防災研究所研究一般集会15K-05

「長周期イベントの理解へ向けての現状と今後」

 平成15年12月15日と16日の両日、化学研究所共同研究棟大セミナー室において、表記の研究集会(研究代表者:東京大学地震研究所助手 中尾茂)を開催した。プレート境界ダイナミクスの理解という意味でも、地震予知という意味でも、通常の地震でない異常に時定数の長い事件の重要性が広く認識されるようになった。それと共に、そのような異常事件を観測するツールである国土地理院のGEONETのGPSや大学の地殻変動連続観測の重要性が改めて認識されつつあるように思われる。発表内容は多岐に渡ったが、大きく、下記の3つに分けることが出来る。
(1)長周期変動の観測事例報告
 1994年三陸沖地震で、長周期地震波を強く励起したアスペリティと時定数数ヶ月の余効すべりが空間的に棲み分けていることや、メキシコ西海岸のプレート境界で1昨年起こったサイズ数100kmの大サイレント地震の事例などの報告があった。
 また、通常の地震ではあるが、2003年9月十勝沖地震の時、図1の様に、北大理学部の広尾観測点の伸縮計は、世界で初めての1波長内の、周期訳30秒の長周期 near-field 波形を捉えたことが報告された。
伸縮計記録は、このように、震源過程の全体像を直接とらえており、これこそ真のリアルタイム地震学と言えよう。
(2)数値シミュレーション
 断層摩擦の物理法則にもとづく数値シミュレーションによって長周期イベントを再現かのうであることが報告された。それによると、長周期イベントは、大地震発生に先立つ脆性・塑性境界の不安定すべりである可能性が高い。
(3)長周期変動の観測手法と観測網
 東海GPSアレイや、超伝導重力計ネットワーク、神岡レーザー伸縮計、海底地殻変動などの観測手法と観測網の報告があった。出来たばかりの神岡レーザー伸縮計は、10のマイナス13乗の歪みという画期的な情報をもたらしてくれる可能性を秘めている。
 以上に言及したほか、多くの興味深い発表があった。観測テクノロジーの発展と共に、この分野の研究が21世紀に入って新しいステージに入ったことを痛感させられた。

図1 2003年9月十勝沖地震の時、震源域ごく近傍の北大理学部の広尾観測点の伸縮計記録。横軸の1目盛りは30秒。

(地震予知研究センター 川崎一朗)