第14回京都大学防災研究所公開講座を開催

公開講座パネルディスカッションの風景
 去る2003年(平成15年)11月21日(金),大阪建設交流館グリーンホールにおいて,第14回京都大学防災研究所公開講座を開催した.今回は,「防災情報の作成と伝達−社会が求める防災知識とは何か?−」というテーマを掲げ,6件の講義と2件の災害調査報告,および講演者らによるパネルディスカッションを行った.参加者は92名と例年にくらべやや少なかったが,最後のパネルディスカッションまでかなりの数の聴衆が熱心に聴講された.
 井上所長の挨拶に続き,午前の講演を行った.午前の部には,水・気象・地震・地盤災害に関する防災情報を作成する側の視点に立った講演を配した.まず,水災害研究部門寶馨教授が「情報社会=自己責任社会における水災害への対応」と題する講演を行った.寶先生は,最近の水災害に関する情報発信・伝達の例を踏まえ,情報社会は自己責任社会であることを認識した上で,取得した情報を知識から知恵に高めることが大事であることを指摘された.続いて,大気災害研究部門石川裕彦助教授が「公開が進む気象情報とその活用」と題して講演した.石川先生は,現在気象情報が各種メディアから簡単に得ることができるようになり,溢れる情報から有益な情報を取捨選択することの重要性と難しさを指摘された.次に,地震災害研究部門入倉孝次郎教授が「迫り来る巨大地震による被害を最小にするために −次の東南海・南海地震の揺れの予測−」と題して講演した.2003年十勝沖地震の実際の揺れと東南海・南海地震や内陸地震による強震動予測結果を紹介するとともに,予測結果を使用する際の注意点を指摘された.地盤災害研究部門井合進教授が「液状化と地盤情報 −目に見えないものを見るためには−」と題する講演を行った.液状化対策と構造物の性能設計の考え方を紹介し,あわせて構造物の接合部などの盲点を指摘された. 昼の休憩後,災害調査報告として,斜面災害研究センター佐々恭二教授が九州土砂災害について,地盤災害研究部門釜井俊孝助教授が宮城県北部地震災害について,現地の映像をふんだんに交え,土砂災害の発生メカニズムに関する考察を中心に報告された.
午後の部は,防災情報を利用する視点に立った講演を中心とした.まず,総合防災研究部門多々納裕一教授が「災害情報と減災行動 −情報伝達から知識伝達へ−」,巨大災害研究センター矢守克也助教授が「社会心理学の立場から見た災害情報」と題する講演を行った.多々納先生は,情報,特に確率情報と経済活動への活用について身近な例を引いてわかりやすく説明された.矢守先生は,政府などから公表される一般的広域的な情報・知識を,地域的な防災の知恵へカスタマイズする努力とそれへの研究者の協力が不可欠であることを強調された.
最後に講演者を交えて,パネルディスカッションを行った.パネルディスカッションでは,特に確率情報の意義やこれに対する対応について,熱心に議論した.また,会場からの「想像を超える災害はあるのか」との質問を受けて,パネリストの多くからシミュレーションが重要であるとの認識が示された.なお,パネルディスカッションの詳細については,防災研究所年報に掲載する予定である.是非ご一読いただきたい.
 例年のように参加者アンケートも行った.回収率が低かったものの,今後の公開講座のあり方について貴重な意見を伺うことが出来た.例えば,1つの講義時間をもっと長くしてもらいたい,ハード対策の話題を聞きたい,などの意見が目立った.また,大阪以外の地域での開催を希望する声もあった.これらの要望は,参加者の多くが行政や企業の防災担当者であり,これらの職種の方々に根強いものと考える.ただ,現場サイドの要望に応えることも必要であろうが,これからの防災の方向性を示すことの方が,先端的な防災研究を推進する防災研究所としてはより重要であると考える.この点は「公開講座いかにあるべきか」という根本的な問題であり,全所員の皆さんには是非ともご一考いただきたい.また,これまでにも指摘されていた参加費用について,改善を求める意見が今回も多く出されている.平成16年度の国立大学法人化を機に,公開講座の参加費用について抜本的な見直しをすべきであると考える.ご意見を行事推進専門委員会(gyoji@dpri.kyoto-u.ac.jp)へお寄せいただきたい.

行事推進専門委員会委員長 橋本 学