ユネスコと京都大学防災研究所の間の合意覚え書き

「21世紀の最初の四半世紀における環境保護と持続できる開発の鍵としての地すべり危険度軽減と文化・自然遺産保護のための研究協力」


1.ユネスコ・京都大学防災研究所合意覚え書きの経緯
 ユネスコ・国際地質科学連合合同プロジェクトである国際地質対比計画のひとつとして,現在,IGCP-425「文化遺産及び社会的価値の高い地区における地すべり災害予測と軽減」のプロジェクト(Project Leader:京都大学防災研究所・佐々恭二)が,推進されている.平成11年9月20-24日には,ユネスコ本部のボンバンビル第13会議室においてIGCP-425の会議が開催され,IGCP-425のサブプロジェクト実施国を中心に12ヶ国から33名が参加した(DPRI Newsletter.No.14).この会議に出席した研究者の間で,地すべり危険度軽減と文化遺産を地すべりから守るための研究をより一層強力に推進するための基盤整備として,斜面災害研究の推進のための国際的協力組織やその核となりうる斜面災害研究センター構想等について議論された.種々の議論の結果,直ちに取り組む課題として,ユネスコとIGCP-425の研究代表の所属する京都大学防災研究所あるいは日本の斜面災害研究グループの間で研究推進に関する合意書をとりまとめるよう努力することが合意された.この合意に基づいて,ユネスコ地球科学部Eder, 同文化遺産部・野口英雄,IGCP委員長Derbyshire教授,佐々恭二が,その合意書案の検討を行ない,その際,ユネスコ科学セクター(地球科学部,水科学部,環境計画調整局,生態科学部),文化セクター・文化遺産部,世界遺産センターの支持も得て,最終案(前掲)が作成され,ユネスコ事務局長のサイン(1996年11月26日)と池淵周一防災研究所長のサイン(1999年12月3日)により,合意覚え書きが発効した.

松浦晃一郎事務局長の代理として来日されたユネスコ地球科学部長Wolfgang Eder氏
と池淵周一所長による合意覚え書き交換(平成11年12月3日)


ユネスコ−京都大学防災研究所合意覚え書き抄訳

 国連教育科学文化機関(以下、UNESCOと略称)事務局長 松浦晃一郎、京都大学防災研究所(以下、DPRIと略称)所長池淵周一は、両機関の共通の目的のひとつは、地すべり災害危険度軽減と文化・自然遺産及びその他の人類の壊れやすい資産の保護であると考える。
 環境保護と持続できる開発の必要性は21世紀にさらに緊急度を増し、世界の人口増加、都市化の増大、および山地開発は種々のタイプの地すべり災害の危険度を拡大させるに違いない。ここで用いる「地すべり」とは、重力に起因する土、岩とその混合物の塊としての運動であり、岩盤崩落、岩盤/土砂崩壊、岩盤/土砂すべり、土石流とアースフロー、火山性の泥流及び火砕流、水平伸張、時には津波を引き起こす沿岸・海底地すべりを含む。
 著しい地域開発を伴う人口増加と経済成長を受け入れるためには、地すべり現象のプロセス、メカニズム及びダイナミクスの理解の進展が不可欠である。ほとんどの地すべり現象は土木工事によりその発生を防止することが可能であるが,地すべりの危険性のある斜面の膨大な数に比べると地すべり現象の発生を防止するために動員できる予算や資源には限りがある。以上のことから、地すべり危険度軽減と文化・自然遺産保護のための研究の推進に向けて合同イニシアチブを発揮できることを願い,次の項目に合意した.(第I−X項 省略)


2.ユネスコ−防災研究所・研究協力事業
 上記合意覚え書きに基づく研究協力として,現在,IGCP-425の主要なサブプロジェクトであるペルー国にあるインカのマチュピチュ遺跡(文化と自然の両面から世界遺産に登録されている)が,中心的協力研究プロジェクトとして検討されている.平成12年3月12日から23日までペルー国文化庁(INC),ペルー地球物理学研究所(IGP)の協力を得て,佐々恭二,福岡 浩,守随治雄の3名がIGPの石塚睦氏とともにマチュピチュ遺跡の現地調査を行った.写真はペルー文化庁の特別許可を得て,マチュピチュ上空にチャーター・ヘリコプターを飛ばせて撮影したものである.調査の結果,険しい岩山の尾根部に建設されているこのインカの都市遺跡が,実は大規模岩盤地すべりで形成された土壌と滑落崖から吹き出した地下水を利用して建設されていると推定されること,前面斜面は層すべり,背面斜面は岩盤崩落の危険に晒されていること,都市遺跡中央の平坦部は,地すべり前兆現象として知られる二重山稜地形をしており,その延長上では遺跡が破壊されていることから,変形が現在進行中である可能性があり,地すべり危険度予測のために詳細な地形地質調査,ボーリング調査,移動計測の計画を立案し,現在この計画の予算化の検討がなされている.