若手研究者から 21|島弧の水・マグマ供給系と火山形成メカニズム

島弧の水・マグマ供給系と火山形成メカニズム

畑 真紀
HATA Maki
火山活動研究センター
地殻流体研究部門 助教

日本列島は、地球表層を構成する複数のプレートが互いに近づき重なり合うプレート境界に形成された島弧(弓なりに弧を描いて並ぶ列島)であり、一方のプレート(海洋プレート)が他方のプレート(大陸プレート)の下に沈み込み、地球内部に戻っていく沈み込み帯と呼ばれる一帯に位置しています。これらプレート境界の沈み込み帯は、地球表層の物質が地球深部へと運ばれ循環していく場所であるともとらえることができます。沈み込み帯での水循環や炭素循環は、地球の表層環境に大きな影響を与えており、たとえば、水循環は沈み込み帯で見られる火成活動(マグマの発生や移動を伴う現象)や地震活動にさまざまな形で影響を及ぼしています。そこで、私は水循環と密接な関係にある島弧の火山形成メカニズムの解明を目指して研究を行っています。

水循環の担い手は、地球表層において水が岩石と反応することでできた含水鉱物(水を結晶水として含む鉱物)です。海洋プレートと共に地球内部(マントル)に持ち込まれた含水鉱物は、地球深部へと移送されていく過程で脱水・分解反応によって水をマントルへと吐き出します。マントルでは含水鉱物から吐き出された水の付加によって部分溶融(一部を固体から液体に溶かす反応)が引き起こされ、マグマの起源物質が生成されることで火成活動が活発になります。また、含水鉱物の脱水・分解反応は一定の温度-圧力条件で起こることから、島弧には沈み込むプレートの等深度線に沿って火山列(火山帯:火山が連なって分布する地域)が形成されます〔図1〕。一方で、なぜか火山列の途切れる非火山地域(火山の分布しない地域)が出現します〔図 1〕。さらに、同じ火山列の中の火山であっても、その噴出物や噴火様式には多様性が見られることから、島弧下のマグマ生成は一様でないことが示唆されています。

同じ沈み込み帯の島弧で観察される火山(列)の多様性・不均質性の要因としては、地下での水およびマグマの供給系(分布や移動経路)にさらに地域性があるからだと考えられています。一方で、水・マグマ供給系に関連した島弧の地下構造の不均質性については、未解明な部分が多く残っています。そこで、私は、島弧の地下の不均質構造を、沈み込むプレートによって持ち込まれた水・マグマ供給系の分布に着目して、電磁気学的な観点から明らかにすることを目指して研究に取り組んでいます。具体的には、大地の電磁場を測る観測を行った後に、地下構造の電気比抵抗(物質の電気の通りにくさを表す指標)モデルを求め、火山地域と非火山地域の地下の不均質構造を考察する研究を行っています〔図2〕。さらに現在は、異なる島弧(ニュージーランド北島と九州)の地下の不均質構造の相異を比較することで、島弧の火山形成メカニズムの解明を目指しています。この研究を通じて、火山噴火に対する将来の脅威を理解する上で重要な知見が得られると考えています。

 

図1 島弧における火山地域(火山性構造物)および非火山地域の分布。左:西南日本沈み込み帯の九州、右:ヒクランギ沈み込み帯のニュージーランド北島。

 

図2 電磁場観測を基にした九州の地下の電気比抵抗構造モデル