めることになりました。1966年には、徳島県から土地と建物が寄付され、京都大学防災研究所徳島地すべり観測所が開設されました。以来、同施設での地すべりの観測・研究は約60年にわたり続けられています。現在では、4棟の建物からなる施設となっています(写真1)。観測所のスタッフは、四国地域での地すべりの研究を進めるとともに、地元自治体や国の機関と協力して地すべり対策に関する助言を行い、議論に参加しています。

注力している研究

観測所がある四国山地は、国内ではユニークな景観を持っています。1000メートルを超える山々の斜面に、高低差が数百メートルにもなる傾斜地集落が点在しています。この傾斜地集落の多くは、過去の地すべりの痕跡であり、急斜面で地すべりが発生した結果、土地がやや緩やかになり、その上に集落が形成されました。現代では不便に思われるかもしれませんが、山の上にも関わらず貴重な地下水に恵まれ、頻繁に発生する洪水を避けることができるため、居住地や耕作地として優れています(写真2)。特徴的な傾斜地集落の景観は「ソラの集落」とも呼ばれ、地すべりと人々の生活が調和した貴重な「地球のかたち」です。この景観を構成資産として、三好市と隣接する東みよし町は日本ジオパークへの認定を目指しています。なお、東南アジアからヒマラヤ地域まで広がる温暖湿潤の山岳地域では、傾斜地集落は普遍的な居住スタイルです。したがって、ここでの地すべり問題は東南アジア各国に共通する問題とも言えます。その視点から、観測所での研究は世界各国の課題解決に向けた国際的なつながりを持つ成果を目指しています。

特に最近では合成開口レーダーをはじめとする衛星観測技術の普及により,同時に遠隔で多くの地すべり観測が可能になる技術が登場しました。これにより世界中の地すべりが観測可能になった訳ですが,実は現地での検証が十分ではありません。これらの技術の有効性の確認や,それを活用した地すべり動態の研究も実施しています。

社会連携

徳島地すべり観測所は毎年、京大ウィークスに参加し、施設公開や研究活動の紹介、地すべりや災害を学ぶ見学会を実施しています(写真3)。安全管理上の問題から限られた人数での募集ですが、募集人数を上回る参加申し込みがあることもあります。この見学会では、現場を訪れて生きた地すべりの動きを見学したり、過去の災害の歴史とその原因を地球科学的な観点から紹介したりしています。これにより、大変好評を博しています。

写真2 吉野川沿いの傾斜地集落

 

写真2 吉野川沿いの傾斜地集落

 

写真3 地すべり対策の現場見学(京大ウィークス2023)