特集│地域と科学が育む未来 フィールド研究拠点の活動に迫る

大阪・阿武山観測所

観測所を支える市民ボランティア

深畑 幸俊
FUKAHATA Yukitoshi
地震災害研究センター内陸地震研究領域
教授

観測所の歩み

阿武山観測所は、大阪府高槻市の北方、標高281mの「阿武山」山頂の少し手前に位置しています。観測所からは大阪平野を一望に見渡せ、晴れた日には淡路島や関西国際空港も遠望できます。逆に、東海道本線などからは、阿武山観測所のシンボルの高塔(写真1)を容易に同定できます。

阿武山観測所は、1927年に発生した北丹後地震(マグニチュード7.3、犠牲者約3000人)の後、地震研究を進めるため、1930年5月に設立されました。観測所の建物は、大阪府の『近代化遺産総合調査報告書』に「注目すべき近代化遺産」として掲載されるなど大変に趣のあるもので、「プリンセス トヨトミ」などいくつもの映画のロケ地にもなっています。

注力している研究、社会連携

阿武山観測所は、日本を代表する地震観測点で、創設当初から現代に至るまで各時代の最先端の地震計が設置され観測が行われてきました。インターネットで情報がやり取りされる以前は、海外からの求めに応じて地震記録を送ることもしばしばでした。これらの記録は高精度でスキャンされており、最先端の研究に使用されています。観測所の地下の坑道では現在も地震の観測を続けています。有馬高槻構造線のほぼ真上に位置し、内陸地震研究の基地として機能しています。

阿武山観測所が他のフィールド研究拠点と大きく異なるのは、ボランティアの方々が大活躍していることです。まず、「阿武山サポーター」と呼ばれる方々がいます(写真2)。昭和初期から観測を行ってきたこともあり、阿武山観測所には、日本で3本の指に入る貴重な地震計のコレクションがあります。そこで、その貴重なコレクションを死蔵しているのは誠にもったいないと、元々地震学の専門家というわけでは全くなかった阿武山サポーターのみなさんが、地震学や地震計について勉強し、地震計コレクションを活用して一般市民の方々に向けて最前線でアウトリーチ活動をしています。月2回の定期的な一般見学会に加え、小中学校や大学あるいは各種団体などの団体見学会、京大ウィークスにおける特別公開、小学生向け夏休み企画「ペットボトル地震計をつくろう!」など非常に活発な活動を行い、年間の見学者は1500人を上回ります。このような阿武山サポーターの活動は、市民サイエンスの成功例として今後重要な意味を持ってくると考えています。

阿武山観測所におけるもう一つの重要なボランティア団体は「阿武山グリーンクラブ」です(写真3)。阿武山観測所は、3万坪にも及ぶ広大な敷地を有しており、手入れをせずにぼやぼやしているとすぐジャングルのようになってしまいます。地元の園芸好きの方からなるグリーンクラブのお陰で、観測所の環境が美しく保たれています。例えば、観測所の中庭には、あじさいやもみじが多数植えられており、梅雨や紅葉の季節にはたいへん見事です。

大学の人員や予算が削減される中、阿武山観測所は敷地が広大で建物も立派なためその維持管理に手間とお金がかかるのが悩みの種なのですが、ボランティアの方々のお陰で、アウトリーチの一大拠点として活動することができています。

 

 

 

写真1 2階建ての西館(左側)と3階建ての本館からなり、本館からはさらに高塔が聳える

 

写真2 揃いのユニフォームを着て活動する阿武山サポーターの皆さん

 

写真3 阿武山グリーンクラブの活動風景。観測所の中庭にて