2015年桜島クライシス――噴火警戒レベル4

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  桜島では2015年に入ってから爆発的噴火が頻発しています。8月15日の噴火警戒レベル4(避難準備)発表から現在(2015年9月4日)までの桜島の噴火活動の状況について、火山活動研究センターの井口正人教授に聞きました。


井口教授

◆きわめて異例な状況にある8月以降の桜島

 桜島の噴火活動は世界でも有数の高いレベルにあり、1955年に始まった南岳の爆発的噴火はすでに7,900回を超えた。2006年からは活動の中心は南岳東山腹に移り、2009年以降噴火活動が激化し、年間1,000回のペースで爆発が発生している。一方、岩石のせん断破壊によって生じる「A型地震」(いわゆる地震と同じメカニズムをもつ)の発生回数は非常に少ない。これは、ほぼ定常的なマグマの上昇により、マグマの通り道である火道が出来上がっていることによる。

 

 その意味で、2015年8月15日に発生したA型地震の群発は突然のことであった。地震は朝7時ごろから起こり始め、8時ごろには急激に発生回数が増加した。それと同時に急激な地盤変動が始まった。昭和火口における爆発に前駆して傾斜及びひずみ変化が観測されるが、大きくても0.1マイクロラディアンあるいはマイクロストレインである。
 ところが、今回の地盤変動は、膨張開始からわずか20分で0.1マイクロラディアンを超え、1時間後には、1マイクロラディアンに達した。10時28分にはさらに加速し、1時間に28マイクロラディアンの速度で火口側の隆起が続いた。隆起がほぼ停止した17日の0時までに56マイクロラディアンの傾斜変化量に達した。膨張速度が速い15日の午前中を中心にA型地震が多発し、15日に887回、16日には73回を数えた。その中には4回の有感地震(マグニチュード2~3、桜島火山観測所における震度2~3)を含む。世間でいう地震活動としてはとるに足らない現象かもしれないが、火山活動においては危険な兆候であり、まして1年に100回以下のA型地震しか起こらない桜島では極めて異例のことである。地震活動は南岳直下の深さ1㎞~3㎞に集中している。
 地盤変動の空間的なパターンも従来とは異なる。これまでは、全方位に対してほぼ均等に変形していたが、今回は山頂から北西と南東方向にある観測点ではそれぞれ北西、南東に5㎝程度変位したが、北東及び南西方向にある観測点はほとんど変位していない。すなわち、北西-南東方向に桜島を引き裂くような異方性の大きい変形をしていたのである。また、ALOS2で観測された干渉画像からは、南岳の南東及び北西山麓が隆起する変形パターンが浮かび上がってきた。これらのことから南岳直下に薄い板状(ダイク)にマグマが貫入したことが推定できる。ダイクの上端の深さは1㎞程度と極めて浅い。また、貫入したマグマの量は200万立方メートル程度である。
 桜島のマグマ供給系は、北部海域の姶良カルデラの地下10㎞の主マグマ溜まりおよび北岳下、南岳下の副マグマ溜まり、および南岳下のマグマ溜まりから火口へつながる火道から構成されていると考えられている。今回のマグマ貫入に伴う火山性地震の震源やダイクの位置は、南岳下にあるので従来知られているマグマ供給系に極めて近いが、独立のものである。 その理由は、極めて高い地震活動であったこと、変形のパターンがダイク状であったことによる。従来のマグマの通り道にマグマが貫入したのであれば、これほど高い地震活動は必要ないし、地盤変動は従来通りの等方的な変形を示すはずで、地震活動は直接的に噴火活動の激化にむすびつかなければならないが、そうはなっていない。

桜島

◆防災研究所火山活動研究センターの対応

 15日の8時ごろに福岡管区気象台から地震活動の活発化について連絡を受け、噴火警戒レベルをこれまでの3(火口から2kmの登山規制)から4(避難準備)にひき上げることの是非について相談を受けた。これは住民の避難を意味するものであり、レベル2、3の登山客の規制とは対応が根本的に異なる。昨年の御嶽山の噴火以降、火口近くの登山者の安全対策ばかりが注目されるが、火山災害対策は火口周辺に限定されてよいものでない。先に述べたように地震活動と地盤変動は、これまで経験したことのないような急速なものであり、レベル4は妥当であり、すみやかにあげるべきと回答した。10時15分に福岡管区気象台と鹿児島地方気象台は噴火警戒レベル4を発表した。これは火口から3㎞以内にある古里、有村の両集落を対象とするものであるが、東に4㎞離れた黒神地区についても避難の必要性を鹿児島市に助言した。多様な火山災害の要因のうち、火砕流は最も危険な現象であり、昭和火口の規模の大きい噴火ではこれまでも火砕流が1㎞ほど黒神方向に向かって流下しており、今回のマグマの貫入は従来とは比べ物にならない速度と量で進んでいたからである。鹿児島市は、古里、有村、黒神に避難準備情報を11時50分に発令、16時50分には避難勧告を行い、住民77名の避難は18時までに完了した。

(火山活動研究センター 井口正人)


  その後、9月1日16時に、噴火警戒レベルは3(入山規制)に引き下げられました。 とはいえ、9月3日午後には計5回の爆発的噴火が起こるなど、桜島の噴火活動はいまだ予断を許さない状況です。防災研究所火山活動研究センターでは、引き続き桜島の火山活動について観測・調査を密に行っていきます。また、防災研究所HPに、今後随時、井口教授による解説を掲載する予定です。