特集│AIと防災データサイエンス

物理法則と観測データに基づく数値天気予報

榎本 剛
ENOMOTO Takeshi
気象 ・ 水象災害研究部門災害気候研究分野
教授

我々の研究室では、気象防災の基礎となる数値天気予報やデータ同化手法による異常気象のメカニズムや予測可能性の解明に取り組むとともに、モデルやデータ同化に用いる数値手法を開発しています(図)。本稿では歴史を振り返り、データ科学の発展と数値天気予報について展望します。

20世紀に入って気象学は力学としての発展を遂げ、計算により将来を予測する力学的な数値天気予報が模索されました。1904年にノルウェーの気象学者ビヤークネスに示された構想は、1922年に出版された英国のリチャードソンの試みを経て、世界初の計算機ENIAC(エニアック)の完成を待って1950年にチャーニーらが世界初の数値天気予報を成功させます。

ビヤークネスは数値天気予報には観測が必要であることも指摘しています。数値天気予報では観測は予測と組み合わせて、データ同化と呼ばれる手法を使って現在の大気の状態を推定します。すなわち数値天気予報は物理法則に基づいたシミュレーション科学だけではなく、大量の観測に支えられたデータ科学により実現しています。

データ同化や数値予報結果を「見える化」するときに、機械学習と同じくデータから最適な答えを推定しています。その点では気象学はデータ科学という言葉が生まれる前からそれを牽引してきたと言えます。

近年機械学習は急速に進化していることから、改めて数値天気予報のさまざまな段階に機械学習を利用しようという機運が高まっています。季節予測では現業予報に匹敵するという報告もあります(Weyn et al. 2021)。データ科学の発展により、データから法則や情報を引き出し、皆さんにより分かりやすく伝えていくことができるようになると考えています。

 

Weyn, J. A., D. R. Durran, R. Caruana, and Cresswell-Clay, 2021: Sub-Seasonal Forecasting With a Large Ensemble of Deep-Learning Weather Prediction Models. Journal of Advances in Modeling Earth Systems, 13, e2021MS002502, doi:/10.1029/2021MS002502.

図 2022年台風第14号(スーパー台風ナンマドル)の発達に影響が大きい領域。2022年9月13日12 UTC (日本時間21時)のヨーロッパ中期予報センターのアンサンブル予報データから特異ベクトル法により推定。沖縄周辺(白線の矩形)で14日06 UTC(日本時間15時、66時間予報)に発達することに影響が大きい領域が明るい色で示されている。