施設紹介

強震応答実験室

STRONG EARTHQUAKEC RESPONSE SIMULATOR



表1 性能表

はじめに

 1995年兵庫県南部地震による阪神・淡路大震災は、建築構造物・都市施設に甚大な被害をもたらした。このような構造物等の大被害は、水平動とともに強い上下動が作用したこと、構造上の弱点に被害が集中したこと、震動による地盤の液状化や側方流動に伴う構造物の被害が発生したことなどが要因として指摘されている。また、従来は想定し得なかったような被害現象が見られたことも挙がられる。  構造物等の地震応答性状とともに被害原因を究明し、信頼性の高い耐震設計法、耐震補強法、さらに地震応答制御法を開発することが要請された。それには、強震動を受けた構造物の地震応答ならびに損傷過程などの実現象を忠実に再現することが不可欠となり、3次元的地震動を入力でき、かつ、実構造物や実地盤に近い模型の強震応答状態を再現し得る実験装置の導入が図られ、強震応答実験装置が京都大学防災研究所に平成7年度に設置された。


強震応答実験装置の概要

 本強震応答実験装置装置は、水平方向2軸(X,Y軸)と上下方向(Z軸)の振動および各軸回りの回転動(θx,θy,θz)が同時あるいは単独に加振可能な3次元6自由度の振動台システム、加振実験と数値計算とが実時間で結合可能な動的アクチュエータシステム、これら振動台システムと動的アクチュエータに共通の油圧源装置とデータ計測解析システムにより構成されている。図1に装置全体の構成を示す。


強震応答実験装置の特徴

 3次元振動台は、複雑な構造物系に強震動が作用したときの応答を精度よく再現する装置であり、縮小模型による全体構造物系の強震応答、実大模型による構造物および部分構造に対する加振実験が可能である。その性能は、表1に示す。特に、加速度のみならず、大きな速度の強震動にも対応可能であり、各軸とも正弦波連続加振時の最大速度は±50cm/sであるが、アキュムレータを用いることによって、神戸海洋気象台で観測された1995年兵庫県南部地震の実規模波形(最大加速度:水平818cm/s2、鉛直332cm/s2、最大速度:水平90cm/s、鉛直40cm/s)を3軸(X,Y,Z)同時加振において、再現可能である。  動的アクチュエータは、単独に準静的あるいは準動的加力装置として機能することは当然であるが、2台の動的アクチュエータを連動させた実験が可能であり、さらに、連成制御装置を用いることにより、加振実験と数値計算とを実時間で結合し、部分構造の加振実験による構造物の耐震実験が可能である。


強震応答実験装置による研究課題

本装置は、設置以来、多くの実験的研究に用いられており、国内外の地震防災上の重要、緊急課題の解明に大きく寄与している。実施された主な研究課題を列挙すると、(1)木造建物の地震時応答と動的崩壊原因の究明、(2)水平・上下3成分同時地震動による構造物の安全性評価、(3)構造物の接合部など部分構造の動的破壊の原因究明、(4)制震システムと地震応答制御法に関する新技術の開発と検証実験、(5)構造物・機器連成系の地震時挙動の解明と重要機器の安全対策、(6)地盤・構造物連成系の応答性状の解明、(7)粘性ダンパー・履歴系ダンパーの開発と既存建物の耐震補強法の開発などであり、非線形応答解析や制御理論などの妥当性の検証や従来実験的な評価が困難であった事象の解明などに本装置は利用され、耐震工学上の新たな発展に寄与している。

 以下に、筆者が係わった研究の一部を紹介する。

写真1 建物模型を用いた制震実験
図2 制震実験用建物模型 写真2 2階建木造住宅の実大実験


制震システムの開発

 阪神・淡路大震災において、通信施設や緊急施設など都市重要施設における機能が破壊され社会的な問題となり、建築物の構造的性能が、安全性のみならず機能性の確保をも要請されている。ここでは、大地震時にも適用し得る制御効率の良いアクティブ制震システムの開発と模型構造物を用いた振動台実験による検証を実施し、制震システムの技術向上を計った。制震装置としてアクティブ・マス・ダンパー2台を搭載した建物模型(写真1)を用いて、制御アルゴリズム、特に制震装置の性能限界を制約条件とし、また高次モードにも対応できる制御アルゴリズムの開発を行った。

風や地震に対する建築物の安全性や機能性の他に居住性の問題も高層化が進むにつれて、大きな社会問題に発展すると考えられる。このような問題に対する有効な方策として制震システムが組み込まれた制震構造物の早期実現が望まれる。


木造住宅の実大振動実験による耐震性能評価

 わが国においては、住宅の多くが木造軸組構法によって建てられており、阪神淡路大震災でも大きな被害を受けた。しかしながら、日本の気候風土や地域文化から見て木造軸組構法は日本人の生活に根付いており、これからも住宅の基本的な構造形式として存続していくものと考えられる。ここでは、在来構工法の一般的な構造要素である軸組、筋かい、土壁、大壁など木構造の基本的なところから構造力学的な解明を目指し、2階建木造軸組を数棟建設して、一連の実大振動実験を実施している(写真2)。

伝統木造軸組の実大振動実験

 わが国の伝統的な木造建築は、軸組構法を主要な構法として育まれてきたが、構法の複雑さと木材の不均質性・不確定性ゆえに、構造力学的な解析が極めて難しく、詳細な構造解析がなされず、あいまいなままにされてきた。その結果、永年にわたる大工棟梁の知恵が積み重なって築かれた構法が構造力学的に解明されていない。ここでは、伝統木造軸組構造の実大振動実験を実施して、伝統木造建築が持つ構造力学的なメカニズムを調べ、伝統木造に組み込まれた大工棟梁の匠の技法を解明することによって、伝統的木造建築の保存・修復技術へ応用するとともに現代の木造建築に活かすことを目的としている。
 本研究では、伝統木造建築のモデルを想定して実物大の試験体を製作し、振動実験を実施した(写真3)。


なお、本研究は、日本建築学会「木構造と木造文化の再構築」特別研究委員会(http://zeisei5.dpri.kyoto-u.ac.jp/data/index.htm)における研究活動の一環として行っており、木造建築物の一連の実験は、関連の多くの方々に見学していただくことは、有意義なことと考え、公開を行っている。
図 木造住宅試験体の立面図
写真3 伝統木造軸組の実大試験
図3 伝統木造軸組試験体の立面図

(総合防災研究部門 鈴木祥之)