世界と結ぶ 11|大切なものは何ですか? ── 中央アジア諸国の暮らしから
世界と結ぶ 11

大切なものは何ですか? ── 中央アジア諸国の暮らしから

田中 賢治
TANAKA Kenji
水資源環境研究センター
地域水環境システム研究領域 教授

私は、乾燥地が広がるウズベキスタンで20 年近く活動を続けており、近年は水源地となるキルギスの氷河でも研究を進めています。中央アジアでの話題をいくつか紹介します。

 

最初の写真は、ヌクスというウズベキスタン西部にある小さな町の地図の一部です。水の専門家が使う地図ではなく、一般の観光客用の地図です。道路や鉄道などに加えて、水路の情報が細かく表現されています。水路の脇に表示されている青色の矢印は水が流れる方向を示していて、水がどこから流れてくるのか、この先どこに流れて行くのかを強く意識した地図になっているわけです。その水はきれいで使えるのか、この先に水を使う人がいるから汚さないように、というようなことを常々意識していることが伺えます。水は世界のどの地域の人にとっても大切なものですが、ウズベキスタンのような乾燥地ではとくに貴重な資源です。

ヌクスの市街地図(青色の矢印は流向)

2つ目の写真は、あるティータイムのテーブルです。かなり豪華ですが食事ではなくお茶の時間です。中央アジアではどこでもそうですが、人に会ったらまず、お茶を飲み、果物、お菓子、パンなどを食べながらおしゃべりすることにかなりの時間を費やします。一緒に仕事をする相手が信用できるかを見定めている時間なのかもしれませんが、たまたま通りかかったような人にもお茶を出したりします。お茶とおしゃべりの時間が長いために、暗くなるまでフィールドワークをすることもしばしばありますが、お茶の時間を削ろうという概念はこの国にはありません。

ティータイムの風景

3つ目は、山で気象観測をするための機材の荷揚げの様子です。いかにも重そうですね。あらゆる可能性を想定して工具類は一式持って行きますが、荷物はできるだけ軽くしろということで、予備のバッテリーを半分にしたり、着替えの枚数を減らしたりして、荷物の少量化、軽量化の努力をしているところですが、山小屋では晩ごはんの時間にウォッカの瓶が出てきます(しかも2 本)。現地の人曰く「これは必需品である」。現地の人はロシア語で教育を受けてきているので、英語はカタコトだけで、ほとんど話さない人が多いのですが、ウォッカを飲んだら急に饒舌になって英語をペラペラ話し出し、「えっこんなに話せるんだ」と驚いたことがありました。やはりウォッカは必需品なのかもしれません。

カラバカック氷河での気象観測用機材の荷揚げ

 

最後の写真は、タシケントのプロフセンターの大鍋です。プロフとはこの地域の炊き込みご飯で、この鍋は一度に千人分のプロフを作れると言われています。プロフは日常的にもよく食べられますし、結婚式など大勢が集まるときにも必ず出てくるもっとも基本的な料理です。

プロフセンターの大鍋