お道具拝見 10|お料理教室……ではありません-蕎麦と木綿豆腐と
お道具拝見 10

お料理教室……ではありません

蕎麦と木綿豆腐と

上田 恭平
UEDA Kyohei
地盤災害研究部門
地盤防災解析研究分野 准教授

地震や豪雨の際の地盤挙動の解明には、遠心力載荷装置といった本格的な実験道具が必要です。ただ今回紹介するお道具は、私たちの身の周りにある蕎麦(写真1)などの食材です。まずは、本来の目的とは違った用途で食材を用いていることを製造者・加工者の方にあらかじめお詫びします。

写真1 食用の蕎麦(乾麺)

 

蕎麦で地盤の変形を捉える

地震の揺れで地盤が液状化し、水平方向に大きく変位する現象を側方流動と呼びます。側方流動は構造物基礎などの震害の原因の一つで、これまで模型実験などでそのメカニズムが調べられてきました。地盤の変位やひずみを求めるには、近年では画像解析がよく駆使されますが、原始的な方法も捨てがたいものです。写真2・3は遠心力載荷装置を用いてケーソン式岸壁(港湾構造物の一種)の地震時挙動を調べた模型実験の様子です。加振前の写真を見ると、ケーソン(白い長方形)背後の砂地盤とガラス面との間に、油性ペンで赤く着色して湿らした蕎麦が縦方向に配置されています。この砂地盤が地震の揺れで液状化すると……側方流動に伴う地盤の変形の様子を蕎麦により視覚的に捉えることができます。この方法は海外でも用いられており、英国の研究者の論文では “the lateral movement can be detected by observing the shape of the spaghetti strands” のように蕎麦ではなくスパゲッティが登場します(イタリアでは言わずもがな)。

 

写真2 模型地盤の様子(加振前)。中央から右にかけて縦に並んでいる赤い線が着色した蕎麦

写真3 模型地盤の様子(加振後) 着色した蕎麦のゆがみで地盤が変形している様子がわかる

豆腐で地盤を模擬する

写真2・3では模型地盤には工業用の珪砂を用いて作製しましたが、もっと大胆に(?)珪砂の代わりに模型地盤にも食材を活用した実験例もあります。この例ではケーソン下の地盤が海成粘土から成ると想定し、自立性と変形性を併せ持つ材料として木綿豆腐により粘土部分をモデル化しています。木綿がいいのか絹ごしがいいのか、はたまたこんがりと焼き色を付けた焼き豆腐がいいのか、想像してみるのも一興でしょうか。ちなみに、食品工学の分野では圧縮試験や貫入試験により豆腐の力学的性質が調べられており、面白い異分野融合研究につながるかもしれません。

この他にも身近な食材を使った模型実験の可能性について、地盤以外の分野の方もぜひ思いを巡らしてみてはいかがでしょうか? 残念ながら、思いを巡らすだけではお腹はいっぱいにはなりませんが……。