図1はチャーターしたヘリから佐々が撮影した全景である。フィリピン断層に沿う山脈の山稜付近まで含む大規模な地すべりが生じ、斜面下 に流下し広範囲に堆積し、ギンサウゴンの集落を直撃して大規模な災害となった。堆積域には高さが20mを越える流山(ながれやま)が多く 残っている一方、大量の水を含み、ぬかるんで歩きにくい部分がまだ多く残っている。地すべり斜面にはフィリピン断層とその副断層が平行に 2本走っており、地すべり発生後の谷筋もぎくしゃくと屈曲しており、単一の地すべりブロックではないようである。また、フィリピン断層の副断層 が切る部分で2次的な小地すべりが発生している(A点)。 図2は、現地で実施した測量(地上レーザースキャナーによる地すべり全域の測量及びとノンミラートータルステーションによる測量)の結果 及びスペースシャトルが合成開口レーダーで測定した地形図(SRTM)との比較より、中央断面を求めたものである。地すべりの最大深度は 100m以上と推定される。運動時に発揮された見かけの摩擦角は、約10度である。この値は、運動中のすべり面が液状化に近い状態になる 現象(すべり面液状化現象)が発生したことを示している。また、地すべりの総土量は、合同調査団の消防研究所のサブグループの測量と SRTM との比較に基づく推定によれば2,100万m3(東京ドームの約17個分)であり、1984年の長野県西部地震の際に発生した御岳山の大崩壊 の2/3程度の大規模地すべりであることが示された。 |
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図2 発生前後の地すべり縦断面図。 赤色メッシュは発生域、青色メッシュは堆積域を示す。 |
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図3 地すべり源頭部に露出した岩盤(撮影:佐々)。亀裂が少なくこの岩盤が難透水層となり、この上に地下水 が滞水し、上部に乗っている礫混じり火山性堆積物層の底面で滑ったと想定される。 |
図3は地すべり源頭部の写真である。写真の中央に平板状に分布しているものは火山性の岩盤である。地すべり源頭部の斜面は、基本的
には古い時代(第三紀)の火山性の岩盤の上に、礫混じりの土砂状あるいは風化した岩盤状の火山性堆積物が乗っており、さらに上部に
細粒の火山性の砂質土層が堆積していた。これらの土層が種々のタイプの地すべり(landslides)により移動して堆積した二次堆積物が各所に
存在する。図3の中央右より(左岸側のA点)に火山性堆積物内で二次的に発生した小地すべりが認められるが、この火山性堆積物が、
左岸側に発生した2次的小地すべりから右岸側まで連続して分布していることが認められた。地すべりのすべり面は、透水性の低い火山性の
岩盤の上に地下水が滞水し、その上に乗っている火山性堆積物を飽和させ、おそらくその最下部にすべり面が形成されたものと推定される。
地すべりの発生の主な原因は降雨によるものであるが、現地での聞き取り調査の結果から、2月17日10時36分に現地の近傍で発生した 地震が、地すべり発生の直接の誘因になった可能性があることがわかった。この地震はマグニチュード2.6、震源位置は地すべりから約21km、 深さ8kmと報じられていたが、フィリピン火山地震研究所が再度その地震計ネットワークのデータを再検討した結果、モーメントマグニチュード (Mw)3.7と発表された。東大地震研究所・古村助教授に現地の地形に基づき震源位置からの減衰、山地での増幅をシミュレーションして いただき、山脈の稜線上で概ね1.5〜2.0倍程度の地震力が載荷された可能性があることがわかった。 地震と地すべりの関係については、地すべり発生の正確な時間が不明であったたが、建設中だった2階建ての家で作業に従事していた 大工(4人)が、地すべり発生当日の10:30分頃からその2階で休憩していたところ、地震動が発生し、斜面を見たところ中腹に比較的小さな 地すべりが発生しているのが見え、1階におりて再び斜面を見たところ大きな地すべりが発生しているのが見えたので、急いで家を飛び出し 川の方向へ逃げ、木に登って3名が助かり、一人が逃げ切れなくて死亡したという証言が得られ、地震が地すべりの直接の誘因であるとの 心証が得られた。現在、地震記録からの確認作業を行っている。 斜面災害研究センターの地震時地すべり再現試験機で発生メカニズムを調べるため、土砂サンプルを採取した(図4)。この他、地すべり 源頭部に残った火山性堆積物層や、堆積域の末端でも掘削し、地すべり土塊とその下に埋まっていた水田の稲を確認後、さらに下の水田の 土(降下火山灰層と思われる材料)からもサンプルを採取した。地すべり再現試験は、斜面災害研究センターの地すべり再現試験機6号機 (最大の試験機)を用いて実施した。試験条件として、すべり面深さ約45m、斜面勾配30度の土層内で地下水が上昇してくる場合を再現した。 条件に相当する垂直応力とせん断応力で圧密し、水位上昇前の状態を再現し、続いてせん断箱内の水圧を徐々に上昇させることにより降雨 による地下水位上昇を再現した。試験結果を図6に示す。水がすべり面より上20mまで来たときに地すべりが発生し、高速せん断が始まった。 せん断箱の上部を解放したまません断させる部分排水状態で実施したが、せん断開始後の過剰間隙水圧上昇速度は極めて高く、その影響が せん断ゾーンからの過剰間隙水圧発散速度より大きいため、高い間隙水圧が蓄積された。その為に定常状態で発揮された見かけの摩擦角 は2度と極めて小さな値になった。一方、破壊時に発揮された摩擦角は39度であり、強度の大きな材料であることを示した。運動中に発揮 される見かけの摩擦角は、わずか2度と小さな値であったことは、斜面直下の住民がひとりも避難できなかった高速運動の原因を十分説明 できる結果である。水位上昇後の小規模地震による地すべり発生実験を現在行っている。 |
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図6 地下水位上昇による地すべり再現試験の結果。 左:応力経路、右:破壊前後の経時変化。 |