特集│キソから学ぶ気候変動と防災

中北所長に聞く、気候変動と防災

中北 英一
NAKAKITA Eiichi
京都大学防災研究所長・教授

専門は水文気象学。とくに梅雨豪雨・ゲリラ豪雨災害に関心がある。
地球温暖化に社会が適応していくための対策についても提案を続けている。

 

 

気候変動という言葉を耳にしたことはあっても、具体的にどのようなものかよくわからない方は多いかもしれません。今回の特集では、「気候変動と防災」を学ぶ上でのはじめの一歩になるよう、なるべくわかりやすく基礎からまとめてみました。

 

気候変動とはどのようなものでしょうか?

大気に含まれる、「温室効果ガス」とよばれる二酸化炭素やメタンガスが、18 世紀以降どんどん増えています。このようなガスが増えると、布団に包まれるように、熱が地球に閉じ込められてしまい、平均気温がどんどん上がり海も温まります。雲が発達しやすくなります。これが地球の温暖化です。産業革命(1760 年代から 1830 年代ころ)以降、現在までに平均気温が1℃ほど上昇していますが、2050 年までには2℃ほどの上昇となりそうです。

実は、海の温度が気象に大きな影響を与えます。温暖化により海が温かくなります。すると海に近い空気は温められ、たくさんの水蒸気を含むことができます。また海の温度が高くなると蒸発もしやすくなります。この2つの効果で雲が発達しやすくなります。水蒸気が雲になると周りに熱を出す(凝結熱)ので周りの空気を軽くします。このために空気がどんどん上昇して、強い積乱雲も発達しやすくなります。

気候変動による災害はどのようなものでしょうか?

まず、梅雨の時期の雨が多くなります。これまで九州から近畿、東海地方あたりまでで生じていたような大雨が、より東や北の地方へも広がっていきます。大雨により、洪水や、地すべりや土石流といった土砂災害が発生します。さらに最近では、土砂・洪水氾濫という、土砂が

水の洪水のように流れ出てきて広い範囲を埋めるような災害も生じています。これまでも大雨に見舞われていた地方は、土砂が毎年のように雨によって流されてきましたが、新たに大雨に見舞われる地方では、これまで流されずに溜まっている土砂も多いので、より土砂災害が起きやすいと言えます。

台風の数自体はそこまで増えると考えられていません。しかし、その 1 つ 1 つの台風は強くなる、いわゆるスーパー台風になる確率は高くなります。中心気圧が低く強い台風は高潮・高波を引き起こすので、想定される高潮の高さが増すことになります。雨台風の場合は雨が多くなり、現在でも総量で 10% 近く増えていると言えます。

防災への取り組みはどのようなものがあるでしょうか?

気候変動を踏まえて治水計画が見直されています。これまでは、過去に発生した豪雨・洪水を基にして対策が取られていました。ところが、気候変動により雨が多くなるということは、過去に経験したことのない洪水に備えなければならないということです。新しい計画では、雨の量をこれまでの 1.1 倍で考えましょうということになりました。これは、過去の実際のデータだけでなく、気候変動予測という解析結果を信頼してくれた、という大きな変化でもあります。

洪水を防ぐことができればもちろん良いのですが、水が溢れたとしても住民の命と財産を守れるような治水にも変えていく必要があります。「流域治水」という新しい考え方です。例えば、昔からある「霞堤(かすみてい)」というものは、洪水の時には水が堤防の外に逃げて下流の洪水を防ぎ、川の水が引くと自然に川に水が戻ってくるように作られています。1.1 倍の雨量に耐えるには相当な工夫が必要です。昔の知恵を大事にしながら、一所懸 命アイデアを出し合っているところです。

防災研究所の取り組みは?

気候変動と防災に関する研究は、防災研究所がリードして、全国の機関と共同して研究を進めてきました。最初は国家プロジェクトとして、「地球シミュレータ」と呼ばれるスーパーコンピュータによる将来予測が中心でした。その後、モデルや計算機の性能が良くなって、災害の予測ができるようになってきました。災害の予測ができると、どれだけ我々にとってリスクが増えるかが研究できます。リスクがわかれば、社会はどのように気候変動に適応したら良いか、といった研究もできます。

防災研究所では、気候変動を踏まえた災害ハザードに関する将来予測と、適応に関する研究を行うための「気候変動リスク予測・適応研究 連携研究ユニット」を作り、活発に研究を進めています。感染症や経済、色々な分野が関わる問題でもあるので、京都大学全体でも盛んに研究を進めています。

 


脱炭素で温暖化を食い止めることと、気候変動により激甚化する災害に社会が適応していくこと、これら両輪で考えていかないといけません。

 


平均気温が2度くらい上がる世界はすぐ30年先にやってきます。この2023年の夏も非常に暑かったですが、今は気温が1度くらい上がったところで、これだけの災害です。2度上がった世界を想像してみてください。