大きな建物被害が生じてしまった理由

SAKAI Yuki
社会防災研究部門都市空間安全制御研究分野
教授
2024年能登半島地震では、古い木造家屋を中心に甚大な被害が生じてしまいました。ただ、この地震の最大震度は7なのですが、震度7だから甚大な被害が生じたというわけではありません。なぜなら、震度7を記録した志賀町のK-NET富来という観測点周辺では、建物の大きな被害はない一方、周辺での木造建物全壊率が26.1%という甚大な被害(写真)になったJMA輪島という観測点の震度は、6強だったからです。
JMA輪島周辺の被害状況
どうしてそうなったのでしょうか。地震の揺れの強さは、震度が大きい小さいというだけの単純なものではないからです。具体的には、地震の揺れには、がたがたと揺れる成分やゆっさゆっさと揺れる成分が複雑に混じっています。がたがたと揺れるかゆっさゆっさと揺れるかを表す数字が、揺れが一往復する時間の長さである「周期」です。つまり、地震の揺れには、短い周期から長い周期まで様々な周期が混じっていて、どの周期がどれだけ含まれているか(周期特性)が、建物が受ける被害にとって重要だからです。
周期ごとの揺れの強さ(加速度応答)、つまり、どの周期の成分がどのくらい含まれているかを示したのが図の応答スペクトルというものです。これを見ると、震度7にも関わらず、大きな被害がなかったK-NET富来は、0.5秒以下の非常に短い成分が多く含まれている(がたがたと揺れる)のに対して、大きな被害となったJMA輪島では、0.5秒以下の成分は少なく、1~2秒の成分が多く含まれている(ゆっさゆっさと揺れる)ことがわかります。そして、この1~ 2秒の成分(1-2秒応答)が建物の大きな被害に直結するので、JMA輪島では甚大な被害が生じ、1-2秒応答が小さい K-NET富来では大きな被害は生じませんでした。
K-NET富来とJMA輪島との応答スペクトルの比較
では、どうしてK-NET富来で震度が大きくなったかです。震度は、人体感覚、即ち、人がどれだけ強い揺れだと感じるかを測っています。 人は、1秒以下の短い周期に敏感なので、 1秒以下の成分が多く含まれているK-NET富来の震度が大きくなったわけです。
この1~2秒という周期ですが、木造建物や10階建て以下の鉄筋コンクリート造などの木造以外の建物が「大きな被害を受けるときの周期」に対応しているのであって、いわゆる建物の固有周期ではない、つまり「共振現象」が起こっているのではありません。
木造建物や木造以外の10階建て以下の鉄筋コンクリート造などの木造以外の建物の固有周期は、0.2~0.5秒程度です。そのため、もし、共振現象が起こっているのなら、0.2~0.5秒程度の成分を多く含むK-NET富来で大きな被害が生じないといけないのですが、実際には、そうでないことからも共振ではないことがわかります。そして、0.2~0.5秒程度という固有周期と1~2秒という「建物が大きな被害を受けるときの周期」を見ると、建物が大きな被害を受けるとき、その周期は、5倍くらいに伸びることがわかります。
この1~2秒の成分ですが、甚大な被害を引き起こした1995年兵庫県南部地震や2016年熊本地震の益城町でも観測されました。つまり、震度が大きい小さいではなく、1~2秒の成分がどれだけ出ているかを測れば、どこで大きな被害が出ているかが瞬時にわかるということになります。