エチオピア・アファール凹地での小型固定翼ドローンによる広域航空磁気探査の実施

  • プレスリリース 研究報告

富山大学、九州大学と共同で、本学から「エチオピア・アファール凹地での小型固定翼ドローンによる広域航空磁気探査の実施」についてプレスリリースを実施しました。当研究所からは吉村令慧教授が本調査に参加しています。

プレスリリース全文は、こちら

 

 

 


■ ポイント

・プレート拡大境界に位置し、大陸分裂から海洋底拡大に至るプレート拡大現象を陸上で直接的に調査できるエチオピア・アファール凹地で、小型固定翼ドローンによる広域な航空磁気探査※1)を実施した。

 

■ 概要

富山大学、九州大学、京都大学からなる研究チームは、エチオピア・アジスアベバ大学とエチオピア政府の情報ネットワーク・セキュリティ機関の協力のもとで、エチオピア北東部・アファール凹地のTendaho Graben及びDabbahu-Manda Hararo Riftにおいて、九州大学(東野伸一郎教授)が開発した小型固定翼ドローンを用いた広域な航空磁気探査を令和5年11月16日〜20日に実施しました。約50km x 50kmの対象地域に対して、期間中に5回の飛行調査を行い(総飛行距離 約970km)、長さ50 kmの7測線、長さ20 kmの3測線で良好な磁気探査データを取得することができました。

このような小型固定翼ドローンによる航空磁気探査は、富山大学、九州大学、京都大学、山形大学、熊本大学、アジスアベバ大学の研究者による国際共同研究として2019年にエチオピアで初めて実施しました。その際はDabbahu-Manda Hararo Riftを主な対象として探査をしましたが、ドローンに搭載した磁気測定システムの不調等で良好な観測データが得られたのは10測線中の3測線に留まりました。固定翼ドローンの改良、探査実施方法の改善等を行なって、今回の広域での飛行探査の成功につなげました。

これまでの航空磁気探査データの解析結果は5月下旬に開催される日本地球惑星科学連合2024年大会において発表する予定です。プレート拡大境界に位置するアファール凹地中央部の地球電磁気学的な地下構造※2)とその形成様式に関して新たな知見が得られることが期待されます。

 

■ 研究の背景

エチオピア北東部のアファール凹地は3つのプレート(ヌービアプレート、アラビアプレート、ソマリアプレート)の拡大境界(発散境界)※3)が交わる三重会合点にあります(図1)。陸上で見ることができる唯一の三重会合点で、ここでは大陸分裂が進行し、現在、海洋底拡大現象の開始時期の段階にあり、一部には海洋底拡大軸が海面上に露出していると考えられています。活動的なリフト帯がずれながら紅海から東アフリカリフトへと繋がり(図1:magmatic rift segments)、活発な地震・火山活動が起こっています。アファール凹地中央部のTendaho Graben(図2、 TG)は過去約100万年間に拡大形成された盆地です。Dubbahu-Manda Hararo Rift(図2、 D-MH)では2005年から2010年に渡って活発な地震活動と正断層系の形成、溶岩の噴出を伴うプレート拡大現象が起き、地下2〜80km に巾8m、長さ60km の範囲での岩脈の貫入が推定されています(図2)。この地域はプレート拡大現象を探究するのに絶好のフィールドです。そこで我々は、主に地球電磁気学的探査からプレート拡大軸域での地下構造とその形成過程を解明する目的で、 Dubbahu-Manda Hararo RiftとTendaho Grabenの北部域を対象にして(図2)、富山大学、九州大学、京都大学、山形大学、熊本大学、アジスアベバ大学、米国・ウェイン州立大学の研究者による国際共同研究として行ってきました。地形的制約と気候的条件(酷暑)から地上での徒歩や車による広域的な探査が困難なこの地域おいて、小型固定翼ドローンを活用した航空磁気探査を計画し、現地に適応したドローンを開発してきました。

 

■ 研究の内容・成果

九州大学東野伸一郎教授がX-TREME Composite Japan(代表 角屋守氏)の協力により開発した小型固定翼ドローン(Phenix LR)を調査に用いました(図3)。翼長3.2mで、120ccガソリンエンジンを搭載し、GPS信号による自動飛行により時速100 kmで約5時間の飛行が可能(燃料満載時)です。2019年の飛行調査後に、荒地での離発着のための脚の強化等の改良を加えました。機体先端に約1mのカーボンファイバー製パイプを取り付け、その先端にテラテクニカ製フラックスゲート磁力計(FLMG17)を設置し磁場測定を行いました。飛行機の離発着はラジコンにより手動で行い、その後は設定したルートに従って自動飛行をします。

令和5年11月16日〜20日の期間に5回の飛行調査を実施できました(総飛行距離約970km)。アファール州セメラ(Semera)の北東の砂地の平原に調査拠点を設け、離発着場としました(図3)。Tendaho Grabenの北部域においては、その盆地の拡大方向に沿う北東―南西方向の長さ50kmの測線を5km間隔で7本設定し、磁気探査を行いました。Dabbafu-Manda Hararo Riftでは、2005-2010年の拡大時に地下に貫入したと推定されている岩脈とその延長方向に直交する、長さ30kmの測線を3本設定して探査を実施しました。この10測線で良好な磁気探査データを取得することができ、2019年の探査データを合わせて、Tendaho Graben北部域とDabbafu-Manda Hararo Rift南部域をカバーする広域な磁気探査データを得ることができました。

データを解析し、磁気異常マップ、地下の磁化構造モデルを構築することにより、アファール凹地中央部でのプレート拡大現象を明らかにすることができる成果につながることが期待できます。

なお、今回の海外調査は、日本学術振興会の科学研究費補助金「国際共同加速基金(国際共同研究強化(B))」(課題番号20KK0076、研究代表者・富山大学 石川尚人教授)と二国間交流事業・オープンパートナーシップ共同研究(課題番号JPJSBP 120229914、研究代表者・富山大学 石川尚人教授)により実施されました。

 

2023年調査の参加者:

富山大学都市デザイン学部 教授 石川 尚人

九州大学工学研究院 教授 東野 伸一郎

九州大学大学院工学府 博士後期課程 堤 雅貴

京都大学防災研究所 教授 吉村 令慧

京都大学大学院理学研究科 修士課程 伊藤 良介

エチオピア共和国・アジスアベバ大学 准教授 Balemwal Atnafu Alemu

エチオピア共和国・アジスアベベ大学 准教授 Ameha Atnafu Muluneh

合同会社X-TREME Composite Japan 代表 角屋 守、角屋まこと

 

■ 今後の展開

これまでの国際共同研究の基盤に基づいて、アファール凹地でプレート拡大現象が最も進行しているErta Ale Riftを対象として地球電磁気学的探査(磁気探査、電磁探査)、地表溶岩流の岩石学的・古地磁気学的解析を主体とする調査研究を計画しています。プレート拡大過程のステージが異なるErta Ale Rift、 Dubbahu-Manda Hararo Rift、 Tendaho  Grabenから得られた地下の地球電磁気学的構造(磁化構造、比抵抗構造)とのその形成過程を比較検討することで、プレート拡大軸域での拡大現象・構造形成過程の詳細な解明と理解に資する情報が得られると考えています。

 

【用語解説】

※1)磁気探査

磁場の強度を測定する装置を用いて行う物理探査の一種です。任意の場所で測定される磁場の強度は、その地点の地球磁場(地磁気)の強度と観測場所の周辺および地下の岩石が保持する磁化により発生する磁場の強度の影響を受けています。今回の探査では、小型固定翼ドローンに搭載した磁場センサーで測定し、広範囲の磁場強度の分布を明らかにしました。得られた磁場強度の分布をもとに、地下の磁化構造の推定を進めています。

※2)地球電磁気学的な地下構造

地球電磁気学的調査では、磁気探査により推定可能な磁気的性質を表す地下構造(磁化構造)と電磁探査により推定可能な電気的性質を表す地下構造(電気比抵抗構造)を推定します。磁化構造は、構成する岩石が生成されたときの地球磁場の情報を保持するとともに、現在の熱構造の情報も得られます。比抵抗構造は、その場の温度の高低や流体(水やマグマなど)の存在によってもたらされる不均質性を、電気の流れ易さ・難さの指標で描像します。

※3)拡大境界(発散境界)

プレートとプレートの境界で、隣り合うプレートが互いに離れていく運動をしている境界を拡大境界(発散境界)と言います。その境界では大陸が分裂し、地溝帯(例えば、東アフリカ地溝帯)が形成されます。また、海洋底ではその境界に海嶺(中央海嶺)があり、そこで海洋底が形成され、海嶺の軸から両側に広がっていき、海洋底が拡大しています。拡大境界(発散境界)で大陸が分裂していくと、やがて大陸地殻が引き裂かれ、地下深くのマントルを起源とするマグマが噴出し、海洋地殻(海洋底)が形成されるようになります。