特集│火山と向き合うー防災研の火山防災研究

火山噴火の発生とその災害の複雑さ

井口 正人
IGUCHI Masato
火山活動研究センター
火山噴火予知研究領域 教授/
火山防災連携研究ユニット長

火山噴火とは

火山の噴火とは地中深くにあるマグマが地表に噴き出す現象です。では、マグマとは一体何でしょう?ドロドロにとけた溶岩みたいなもの?はい、確かに溶岩はマグマです。だけども、大抵の噴火は火山灰を噴きだしますね。大きな音がする爆発が起きて噴石が遠くまで飛んでいくことも。なぜでしょう?マグマはドロドロで高温(1000℃から1200℃くらい)の溶岩に火山ガスが溶けているものです。炭酸飲料みたいなものだと思えばいいでしょう。ドロドロの溶岩だけであれば、噴火はすべて溶岩流になるはずですが、火山ガスが噴火に爆発力をもたらすのです。多量の火山ガスを溶かしたままでマグマが地表近くまで上昇してくると圧力が下がるので急激な発泡が始まります。これにより、火山体を破壊し、マグマを噴出して噴火が起こります。火山噴火は高圧マグマの減圧発泡現象といっていいでしょう。

 

火山災害の要因の複雑さ

マグマはその噴出と冷却の過程で様々な形態をとっていろいろな噴出物になります。火山岩塊や礫(れき)、火山灰は、固体です。溶岩は液体であり、マグマから抜け出てきた火山ガスは当然気体です。噴煙は火山灰・礫(れき)と火山ガスが混じったもので浮力により大気中を上昇するものですが、山の斜面を下ることがあります。これを火砕流と呼びます。火砕流は重いのです。

多様な噴出物により複雑な災害が発生しますが、それをさらに複雑かつ大きくするものがあります。それは水です。水と言っても多様で、河川、湖、地下水、海洋、降雨、融雪などが火山災害を拡大させます。代表的なものに降灰や火砕流発生後の土石流や泥流があります。また、多量の土砂が海に突入したり、海底で噴火が起きたりすると津波が発生します。さらに、噴火の発生前にマグマが地表に近づいてくる段階でも大きな地震や地形変化によって災害を引き起こします。最悪、山体崩壊を引き起こすことすらあります。このように火山災害の要因は多様なのです。

 

 

火山災害の多様性

一例になりますが、たいていの噴火で噴出する火山灰について、災害の多様性を見ていきます。火山灰は農林水産業への被害、健康被害、交通等の社会インフラへの影響を引き起こします。火山灰粒子は単なる砂粒ではありません。火山灰粒子には二酸化硫黄、塩化水素などの火山ガス成分が付着しており、これらが水に溶けると硫酸や塩酸などの劇物になります。なぜ、火山灰が農林水産業や健康に被害をもたらすかお分かりいただけるかと思います。また、最近は火山噴火に伴う PM2.5による大気汚染にも注目されています。交通等の社会インフラへの影響は現代社会にとって最も深刻ですが、火山噴火災害の頻度の低さゆえ、多くの国民にとって依然として想定外の状態です。交通では、道路、鉄道、航空、船舶のすべてにおいて影響が出ます。とくに航空への影響については、今の桜島の小規模噴火でさえ、航空会社の慎重な対応によって欠航することがあるのです。過去の桜島の安永、大正噴火の記録から、今後発生する大規模噴火では関西地方にも1~3cmの降灰があると考えています。この降灰量は十分、道路の通行規制と鉄道の運休を必要とするレベルです。

このような火山災害の複雑性に対応するため、防災研究所は、火山噴火の切迫性、規模、噴火様式を予測する研究を基盤とし、噴出物の移動については大気、地形、水などを考慮して噴火ハザードを、さらに、居住地域や交通などの社会インフラへの影響を考慮したリスク評価、火山噴火災害対策の根幹をなす警戒を要する範囲からの避難について研究する火山防災連携研究ユニットを立ち上げて、研究を続けています。

 

 

 

 

桜島爆発

桜島南岳噴火の火砕流

桜島大正噴火の降灰域と空港

 

多量の降灰によって埋まった車両