「流域不安定土砂の生産・流出予測と流域一貫安定化法の展望」

共同研究集会(一般)9K−6


     日 時:平成9年10月31日(金) 午前9時〜午後5時30分
     場 所:防災研究所附属災害観測研究センター穂高砂防観測所
     参加者:19名

 本共同研究集会は、昨年度共同研究集会「流砂現象と地形変動から見た土砂環境問題」における討論の中で浮かぴ上がった「流域不安定土砂」に注目して、その生産・流出の機構、流域を一貫する土砂管理・安定化法を探ることを目的としたものである。構成メンバ一は、昨年度集会参加者を中心に長期地形変動及び流域土砂動態に詳しい研究者を新たに加えることにし、合計19名の参加をみた。
 17件の話題提供が行われ、各研究に関して熱心な討論が行われた。これらの話題は、
(1)流域土砂収支の実態、(2)個別土砂流動現象一土石流、
(3)個別土砂流動現象一微細土砂流出、(4)個別土砂流動現象一河口堆積、
(5)地形形成の実験とモデル、〈6)流砂量計測法、
(7)人工洪水による土砂管理、にわたり広く集会テーマを網羅するものとなった。
 (1)の話題に例を取り内容を示す。
 清水(北海道大学農学部)は、沙流川流域における30年超豪雨による土砂流出事例をもとに単一イベントの土砂収支解析を示し、斜面が最大の、低次流路がこれにつぐ侵食場として機能し、高次流路が緩勾配広幅河床空間によって効果的滞留場として機能すること、土砂は移動期と滞留期をくり返しある時間をかけて流域内を輸送されることを示した。これらの時間スケールを理解するために樹木年輪年代法が有カな方法であり、結果的に、土砂滞留時間が大規模・低頻度イベント発生流域で約60年、中規模・高頻度流域で約5年であることを報告した。
 石川(京都府立大学農学部)は、輸送士砂の粒径分布・密度変化の把握に重点を置いて1995年の姫川流域で発生した大規模な土砂移動現象を調査し、地山、崩積土、支川河床堆積物、本川河床堆積物と下流に土砂が移動するにつれて細粒土砂の含有割合が急速に低下し、また土砂密度が増加することを示した。これらの研究は、河床不安定土砂の実態とその変動時間スケール及び質の変化を明確にとらえたものであり大きな注目を集めた。
 1日で17件の話題提供を行う単独集会では、互いに情報交換を行うだけで手がいっぱいになるところがあり、集会として高度の成果を得ることは難しいが、本集会は、昨年度の成果の上に立って行われ、以下の点で全体の認識を高めることができた。すなわち、流域を一貫して土砂移動をとらえる場合、短期のイベントとして生じる斜面及び低次河道における崩壊・土石流発生、その土砂の高次河道(下流域)での滞留、滞留土砂の不安定度に対応した再移動(再侵食・再堆積)、というマクロな空間・時間スケールの認識が重要であること、さらに、このスケールの一段下にステップ&プールなど士砂輸送を規定するさまざまなスケールの要因が存在することが確認された。また、土砂流動の合理的な人工コントロールを行うためには、個々の流域の地質・地形・歴史過程をふまえた調査に基づく変動スケールの正確な認識を進める必要があること、土砂流動の力学過程について一層研究を深める必要があること、などが確認された。