特集│火山と向き合うー防災研の火山防災研究

山そのものが火山灰の拡散を複雑にする

竹見 哲也
TAKEMI Tetsuya
気象・水象災害研究部門
暴風雨・気象環境研究分野教授

 

大気の流れは、時々刻々と複雑に変化します。とくに山など急峻な地形の周りの気流は、ときに激しく変動します。山の周りでは、山が存在することで、大気中に波が発生して遠方に伝わっていったり、山頂から風下側におろし風のような強風が吹いたり、おろし風が「跳ねる」ように激しく上下運動したりします。こういった風の変動は、火山の場合にも当てはまります。とくに桜島火山のような孤立型の山の場合には、明瞭にその特徴が表れます。図1は、桜島噴火時の気象シミュレーションから得られた桜島周辺での風速場を示しています。桜島周辺の水平風速が山の周辺で向きを変えていたり、山頂付近で上下運動が交互に現れていたり、時間ごとに大きく変化していたりする様子がわかります。このように山の周りでは、気流が複雑に変化するのです。こういった気流の変化に火山灰の拡散は大きく影響を受けます。図2に、同じ噴火イベントを対象としたシミュレーションで得られた降灰量の分布を示します。山頂の北側を中心に降灰量が多い範囲が広がる一方、方角が変わると山頂付近にも降灰がない場所もあります。こういった降灰のパターンは、山の周辺の水平方向や上下方向の風速変動によって大きく変わるのです。山のような急峻な地形の周辺の気流の微細な特徴を知ることが、火山灰の拡散をより精緻に把握することを可能として、地域の降灰予測の向上に繋がります。

 

 


図1  2017年6月6日の桜島噴火時の気象の数値シミュレーションによる桜島周辺での気流(上:6時、下:8時30分)。図の中心に桜島が位置する。矢印は地上200 m高度での水平風速場、カラーは鉛直風速(赤:上昇、青:下降)を示す

 

図2  図1の噴火イベントのシミュレーションで得られた降灰量の分布