身体・こころ・地域を支える――口永良部島・全島避難をめぐる課題

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 2015年5月29日に発生した口永良部島の新岳噴火では、噴火当日から全島避難が続いています。島民の避難生活は数カ月~数年の長期におよぶ可能性があるといわれています。避難者の支援をめぐって今後生じうる課題と求められる対策について、社会防災研究部門の牧紀男教授に聞きました。

 


社会防災研究部門 牧 紀男教授

 

 身体とこころ、そして地域の健全性をどう守っていくのかが課題です。

 まずは、身体の問題が最優先。避難開始から1週間ほどの現時点では、まずは、居住環境の改善が第一の課題です。ホテルなど、大部屋でなく個室が確保できる場所での生活に切り替えていく必要があります。

 そして、こころの問題について。
人間にとっては「先が見通せない、状況が把握できない」というのが一番つらいことです。「火山活動はどうなっていくのか」という科学的な情報に加えて、「島は、自分が住んでいたところは、どうなっているのか」についての情報、さらには「今後の生活はどうなるのか」という情報を提供する必要があります。

 たとえば、2000年の三宅島の避難時には、入島した災害対応関係者が、その時に撮影した写真を避難者に提供する活動を行い、非常に有用でした。また、島にCCDカメラを取り付けて、現状をいつでも見られるようにする活動も行われました。このように「現状がどうなっているのか」について知ることができるのが重要です。 また、「将来どうなっていくのか」については、専門家の意見よりもむしろ、実際に避難を経験した人の具体的な話が役に立つと考えます。たとえば、九州でいえば1991年の雲仙普賢岳の噴火災害時に避難をした人、島からの避難という観点では2000年の三宅島で避難をした人に来てもらい、「避難生活はどうだったのか」についてじかに聞き、さらにはいろいろ心配事を相談できるような機会があればよいと考えます。

 そして、もうひとつ重要なのが、今後の仕事や生活の見通しです。特に若い世代は、仕事をしなければ食べていけません。もし、なかなか島に帰れないのであれば、避難先で仕事を探す必要があります。仕事の確保について見通しが持てることも、こころの問題にとっては重要です。

 最後に、地域について。
先述の仕事の確保との関係で、長期避難ということになれば、避難者は島を離れる決断をする可能性が高くなります。とくに子供と一緒に避難した場合は、子供を何回も転校させるのは難しいですから、なかなか島に帰ってこられなくなります。つまり、地域に若い人をとどめるためには仕事の確保が不可欠です。

 さらに、みんなで地域をどうするのかを話し合えること、そして悩み等々を共有できることも重要です。仮設住宅も建設されるそうですが、仮設住宅に入る人だけではなく、公営住宅や親戚の家などに滞在している人も含めて、集まることができる集会所を仮設住宅団地内に設置することは絶対条件です。また、集会所を設置した場合にはその運営を行うスタッフも必要になります。仕事の確保という観点からは、避難者が運営スタッフとして雇われるような仕組みは有効といえます。

(社会防災研究部門 牧 紀男)