京都大学防災研究所・研究集会

「河川水文データベースの構築とそのネットワーク共用化」 の報告


日 時:1996年12月16日(月)13〜17時,12月17日(火) 9--15時

場 所:京都大学木質科学研究所・木質材料実験棟(木質ホール)

参加者:58人(内訳は,大学 28,民間 18,国立研究機関 2,財団法人 5,建設省 5)

 河川流域の水文現象を解明し,土石流・洪水などの災害を防止し,水資源の確保と水環境の保全のための研究を進めていく上で,降雨量や河川水位・流量,河川水質などの河川水文データの収集・解析は重要な意味を持っています。
 従来,計算機資源の制約やデータ収集の困難さから,河川流域内の水文・流出現象の理解・解析に基づいた水文モデルの構築はあまり現実的なものではありませんでした。しかし,最近では,大容量高速の計算機が利用できるようになってきました。流域の標高データや地質のデータも計算機に読み込むことができるような形式で整備され,気象レーダによって,広域の時間的空間的な降雨データが得られるようになってきました。河川流域内で起こっている物理現象に即して,現象をモデル化し,解析していくための条件が整って来ています。
 また,近年,情報通信ネットワークが急速に発展してきました。河川水文データを情報ネットワークを通して取得し,利用することも可能になってきました。場合によっては,現象が起こっているときにデータを取得し,解析して予測に役立てるということも可能になってきています。現に起こっている現象の観測情報だけでなく,過去に起こった現象のデータを参照できれば,災害対応に非常に役にたつでしょう。  このように,河川水文データの利用は新しい局面を迎えています。土木学会水理委員会水文部会では,こうした環境に対応して,河川水文データベースの構築と情報ネットワークによる利用に関する研究部会を設けて,研究を進めています。
 1996年に全国共同利用研究所として改組された京都大学防災研究所でも,水災害研究部門で,河川水文データベースの構築とそのネットワーク共用化を重要な研究課題のひとつとして取り上げ,特定研究集会を開催することを共同利用委員会に申請して,認められ,標記の研究集会を開催しました。この集会への参加の呼びかけは,水文・水資源学会誌にも掲載させて戴きました。
 現在,建設省でも水文・水質データベースを構築し,インターネットを通して公開するよう具体的な検討がなされています。水環境計画や水管理にも,河川水文データをどのように集積し,利用していくかの検討が重要です。また,地球科学研究という観点から,河川水文データを他の地球観測データの公開・利用の中で考えていくことも重要です。
 河川水文データベースをどのように構築し利用していくについて検討すべきことは非常に多く,さらに議論を継続し,研究を進めていく必要がありますが,この研究集会で,河川水文データベースについて議論していくべき領域や議論の枠組に関する合意が得られたと思われます。
 さらに,河川水文データベースに関しては,議論・情報の交換をメイリングリスト
   hydrodb-ML@rdp.dpri.kyoto-u.ac.jp
で続けていきたいと思います。このメイリングリストへのお問い合わせは,
   hydrodb-ML-request@rdp.dpri.kyoto-u.ac.jp
へお願いします。

  水災害研究部門:椎葉 充晴・立川 康人   水資源研究センター:宝  馨

 なお,上記研究会は,以下のようなプログラムで行われました。

12月16日 (月) 13時〜17時

椎葉充晴 京都大学防災研究所水災害研究部門
「河川水文データベースの構築とそのネットワーク共用化」
石井達夫  (株) SRA
「オブジェクト -リレーショナル・データベースシステム postgres95の概要及び WWWとの連係について」
廣木謙三 建設省河川局河川計画課
「河川行政のこれからの方向と河川情報データベース」
宝  馨 京都大学防災研究所水資源研究センター
「データベースの構築と利用に関する研究者の姿勢とモラル」
新谷洋人 富士通ネットワークエンジニアリング株式会社九州事業所
「河川情報システムの動向とデータベース整備への課題(仮題)」
澤田典靖  (株)建設技術研究所大阪支社河川本部
「コンサルタント業務におけるデータベースについて」
竹内邦良 山梨大学工学部 (都合により宝が報告)
「アジア・太平洋FRIENDを含む IHP-V の活動について」
中根和郎 防災科学技術研究所気圏・水圏地球科学技術研究部
「タイのクワエノイ川流域での観測概要とデータセット作成作業」
内藤勲夫 国立天文台地球回転研究系
「日本型 GPS 気象学の構想」
総合討論

12月17日 (火) 9時〜12時

牛山素行 科学技術振興事業団
「降水量情報の基礎知識に関するホームページの開設とその利用状況について」
森山聡之 九州大学工学部
「レーダ雨量データの整備について」
有富孝一 建設省近畿地方建設局
「河川管理現場における水文観測業務について」
木下武雄  (株)水文環境
「河川流量データベース作成における第一段チェックの方法」
神野健二・メラブレン-タレク・王喜喜 九州大学工学部建設都市工学科
「福岡市の水源や、浄水場のデータベース」
山下武宣  (財)日本建設情報総合センター
「河川 GISの取り組み状況」

12月17日 (火) 13時〜15時

安部友則  (財)河川情報センター
「公開型水文・水質データベースの構築」
安陪和雄 建設省土木研究所
「GIS と RDB を用いた流域環境管理システム」
近藤昭彦 千葉大学環境リモートセンシング研究センター
「地理情報システムによる水文情報のデータベース化−千葉大学環境リモートセンシング研究センターにおける取組の紹介−」
陸 旻皎 長岡技術科学大学
「琵琶湖プロジェクトにおける観測データの整備の方法」
立川康人・椎葉充晴 京都大学防災研究所水災害研究部門
「淀川水文気象データベースの構築例」
総合討論