若手研究者から(19)

防災・減災に向けた国内外の洪水氾濫予測の高度化

山本 浩大
YAMAMOTO Kodai
水象・気象災害研究部門
気象水文リスク情報(日本気象協会)研究分野
特定助教

近年、国内では豪雨が発生し、日本各地で中小河川が越水・決壊し甚大な人的・経済被害を及ぼしています。こうした洪水被害を軽減するためには、河川の堤防整備等の治水対策だけでなく、避難情報などの防災情報の強化を進めていく必要があります。国や都道府県は、水位が避難開始の目安となる基準を超えた時に避難勧告を実施します。平成30年から従来は水位観測が実施されていなかった中小規模の支川や上流の河川に水位観測所が設置され、中小河川の水位観測網が充実されています。一方で、短時間に強い雨が発生すると中小河川の水位は短時間に急激に上昇し、避難に要する時間が十分に取れないといった問題があります。現在、国が定めた経済的に重要な河川の観測点を対象に数時間先までの洪水予測が実施されていますが、中小河川も含めた河川水位の水位予測が必要とされています。

私達の研究グループでは、河川流域を対象に降雨流出過程を物理的に説く数値モデル(以下、降雨流出モデル)を用いた洪水予測システムの開発を行っています。具体的には、降雨予測情報を降雨流出モデルに入力し、中小河川を含めた河川流域の任意地点での水位の予測情報を創出しています。現在、京都府が洪水予報を現況でおこなっている鴨川流域と桂川上流域を対象に河川水位の予測の高度化の研究を行っています(図1)。特に、危機管理水位計が設置されている河川の上流部や支川に着目し、6時間先の河川水位の予測を試みています。本研究は、京都府と京都大学の共同研究として実施しており、水位の予測精度を高度化するだけでなく、避難のための時間を考慮した水位予測システムの評価を行っています。一方で、国外を対象とした気候変動の研究も行っています。インドネシアの大流域の低地にある熱帯泥炭地では気候変動で浸水が頻発化するとアブラヤシプランテーションの農地の立地が変化します。そのため、洪水が農地の立地に与える影響を考慮した土地利用の予測と気候変動によりアブラヤシが被る洪水被害の評価を行い、泥炭地における気候変動の適応策について施策しています。今後、国内外の流域を対象に洪水予測の高度化と気候変動影響評価の研究を行うとともに、新しい防災気象情報と気候変動の適応策に向けた洪水リスクの情報を創出し、防災・減災に貢献する研究者を目指しています。

図 1 京都府の河川と洪水予報河川の桂川流域(黄色、左)と鴨川流域(黄色、右)