特集│AIと防災データサイエンス

AIと災害対応

畑山 満則
HATAYAMA Michinori
巨大災害研究センター災害情報システム研究領域教授

Artificial Intelligence(以下、AI)は、 1956年にダートマス会議の提案書においてジョン・マッカーシーが初めて使った言葉です。提案書において、この会議は「学習や知能などについて説明することで機械がそれらをシミュレートできるようにするための基本的研究」を進めるためのものであることが明記され、その要素として「機械が言語を使うことができるようにする方法の探究、機械上での抽象化と概念の形成、今は人間にしか解けない問題を機械で解くこと、機械が自分自身を改善する方法など」が挙げられています。このことからAIは「人間のように考える機械」を指すとされる場合が多くあります。

1980年に哲学者ジョン・サールは、「強いAI」を「正しい入力と出力を備え、適切にプログラムされたコンピュータは、

人が心を持つのとまったく同じ意味で、心を持つ」と定義しました。そして、対となる「弱いAI」は、心を持つ必要はなく、限定された知能によって一見知的な問題解決ができればよいとしています。この分類を考慮すると、AI研究とは「強い AI」の実現を目指す研究領域であり、その過程で得られた技術が「弱いAI」を実現していると捉えられます。

災害対応において「強いAI」の実現は、「AIによる災害対応」ということになりますが、現状、災害時に適切で説明可能な意思決定を行えるような「強いAI」はまだ存在していません。「強いAI」の実現を目指すのであれば、「弱いAI」による部分的な災害対応の効率化を実現し、実績を積み重ねていく必要があります。しかし、「弱いAI」の活用によるブレイクスルーが期待される巨大災害は発生頻度が低いため、実績を作っていくことはなかなか難しいです。

また、「強いAI」の実現のためには、 AIの役割を意思決定支援から意思決定にステップアップする必要があります。意思決定を目指すのであれば、チェスや将棋で名人に勝つことと同様に、仮想の「対局」が求められます。明確な「ルール」の決まっていない被災地域を「対局」の場にするためには様々の課題がありますが、「対局」の「盤面」となりえる仮想被災地が実現できれば「強いAI」の実現に大きく近づくと考えています。

「弱いAI」の活用だけでなく、被害をできるだけ軽減することが可能な「強い AI」の実装を目指し、技術開発を進めていく必要があるでしょう。