若手研究者から(20)

大規模データベースを用いた桜島噴火予測

石井 杏佳
ISHII Kyoka
火山防災連携研究ユニット
特定助教

桜島火山は日本で最も活発な火山のひとつであり、一年に数百回以上の噴火が発生します。国内の火山としては類を見ないほどの豊富な噴火事例は、統計的なアプローチを可能にします。私の研究では、過去に桜島で発生した噴火の大規模なデータベースを統計的に解析し、噴火確率を予測することを目指しています。

桜島の活動は、1955年以降ブルカノ式噴火と呼ばれる様式の噴火が主体です。ブルカノ式噴火とは、火口付近の溶岩が「栓」のような役割を果たし、火道内部の圧力が高まることによって発生する爆発的な噴火です。桜島のブルカノ式噴火の発生前には、山体の膨張が観測されます。マグマだまりから火山体の浅部に上昇してきたマグマによって、火道内部の圧力が高まり膨張が生じていると考えられています。溶岩の「栓」が壊れて噴火が発生すると、圧力が下がりマグマが火山灰として大気中に放出されて、山体は急激に収縮します。この収縮量は噴火時の降灰量に関連しており、火山灰によるハザードを評価する上で重要な指標となります。変動の様子は、桜島島内にある3本の地下観測坑道に設置された傾斜計(山体の傾きを測定する)、伸縮計(地盤の伸び縮みを測定する)によって観測されています(図1)。変動データは桜島火山観測所からリアルタイムで確認できるため、膨張が始まれば「もうすぐ噴火するだろう」ということが予測できます。

しかし、これまでの予測は定性的なもので、具体的にいつ・どのくらいの規模の噴火が発生するのかについて、その確率は示されていませんでした。そこで、私たちは過去10年間に桜島で発生した噴火約5000例の伸縮計記録を用いて、⑴噴火前の膨張継続時間 ⑵噴火前の膨張量、⑶噴火にともなう収縮量のデータベースを作成し、その頻度分布を調べました。その結果、いずれの項目もピークを持つ分布であることがわかりました(図2)。これは、噴火がランダムに発生しているのではなく、何らかの規則性をもって発生していることを意味します。仮に今後の噴火が過去の噴火と同じような規則性で発生するならば、得られた頻度分布を用いて、噴火確率を計算することが可能になります。今後、このデータベースを踏まえて噴火予測システムの運用に着手します。さらに火山灰の移流・拡散シミュレーションと組み合わせて、火山灰の降灰予測につなげたいと思っています。

図1 上:桜島島内の観測坑道(HVOT, AVOT, KMT)  下:AVOTにおける爆発(Exp)前後の伸縮計記録

図2 南岳火口噴火時の膨張継続時間(左)、膨張体積(中央)、収縮体積(右)の分布