共同研究15G-12

台風に関する研究会報告

 平成15年度防災研究所一般共同研究15P−12「台風のライフサイクルに関する総合的な調査・研究」(代表・京都大学大学院理学研究科・余田成男)の活動の一環として,平成15年11月12−13日に宇治キャンパスで開催しました.「『台風』をキーワードとして,気象学的な台風の構造やメカニズムだけでなく,防災科学や風工学の立場から台風災害の実態や現地調査報告を含めた幅広い議論を進めることで,いろいろな立場の台風研究者の異業種交流の場として,台風研究のお互いの理解を深めよう.」というのが,この研究会の目的です.出席者は2日間で延べ120名に達し,「台風」に対する興味や意識の高さを示しています.
 基調講演では,台風の研究者の第一人者の栗原宜夫氏((財)地球フロンティア・上級研究員)に,「台風はどこまで強くなれるか?」と題して,ご講演をしていただきました.台風について基本的な概念から,地球温暖化に伴って台風の発生頻度や強さがどのように変わっていくのかについてまで,観測・解析事実や数値シミュレーションの結果に基づいてご講演いただきました.一般講演では,気象庁・太平洋台風センターの萬納寺信崇氏,気象研究所の中澤哲夫氏,別所康太郎氏から,気象庁での台風に対するり組み,地上や衛星搭載のマイクロ波探査計による観測についての発表がありました.さらに,現在の台風研究のなかで大きな話題である「台風の内部の構造」ついて,京都大学理学研究科の余田成男氏と石垣島地方気象台の栽吉信氏による「沖縄で観測される台風内部でのメソ渦の観測とその数値シミュレーションの結果」,防衛大学校の板野稔久氏による「台風の目の変形」についての報告など興味深い発表がなされました.とくに,栽吉信氏は,沖縄の石垣島で,台風の成熟期の台風に対して,台風の眼の形成やメソ渦など,本土付近では見られない台風の成熟期の興味深い観測事実を示していただきました.
 防災科学や風工学の立場からは,「沖縄の宮古島を通過して,最大瞬間風速74.1ms-1を記録した台風0314号(マミエ)の現地調査」(建築研究所・奥田泰雄氏ら),「九州の電力送電線鉄塔に取り付けた気象観測ネットワークを利用した台風観測結果」(九州大学・前田潤滋氏ら)などの発表がありました.この台風0314号の宮古島での現地調査は,防災研究所・井上和也所長のご配慮のもとで,防災研究所でも現地調査(代表・林 泰一)を行いました.宮古島の台風について,過去の第2宮古島台風(1966),第3宮古島台風(1968)について,防災研究所による現地調査がなされているので,過去の台風に比較した被害実態の変化を調べることを目的としました.その結果は,2月19-20日の防災研究所研究発表会で報告いたします.さらに,メソ気象モデルの「RAMS」や「MM5」を台風に応用した結果(三菱重工・原智宏氏,京都大学理学研究科・吉野純氏)の発表があり,台風を数値モデルで再現した結果が示されました.
日本では,1959年の伊勢湾台風などに比べると,台風による被害は,はるかに減少してきましたが,世界的には台風などの熱帯性低気圧は,依然として大きな自然災害の一つです.この観点から,この台風に関する研究会は,防災研究所を中心としたいくつかの研究機関と共同して,今後,毎年定例の研究会として開催していきたいと考えています.
(附属災害観測実験センター 林 泰一)