天が手紙を綴るところを見に行こう――ビデオゾンデ[DPRI Newsletter 89/お道具拝見1/山口弘誠准教授]

  • 研究報告 その他

「雪は天から送られた手紙である」これは1936年に世界で初めて人工雪を作った中谷宇吉郎博士の著名な言葉です。中谷博士は、雪結晶の形が大気の温度と水蒸気の過飽和度の組み合わせによって変化することを実験によって明らかにしました。冒頭の言葉が意味するところは、地上に降ってきた雪結晶の形をみると上空の気象条件が推定できるのであろうことを美しく語ったものです。空から降ってきた「手紙」を手に取り、上空を見上げながら、夢と浪漫を思い描いていたのではないでしょうか。

 

さて、日本は世界的にみてもトップクラスで最新の気象レーダーが数多く配備されています。例えば、国土交通省XRAIN(エックスレイン)は最新の気象レーダーである偏波レーダーの観測網のことであり、水平偏波(電場が水平方向に振動する電波)と垂直偏波(電場が垂直方向に振動する電波)の2種類の電波を送受信することができます。多種類の観測パラメータが得られるようになり、降雨強度の推定精度が非常に高いレーダー雨量計として定量的な観測がなされています。この偏波レーダーの先駆的な取り組みとして、2001年に情報通信研究機構が沖縄に導入したCOBRAと呼ばれるレーダーがあります。ただ、偏波レーダーで観測されるのは受信電力といった電気的な信号の情報であるため、偏波レーダーが上空のどのような形状の降水粒子を捉えているのかを詳細にマッチアップさせるという究極の課題がありました。そこで、雲の中の実際の降水粒子をカメラで撮影して、偏波レーダーと比べてみようとなったわけです。

 

 

図1  ビデオゾンデ観測の様子、ビデオゾンデ本体、受信アンテナ

 

今回、私たちの研究プロジェクトで、雲物理や雷の専門家である高橋劭博士(九州大学名誉教授)が開発してきたビデオゾンデと呼ばれる機器を利用させていただくことになりました。ビデオゾンデとは、気温・湿度計のついたラジオゾンデと呼ばれる気象測器に、ビデオカメラを取り付けたものです。当研究所の中北英一教授を代表とする科研費プロジェクト「最新型偏波レーダーとビデオゾンデの同期集中観測と水災害軽減に向けた総合的基礎研究」によって、ビデオゾンデ受信機の汎用化・データの高品質化・ビデオゾンデの小型軽量化を実施し、図1に示す新しいビデオゾンデ観測システムを2010年に開発しました。毎年、梅雨期に沖縄でビデオゾンデ観測を行っています。図2は梅雨期の沖縄で実施したビデオゾンデ観測によって撮影された実際の降水粒子画像です。それまでに教科書で見てきた様々な形の降水粒子が自分が今いる場所の上空の雲の中にもいるのだ、と興奮したことを覚えています。まさに、天が手紙を綴るところを見たんだ! という気持ちになりました。それから偏波レーダーとビデオゾンデをマッチアップしたデータを何年も蓄積したことによって、偏波レーダーのみから上空の降水粒子の種類を判別でき

る手法を開発しました。

 

図2 左列は実験室で人工的に作られた降水粒子。

右列はビデオゾンデで実際に雲の中で撮影された降水粒子。

それぞれ上から、雨滴、樹枝状氷晶、プレート状氷晶。

 

現在ではさらに技術開発を進め、ビデオゾンデ観測システムを車載してストームチェイス(車で移動しながら雨雲を追いかける)したり、降水粒子だけではなくもっと小さな雲粒子を捉えるタイプの測器とビデオゾンデを組み合わせた観測を行ったりしています。降水粒子と雲粒子の「手紙」をもっとたくさん見て、積乱雲のメカニズム解明や予測手法を開発していきたいと考えています。それが豪雨災害軽減につながると信じて!


 執筆/山口 弘誠 気象・水象災害研究部門 准教授