アジアモンスーン・エネルギー水循環観測研究計画

(GAME: GEWEX Asian Monsoon Experiment)

 平成8年度から12年度の5か年間にわたり、文部省国際共同研究特別事業GAMEが実施される。京都大学防災研究所からは、大気災害部門、水災害部門、水資源研究センターがこの共同研究に参加する。
 GAMEは正式名称を「GEWEX Asian Monsoon Experiment(アジアモンスーンエネルギー水循環観測研究計画)」と言い、WCRP(世界気候研究計画)の一環として世界の各地域で実施されている全球エネルギー水循環研究計画(GEWEX Global Energy and Water Cycle Experiment)の地域研究計画の1つである。GEWEXは、地球の気候システムとその変動を支配する熱エネルギーと水の全球的な循環と大気・陸面・海洋の間での交換過程を、衛星観測も含めた全球的な観測体制の構築とモデリングを通して解明しようという研究計画である。地域観測研究はGEWEXの中でも特に重要な位置を占めており、MAGS(カナダ、マッケンジー河流域)、GCIP(ミシシッピ河流域)、LAMBADA(アマゾン河流域)、BALTEX(バルト海沿岸地域)等の研究計画が、GAMEと並行して進行中である。
 GAMEは、「アジア大陸とその周辺海洋でのエネルギー水循環の理解を通じて、アジアモンスーンが地球のエネルギー水循環に果たす役割を解明するとともに、モンスーンの変動を引き起こす機構を明らかにし、モンスーンによる降水量の長期予測技術の研究を実施し、それに基づく水資源への影響評価の物理的基礎を築くこと」を目的として測地学審議会により建議されたものである。アジア大陸では、大陸と周囲の海洋との間の季節的な加熱・冷却の大きな差によって、夏と冬で地上風系が大きく入れ替わる季節風(モンスーン)が卓越している。モンスーンに伴う降水は、大きな恵みとなる一方で、時には重大な自然災害を引き起こす原因となっており、その消長を予測するための科学的知識の集積と予測技術の開発はアジア地域の繁栄にとっては避けて通れない課題である。  GAMEでは以下の4課題を具体的な研究項目として研究が進められる。
(1)大陸スケールの放射収支・熱収支の広域的・ 長期的観測研究
(2)典型的な状況にある4つの地域での集中観測によるエネルギー水循環過程の研究
  1)湿潤熱帯モンスーン地域
  2)亜熱帯・温帯モンスーン地域
  3)チベット高原地域
  4)シベリア永久凍土地域
(3)4次元データ同化・解析と数値モデリング
(4)GAMEアーカイブ情報ネットワークの構築

 このなかで、中国華中の准河流域で実施される亜熱帯・温帯モンスーン地域研究には、防災研究・所の水災害部門と水資源研究センターが参加する。この地域は夏のアジアモンスーンの特徴の1つである梅雨前線が形成される地域であり、様々なスケールの降水システムが複雑な大気・陸面過程の影響を受けつつ機能している地域である。国内の他研究機関、中国の関係機関と協力して、レーダー、高層ゾンデ等により、裸地、耕地、山地などを含む広域の観測を行い、梅雨前線における降水システムを中心に、大気・陸面間のエネルギー水循環の研究が進められる。この地域はまた既存の気象・水文観測網の整備が充実している地域であり、最新の水文モデルを適用し、モデルの改良・検証を行い、大気大循環モデルのサブモデルとしての陸面過程モデルを確立できる格好のフィールドとして期待されている。
 チベット高原地域は、准河流域とは逆に既存の観測が最も希薄な地域である。チベット高原は対流圏中層にまで突き出たその特異な地形の力学効果と地表面からの加熱により、モンスーン循環の形成と維持に重要な役割を果たしていると指摘されている。特に夏に向かう季節においては、雪氷圏の大小が、反射や融雪過程(凍土の融解過程)をとおして陸面から大気へのエネルギー輸送量を変化させ、モンスーンの年々変動に影響を与えていると推定されており、この時期の潜熱、顕熱輸送を定量的に把握することは極めて重要な課題となっている。チベット高原での観測は、中国国家気象局による観測計画TIPEXと協同して実施され、防災研究所大気災箒部門はこれに参加し、東チベットのサルウィン河流域において、陸面一大気間のエネルギー・水輸送量の直接観測、放射収支観測、メソγスケールの気象観測を実施し、チベット高原の地空相互作用の定量的解明を試みる。また、他の日本側研究機関により、ドッフラーレーダによる降水観測、ゾンデによる大気境界層・自由大気観測、土壌水分観測等も実施される。