能登半島沿岸の津波災害調査報告

MIYASHITA Takuya
気象・水象災害研究部門沿岸災害研究分野
助教
発災から2日後の1月3日、土木学会海岸工学委員会の有志により、能登半島地震津波調査グループが結成され、京都大学防災研究所の構成員もその一員として調査に参加しました。我々のチームは、 1月と2月にそれぞれ1回ずつ、計5日間にわたり調査を行いました。この調査では、砂浜で列に並んだ漂流物や建物壁面の浸水痕を探し、津波の痕跡と断定したものに対して水準測量を行い痕跡高(波の高さではなく、平均的な海水位から津波が到達した痕跡までの高さ)を測定しました(図1)。
能登半島東側の珠洲市、西側の志賀町の両方で最大5m程度の痕跡高を記録しました。西側では一般家屋への被害は相対的に小さく、低地にある漁港などで津波が浸水し被害が発生しました。能登半島東側の能登町や珠洲市の沿岸は特に津波被害が大きかった地域で、家屋の 1階部分がほとんど水に浸ったとみられる場所もありました。高い痕跡高を記録した地域では、本地震の波源域で発生した津波が海底地形の影響で集まりやすく、周辺より津波の高さが大きくなることも計算で確認されました。これに対し、北側の海岸では、津波が市街地にまで遡上した形跡は確認されませんでした。これは、地震に伴う地面の隆起量が北側で大きく、津波が堤防を越えないことに寄与したためと考えられます。また、地震火災のみならず津波火災が発生した様子も確認され、地震動・津波・火災の複合的な災害への対策を考究する重要性の認識をさらに強くする調査となりました。
調査地域を決めるにあたっては、災害現地へ向かう前に速報として公開されたデータをもとにコンピュータで津波の計算を行い、浸水した可能性のある地域をあらかじめ想定しておきました。また、発災直後の調査段階においては、効率的な調査ができるよう合同調査グループで連夜オンライン会議を行い、調査されていない地域や不足している地域をリストアップしたうえで、翌日以降の調査地域の分担割り当てを行いました。その結果、能登半島や富山県・新潟県の沿岸、さらに離島部も含めてグループ全体でのべ300点以上を調査し、280点以上を計測しました(図2)。集約した調査結果は学術論文誌や海岸工学委員会のウェブサイトを通じて公開される予定です。
調査を通じて、損傷した道路の件数が非常に多いにもかかわらず応急処置や修復が早く驚かされました。大変な状況の中での修復に携わる方々へ敬意を表するとともに、一刻も早い復旧復興を願っています。