21世紀に向けての水資源・水環境研究国際会議報告

International Conference on Water Resources and Environment Research:

Towards the 21st Century


Dr. Smithson(オーストラリア)のキーノートスピーチの様子

 平成8年10月29日〜31日の3日間、京都平安会館において上記国際会議が開催された。30か国265名(外国人105名)の参加があり、会議の運営、論文の質の高さなど好評を得た。
 現代技術の発展とともに、今世紀における水資源の研究は多大な発展を遂げ、社会の発展に大いに貢献してきた。しかし、21世紀を迎えるこの時期、地球規模から地域規棋および超長期的から短期的枠組みに至る様々な複雑・困難な間題に直面している。本国際会議は、先進国から開発途上国にわたる水資源に携わる科学者、技術者、現場のエキスパートに至るすべての関係者に対して、自然・社会システムの新知識や技術を用いて、来るべき世紀に対する挑戦や新たなテーマについて議論するという貴重な機会を提供することを目的として開催された。
 京都大学工学部高棹琢馬教授を組織委員長に組織委貝会を構成し、京都大学防災研究所水資源研究センターが事務局をつとめ、あわせて国内外52名からなるInternational Scientific Committeeも設けた。 平成7年12月10日締切でCall for paperを求めたところ441編のアブストラクトが届けられ、その内273編を採択した。
 採択された273編のフルペーパーをさらにInternational Scientific Committeeのメンバーを中心に査読し、189編を採択、最終的には170編の論文がroceedings;vol.1およびvol.2に編集された。総ページ数は1427ページに及ぶ。 Vol.lではDistributed Modelling、Land-Atmospheric Interaction、Scale Issues、Stochastic and Statistical Approaches、Forecasting、Monitoring Systems and GISを、Vol.2 ではDecision Support Systems、Environmental Management、Human and Social Systems、Climate Change、Sustenable Developmentをセクション名として、それぞれに関連する論文が85編ずつおさめられている。これらの論文はオーラルセッションとポスターセッションに分けて発表され、それぞれがプログラム上連携されるとともに、ジオ・ソシオ・エコシステムの研究が相互連携して議論できる場の捉供を図った。
 本会議はまず、高棹琢馬組織委貝長のOpening Address(本稿末に概要を日本語版で掲載しておく)で始まった。Water Crisisの認識とそれへの挑戦が訴えられた。また、各日の最初のセッションで下記3名の著名な学者を招待し、Keynote Addressをお願いした。いずれもglobalism、sustenable development、complianceなどへの水間題のパラダイムシフトやジレンマの視点が強調された。

第1日目:Gert A.Schultz (Ruhr Univ., Germany), A change of paradigm inenvironmental and water sciences at the turn of the century?

第2日目:Michael Smithson (James Cook Univ., Australia),Dilemmas in waterresource management.

第3日目:Uri Shamir (Israel Institute of Techno-logy, Israel), Sustenable‐management of water resources.

 最終日にはNew Research Directions,Focusing on Interdisciplinary Approachesをテーマにパネルディスカッションをおこなった。京都大学防災研究所の池淵周一・岡田憲夫をそれぞれModerator、Co-moderatorとして、K. W. Hipel (University of Waterloo, Canada)、N. N. Mitina (Water Problems Institute, Russia)、G. A. Schultz、U. Shamir、M. Smithson、T. Sugiman (Kyoto Univ., Japan)、J. Xia (Wuhan University of Hydraulic and Electric Engineering, China)各パネラーから、それぞれ本会議で発表された論文等の講評もまじえ、上記テーマをふまえたWhat are the challenging subjects towards the 2lst century?をパネラー同志はもとより会場との意見交換で活発におこなわれ、2時問30分をこえる熱心さであった。

 本会議が参加者にとって水間題の考え方、アプローチにパラダイムシフト、ジレンマの存在を認織させ、それへの解決に挑戦する態度を生み出したとすれば大きな収穫であったと碓信する。バンケットでは日本文化の伝統をイメージする和太鼓がたたかれ、国内外の参加者が太鼓を打ちならす乱舞は国際会議のフィナーレとして実に印象深かった。オーストラリアのSmithson、Dandyなどがもし可能ならこうした国際会議を次回オーストラリアで企画したいとの宜言もあり、会場から大きな拍手があった。 最後に、本会議を運営するにあたり多くの機関・団体から賛助をいただいた。ここに厚くお礼申し上げる。なお、本国際会議に引き続き、11月1日に4つのワークショップが会場を京大会館に移しておこなわれた。



【高樟琢馬組織委員長のOpening Address】
 地球は水の惑星であり、大気に含まれる水分は、気相・液相・固相と相変化し、その過程で熱エネルギーや水の循環が発生する。三相をもち、生命体をもつという意味では、現在のところこの惑星が唯一の水の惑星といってよい。地球は太陽との距離、角速度からみて、生命体が発生・生存しやすく、またこの運動と連動して、水の循環が全球的・地域的に発生し、これが人間を含む生命体の発生・生存と決定的に係わっている。
 ところで、近年、人問の行為・営為の激しさから、エネルギー・水の循環と人間活動との関連が著しく強くなり、その結果様々のいわゆる“地球環境問題”が深刻になってきた。すなわち、地球の温暖化、砂漠化、酸性雨、オゾン層破壊、都市ヒートの発生、大気・水の汚染等いわゆる地球の水環境が激変してきて、“2l世紀における水の危機Water Crisis”が指摘されるようになってきている。
 量・質を含めた水と熱エネルギーの分布と循環の変異は人類にとってまことに重大であって、地球環境問題といえぱ、その核心は水と熱エネルギーの循環変異にあるといってよい。
 最近国連のある機関が、20世紀の人類の戦争は石油に起因していたが、21世紀はそれが水に移ると言っているのは決して誇張ではない。2l世紀における水のCrisisには2つの型がある。
 一つは水循環と人間活動との関連で生ずる実態的危機である。産業の発展、人口の増加、都市化は産業革命以来著しくなり、とくにこの約10年は全球的にそれが急速かつ激しくなり、その結果、先に述ベた様々の地球環境間題が深刻になってきているわけである。こうして、人口、環境、開発あるいは成長・資源・環境のトリレンマを抱えつつ我々は21世紀に入っていかねばならない。そして、その背景には水と人類活動との実態的危機が大きく存在するのである。
 いま一つの危機は、人間の思索の危機である。第一の実態的危機の解決に当たるのは人間の思索の結果である科学・技術であって、そのfieldは広い意味での“Hydrology”と呼ばれている。UNESCOの定義によれば、今日のHydrologyは地球の水の分布・循環構造を明らかにし、かつそれと人間活動との関連をも明確にする科学的分野とされており、それは今日一般的な定義になっている。
 水の分布・循環に及ぼす人間活動を無視できた場合には、すなわち太陽と地球と水の関係から、水分布・循環のモデル(大循環・局所的循環)を構築することは、現象がPeriodically Stochasticであり、Stochastic Processに内在するDeterministic Partを限りなく明らかにしていけば、White Box Modelが作られるという楽観的なpositionに立つことができた。さらに、これらのモデルに基づいて、水の分布・循環を分析・予測でき、さらにこれらの現象を人工的にコントロールすることが可能となり、Hydrologistは人類として水問題に苦しむ途上国の人達にContributeできると確信することができた。
 ところが、第一の危機で述べたように、自然の水分布・循環と人間活動とを切り離して考えることができず、さらには人為的対策がある意味では水循環を変化させるということになれば、我々のモデルに人間活動のpartを組み込む必要が出てきた。その結果、我々の対象とする現象のモデル化は困難になり、何よりもModel Buildingに当たって、パラダイムシフトが要求されてくる。
 それは本質的な困難さをもっているがゆえに、この学間fieldはここ約10年来脱出をはかってきたものの結論主義、Black Box-ismに容易に堕す恐れがある。今日の先端的な観測システム、情報収集・配分システムの整備やあらゆる立場でのComputerizationは、自然−人間系の現象をマニュアル的に分析する傾向が強くなり、先に述べたBlack Box-ismを助長する恐れすら考え得る。
 このことは極論にいえば、思考停止すなわち、Radicalに考えることを止めることにつながりかねない。これは科学的判断の衰退につながる可能性のあることを意味する。これが第二の危機である。
 わたしは、この会議がこれらの間題解決の手法堤示に第一歩を踏み出すことを強く期待する。水間題は地球規模的であるとともにすぐれて地域的である。その意味でこの会議に世界約30カ国からの専門家が集まったことは、この会議で扱う問題が国際的であるということを示している。Bird's eyeとInsect's eyeの両者をもって率直に議論し、Cheerfulshipをつくり、今後の長い交流の基礎をつくってもらいたいと思う。

 本国際会議の内容やproceedingsの購入などは下記に電話あるいはFAXにてお間い合わせ下さい。

問い合わせ先:京都大学防災研究所附属水資源研究センター 池淵周一(国際会議事務局長)
                (TEL:0774-38-4250、FAX:0774-32-3093)

                             水資源研究センター 池淵周一