特集│AIと防災データサイエンス

ChatGPTは人間の感情に触れることができるか?

サブハジョティ サマダール
Subhajyoti SAMADDAR
社会防災研究部門防災社会システム研究分野
准教授

私が学生だったころ「人類にとっての科学技術」というテーマでエッセイを書き発表する科目がありました。これまで人類は科学技術を文明や生活の向上のためにうまく御してきたのか、はたまたそれに使われる立場になってしまったのかと大議論になったものです。コンピュータが家庭に入り、インターネットを経由したサービスが充実して身近になり、Google検索がお茶の間に上がりこんだのはそれほど昔のことではありません。こうしたサービスの黎明期には、Google検索等のインターネット活用が私たちの生活様式を変革することで、人々の美意識や創造性が失われ、研究の質を下げ、創造性に富んだ研究が減ってしまうのではないか、という憶測がありました。新しい科学技術であるChatGPTに対する同種の懸念は、職場でも、家庭でも、カフェでも見受けられます。人々はChatGPTが我々の生活に与えるポジティブな側面よりも、ネガティブな側面を懸念しています。例えば、不正が増える、職を失う、科学技術が人間に取って代わる、クリエイティブなコンテンツが消える……などです。しかし近年では、インターネットやGoogle検索など、科学技術のおかげで生活はずっと楽になりました。現代の情報技術を使うことで仕事のスピードも質も向上しています。

ChatGPTは、他の装置や科学技術とは異なり、よくあるきっちりした形式では回答をしません。ChatGPTがくれる回答にはほんのり人間味があります。質問を入力すると、説明と一緒に豊富な情報を提供してくれます。質問の理由や背景をさらに入力すると、状況に合わせて答えを出してくれます。もし他の誰かが同じ質問をしても、異なる文脈では異なった回答をすることもあります。ChatGPTは、既存のデータに基づいて適切な回答を生成するシステムです。このような利便性から、非常に人気を博し、世界中で急速に採用されつつあります。ChatGPTは、既存のデータや一連の情報に基づいて、質問に対するさまざまなシナリオや選択肢、回答を作成することができます。一方で私たちは、科学技術の発展によって人間の存在が不要になり、無感情で合理的でロボット的な世界になるのでは、と少しばかり心配にもなっています。

しかし、あらゆる人間の行動には、想像力、感情、情熱が伴います。それが機械と違うところです。歴史をふりかえっても、想像力や感情は人類の文明を作り上げるうえで重要な役割を担ってきました。想像力があればこそ、科学者や詩人や芸術家は遠く先の未来を予言することができます。人間とは対照的に、機械や科学技術には想像力や意志の力、そして感情がありません。ChatGPTは、私たちの革新的な能力を損なうものではなく、むしろ、より多くのより良い情報をより短時間で入手するのを助けてくれると私は考えています。したがって、怖がる必要はありません。洗練された情報を速く入手するために現代ではGoogle検索という手段がよく用いられますが、私はChatGPTを、このGoogle検索の時代を終わらせるものだと考えています。ChatGPTは、せいぜい学生が宿題を解くのに悪用する程度で、人間の感情や情熱、想像力を必要とする新しいものを生み出すことはできません。なぜなら、人類の文明とはすなわち、感情や想像力を必要とする創造性そのものであり、困難を克服することだからです。実際にはGoogle検索が人々の創造性を奪わなかったように、ChatGPTにも奪うことはできないでしょう。