輪島市中心部の地震火災リスク
─ F43断層を想定した試算 ─

NISHINO Tomoaki
社会防災研究部門都市空間安全制御研究分野
准教授
2024年1月1日の能登半島地震に伴う火災は、現代の日本においても地震火災のリスクが依然として存在することを広く再認識させたように思います。とくに、輪島市の中心部では、火災が周りの建物に次々と燃え移り、最終的に約240棟を巻き込む大火に発展しました。普段であれば、木造家屋の多い市街地で火災が1件発生しても、複数の消防ポンプ車が早いうちに駆けつけて、屋外消火栓などから取れる水を使い消火活動を行うので、(強風時でなければ)大火になる前に消し止められることが多いです。しかし、大きな地震が起こると、次の複数の要因により、火災被害は大きくなりやすいのです。
- 複数の火災が同時に発生し、1つの火災に投入できる消防隊の数が少なくなること。
- 地震後の通信環境の悪化により、普段に比べて消防隊の火災覚知が遅れること。
- 地震で水道管が損傷し、屋外消火栓から水を取れないこと(したがって、防火水槽や河川などの自然水利に頼ることになります)。
- 地震による道路の被害や建物の倒壊により、水利や火災へのアクセスが困難になること。
- 外壁を不燃性の材料で覆った木造家屋であっても、地震で外壁材が脱落し木材が露出して防火性能が低下すること。
地震火災への備えを計画するためには、地震火災リスクを数値として理解することが重要になります。ここでいう地震火災リスクとは、危険性といった定性的な意味ではなく、地震後の火災にはさまざまなシナリオが考えられ、結果として生じる損失の大きさもさまざまであることの意味で用いています。たとえば、地震に伴って何件の火災がどこで発生するのかを確実に決めることはできないし、風が弱いときなのか強いときなのかも(風向や時間変化も含めて)確実に決めることはできません。このため、不確実性を考慮した確率論的なアプローチによって、損失の大きさ(ここでは、焼失する建物の棟数を考えます)とその発生頻度の関係が評価されなければなりません。そこで、2014年に国土交通省の調査検 討会から報告されたF43断層モデルを用いて、輪島市中心部を対象に地震火災リスクの評価を試みました。F43断層モデルのモーメントマグニチュードや震源域は今回の能登半島地震のそれと近く、もしF43断層を震源とする地震を想定していたとすれば地震火災リスクはどのように評価されたのか、および、評価結果は今回の地震で実際に発生した火災被害とどのような関係にあるのかを調べておくことは、災害の理解を深める観点からもリスク評価の実践の観点からも重要です。評価方法については、地震動強さの空間分布(簡便法を使用)、地震動による建物の構造被害、出火の数と場所、風速と風向、消防隊の覚知時間の不確実性を考慮した3600通りのシナリオを作成し、消防力の実態(ここでは、ポンプ車の保有数や広幅員道路に隣接する防火水槽の位置)を反映した物理的な延焼シミュレーションを行いました。
その結果、①今回の地震の焼失棟数(約 240棟)はリスク評価結果の条件付き超過確率1.7%に相当し、想定されるシナリオの中でも発生頻度は低いが大きな火災被害をもたらすレベルに相当すること、②焼失確率の相対的に高い建物が集中する範囲がいくつか存在し、今回の地震で焼失した範囲はそれらの一つとおおむね対応すること(図1)が分かりました。とくに、②で述べた範囲では、自らの建物で火災が発生しなかったとしても、周辺の建物で発生した火災が拡大しみずからの建物に燃え移る可能性が相対的に高いこと、すなわち、延焼火災により建物群が一体的に火災に巻き込まれやすい地域であることを示唆しています。