特集│火山と向き合うー防災研の火山防災研究

大規模火山噴火からの避難

多々納 裕一
TATANO Hirokazu
社会防災研究部門
防災社会システム研究分野 教授

大規模な噴火が予知され、10-30cmの降灰が予想される場合には、少なくとも10cm未満の降灰が予想される地域へ避難することが必要となります。それはなぜでしょうか?

噴火による火山灰の降灰はわずかであっても交通機関が麻痺し、物資の輸送や人の移動が難しくなるからです。数ミリの降灰量でも車両走行時の巻き上げによって視界が確保できなくなり、数センチの降灰になるとタイヤが空回りして走行が物理的に難しくなります。

また、火山の近くでは、火山弾や噴石、軽石などが降り注ぐことになるため、身を守るために退避所等の頑丈な建物に避難することが必要です。ですが、少し離れたところでも、降灰が数十センチを上回るような場所では、家屋が降灰の重みに耐えきれずに倒壊する恐れがあります。とくに、山形フレームの架構形態の体育館などは乾燥状態で7-8cmの降灰でも影響を受けます。このことは、大量の降灰に見舞われた地域では、家屋や避難所などが倒壊するだけでなく、運よく倒壊を逃れたとしても、火山灰等が除去され緊急支援物資が届くようになるまでに相当の期間を要することを意味しています。さらには、噴火後に降雨が発生した場合には、新たに降り積もった火山灰が泥流と化し、火山泥流や土石流の危険にさらされます。

このような危険を避けるためには、噴火発生以前に噴火の前兆現象を早期に把握し、避難に関する意思決定につなげる必要があります。このため、自然科学、社会科学、そして計画学などの研究者、実務者が力を合わせ、総合的にその実現に取り組むことが必要です。

 

図 大規模噴火時の降灰による主な影響の閾値【降雨あり・停電あり】(出典:中央防災会議防災対策実行会議大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ:大規模噴火時の広域降灰対策について―⾸都圏における降灰の影響と対策―~ 富⼠山噴火をモデルケースに~、2020.4、を一部改変)