2回目の外部評価会議開催される

1.はじめに
 平成16年1月14日、15日の両日にわたって防災研究所の外部評価会議が開催された。これは、平成10年度の外部評価から5年度ぶりに行われたもので、国立大学法人化、研究所の改組などを目前にして、有益な評価や示唆を得る絶好の機会となった。
 今回は、9人の外部評価委員の方々に次のような観点からの評価、意見をお願いした。
・前回の外部評価の指摘事項とそれに対する自己評価
・将来の研究展望と進むべき方向
・研究資源の更新および活用
  大学附置研究所として
  全国共同利用研究所として
  国際的研究・連携拠点として(とくにアジア太平洋地域において)
・防災研究所の意義を高めるには

2.外部評価委員
 9人の外部評価委員は以下の通りである(敬称略)。
  片山恒雄 (独法)防災科学技術研究所理事長
  道上正規 鳥取大学長(15日のみ出席)
  伊藤和明 NPO法人 防災情報機構
  藤野陽三 東京大学大学院工学研究科教授
  金森博雄 カリフォルニア工科大学教授
             (書面評価のみ)
  Stephan J. Burges 
      ワシントン大学土木環境学科教授
  Ben Wisner ロンドン大学経済学部主任研究員
  Keith W. Hipel ウォータール大学工学部教授
  Wang Jiemin 岡山大学生物資源研究所客員教授
   (中国科学院寒区旱区環境興工程研究所教授)

3.評価資料の準備
 平成10年度に外部評価を一度受けているので、今回は、まず、そのときに頂いた評価(改善指摘事項)に対してどのようにこの5年間対応してきたか、対処できなかった部分があるとすればそれは何か、という点について、各部門・センター、所長、3人の所長補佐にアンケートを行った。すなわち、平成10年度の改善指摘事項を、(G) 研究所全体に関わる一般的事項、(R) 研究成果、(C)所外との共同研究推進のためのより効果的な人的・資金的資源配分、(E) 教育活動、(O) 組織・管理運営・人事、(S) 社会との連携、の6項目に大別し、さらにそれをいくつかの小項目にそれぞれ分けて、S(極めて改善された)、A(よく改善された)、B(ある程度改善されたがまだ不十分)、C(あまり改善されていない)、X(答える立場にない、または、回答不能)という自己評価を行った。また、平成15年4月に発刊した自己点検・評価報告書の主要部分を英訳化した。
 これらの資料を、防災研究所の要覧(和英両方)とともに12月に事前に外部評価委員に送付して、評価の準備作業の便に供した。

4.評価会議の進行概要  初日(1月14日)は、防災研究所の大会議室にて外部評価会議を行った。冒頭に、井上所長から外部評価の趣旨説明がなされ、岡田憲夫自己・点検評価委員会委員長からスケジュールの説明があった。午前の部は7人の外部評価委員が、各部門・センターを訪問し、資料書面では把握できない事項についてヒアリングを行った。
 その後、大会議室に戻り、外部評価委員と所長、所長補佐、部門長・センター長とが一緒に昼食をとりながら、ヒアリングの補足などを行った。また、一部の委員は技術室を視察した。引き続き午後の部は、岡田委員長の司会により再開。所長および小尻利治将来計画検討委員会委員長から、研究所の概要、将来構想、日本の国立大学の昨今の事情(法人化や制度上の制約など)について説明した後、各部門・センターから、スライドと資料を用いた活動報告がなされた。各報告に対し熱心な質疑応答が午後6時半頃まで続けられた。
 2日目(1月15日)は、化学研究所共同研究棟大セミナー室において行われた。防災研究所の大半の教職員の参加のもとに、宝馨自己点検・評価委員会委員の司会により午前9時30分に開会した。まず、井上所長、小尻将来計画検討委員会委員長より前日の質疑応答に関して若干の補足説明をした。8人の外部評価委員から講評を10分程度ずつお話し頂いた。その後、外部評価委員の講評に関していくつかの質疑応答がなされ、最後に岡田自己点検・評価委員会委員長が総括した。定刻正午に行事を終えた。
 以下は、各委員のプレゼンテーション資料をもとに講評を要約したものである。スライドに箇条書きされた項目の行間の意味を推量し、当日の講評を思い出しながらとりまとめた。多少長くなるが、各委員の講評は非常に示唆に富むものであり、一言一句を省略するのも惜しいので、重要な点は漏らさず記すこととした。読者におかれては、その貴重な言葉の数々をかみしめて頂ければ幸いである。

5.外部評価委員(外国人)の講評の概要
 最終的な外部評価委員の評価報告書は3月中に提出されることになっている。また、我が国国立大学の事情をよく知る日本人の評価委員と外国人委員とでは、講評の内容に違いがあった。ここでは、まず、外国人委員の講評の概要を以下のようにとりまとめた。

(1) ハイプル委員
 1998年以後のすばらしい成果をまず祝福したい。最初に、ミッションステートメント「持続可能な経済発展のもとで安全・安心な社会の構築のための基本として自然災害軽減に顕著な貢献を果たす」を考える。全体としてのミッションステートメント、目的、目標を展開するために一歩下がって考えてみよう。対象となるお客(クライアント)は誰だろうか(社会?)。このミッションを満たすために、防災研の管理・研究活動を計画できているかどうか。
 総合という観点からはどうだろうか。研究部門や研究センターは、テーマに応じてグループ化されてきた。総合防災研究部門は、全てのグループからの基礎科学的研究成果を取りまとめ、それを政策や意思決定に取り入れ社会がその恩恵を受けるようにする重要な役割を持っている。研究グループ間を横断するような実際的で価値のあるリスク問題に取り組んでもらいたい。
 独創性を発揮するにはどうしたらよいだろうか。
・ 意味のある価値のある研究目標を追い求めること。
・ 挑戦的だが取っつきやすい研究環境を育む。
・ 給料に反映する等の方法で生産的な研究者を顕彰する。
・ 空席ポストができたら競争的過程を通じて優秀な教員を雇用する。
・ 教員ポストに応募するよう日本中から女性や人々にどんどん呼びかける。
・ 最も優秀な日本人学生、外国人学生を引きつける。
などが考えられる。
 頑張ることのメリットを考えてみよう。1年ごとに教員の業績を評価する基準を設定することが必要ではないか。その評価基準は、防災研のミッションを満たすために貢献する活動を反映するものでなければならない。たとえば、1年間にレベルの高い学術論文集に4編論文が掲載されるというのは傑出した生産性と言えるのではないだろうか。教授の基本給にこのようなメリットによる増加給を導入したらどうだろうか。
 その他のインセンティブとしてどのようなものが考えられるであろうか。毎年傑出した防災研の教員に特別な研究顕彰制度で表彰したらどうだろう。名誉ある全国的・国際的研究表彰に値するような教員達を間違いなく指名するような委員会を作ると良い。生産性の高い研究者に与えることのできるサバティカル(長期休暇)制度を採用しよう。全ての躍動的な研究チームに経費とスタッフを十分につけてやるとよい。
 大学院生はどうだろうか。ミッションステートメントを達成するために、優秀な修士課程・博士課程の学生が必要である。傑出した大学院生を日本及び外国から如何に呼び寄せるかという戦略を打ち出さねばならない。研究に特化した工学系の大学では、教員一人あたり5人程度の大学院生を抱えているのが普通だ。では、どのように学生を引っ張ってくるか。わくわくするような刺激的な研究機会を与えること。日本人でも外国人でもたっぷりと奨学金を与えること。メインキャンパスの学生と密接な関係をもちつづけるようにしてやること。国際交流プログラムを促進すること。
 その他の新しい試みとして以下のようなことが挙げられよう。すべての博士論文に対する外部評価制度を確立したらどうか。防災研究所が第一級の研究所であるならば、学位論文は世界のトップの専門家から評価を受けるべきである。
 助手職を講師(Assistant Professor)の身分に振り替えるべきである。講師(Assistant Professor)、助教授(Associate Professor)、教授(Full Professor)がいったいどういうものであるか明確に説明する考え方を打ち立てるべきである。新しい教員に対する学内研修制度を作ったらどうだろうか。
 最後に、研究所のリーダーシップについて述べる。
・ 防災およびリスク研究において防災研究所が堂々たる世界のリーダーたらしめるための断固とした行動をとること。
・ 日本および多くの他の国々の住民に恩恵を与えるようなリスクの問題に取り組むこと。
・ あらゆる基礎研究成果がリスク意志決定?実践科学を発展させるためにちゃんと用いられるようにすること。
・ 新たな研究の機会を防災研究所がフルに享受できるようにアダプティブ・マネジメントのアプローチを採るべきである。(必要な研究テーマが出てきたときに柔軟に体制を整えて対応できること。)

(2) ワン委員
 防災研究所はこの5?10年の間顕著な成果を収めてきた。自然災害研究における世界のCOEである。多くの部門・センターがあるし、何より優れた個々の研究がある。自然災害のほとんど全ての面と社会学的側面に関する多分野にわたる研究、国際的・国内的協同への多大な貢献などもそうである。国立の研究所にとって、研究の多様性は自然な流れである。災害そのものそして社会的側面もそれにつれて多様化している。研究プロジェクトや資金の面でも、不確かな機会と個人の興味などいろいろある。ただ、多様性は、予め決められたミッションを曖昧にしかねない。
 調整がうまくできないと結果として研究所を弱体化させるし、プロジェクトが多すぎると深い研究が難しくなり、若手研究者に悪い影響を与える。より少なくしかしより良く、という黄金律は、一つの研究所にとっても一人の科学者にとっても同じことである。調整はいつも難しいものであるが、継続的に行われる必要がある。研究所長のみならずすべての教授とスタッフの努力が必要である。改組は良い機会である。同じ分野の部門やセンターを統合するのは論理的である。外部との協同よりも内部の協同が重要。
 地盤地球(soil earth)、水、大気が3つの主要領域である。また、3つの面が等しく重要である。すなわち、モデリングを含む基礎的理論的研究、実験室および現場での実験と長期の観測・データ集積、そして、災害の予知、予防・軽減、新技術の導入などを含む総合的な管理と応用。
 実験室や観測所を作ってそれらを稼働し続け長期に高品質のデータを集積することは、優れた基礎的解析を可能にする。これらは、努力のいる仕事である。研究資金はいつもごく限られている。一生懸命長い間頑張っても研究論文がたくさん書けないかも知れない。しかしながら、特に地球科学や自然災害研究においては、それはより基本的で、刺激的であり挑戦的なことである。理論的モデルは既存の知識に基づいており、物理過程の理解と予測に役立つ。独創性新規性を望む研究所にとってこれは最も本質的なことである。研究所は、こうした研究分野や研究者に十分な注意を払わねばならない。
 防災研究所のさらなる発展と輝かしい未来を信じ望ものである。

(3) バージェス委員
 1998年の外部評価からなされてきたことについての自己評価については概ね同意できる。気付いたこととして次のようなことが挙げられる。
・ 研究課題のオーバーラップ(液状化など)が見受けられるが、密接な強力があるのであれば良いことであろう。総合的な研究については色々と機会がある。
・ 国際学術誌への投稿はなされている。これを続け、最高品質の学術誌を選ぶべきである。こうすることにより実際に行われている優れた研究を顕示する大きな機会となるのである。
・ 一流学術誌に掲載された論文の質(数ではなく)に基づいた明解な評価基準を作るべきである。重要な専門的リーダーの役職(専門学会の編集者や理事というような)における貢献も重要ではあるが、それは付加的なものである。科学的に高質で専門的にちゃんとした掲載論文が最も重要である。
・ 学生の指導は重要であり、価値を置かねばならない。防災研究所の教育者ならびに研究リーダーとしての主任務を離れて他の大学で講義をすることなどは防災研にとって有益ではないし、やめた方がよい。
・ 大学院学生とポスドクについては、各研究グループに適切な人数を決めるべきである。総体として研究グループのミッションの機能であり、それらの諸君の利用可能な経歴となるだろう。
・ その他の前回の評価に関する事柄のほとんど全ては、明解なミッションステートメントに関連しており、研究グループあるいはグループ間で適切な研究を選択することにかかっている。
・ 女性の同僚の数を増やすように努力し全国的リーダーになることによって、防災研の教員および防災研全体が利益を受けるであろう。この人数は、女性によって占められる専門的役職が相応の数になったとき、「だいたい適当」ということになるであろう。
 ミッションステートメントについて考えてみよう。防災研究所の将来は、所属するスタッフがミッションとしてどのようなものを設定したいかということ(時とともに変わりうる)に密接に依存する。定年制のある教授層の年齢構成によって、5年の間にも多くの機会があるだろう。大学にとって自治の方法を変えることは、多くの起業家的機会を提供してくれるだろう。その中でも優先順位がつけられねばならない。ミッションステートメントとして、「防災研究所は、特にアジアを対象として力を入れつつ、災害の軽減と管理における世界的に知られた中核研究拠点(COE)であると同時に、日本国民の利益のために自然災害および人為的災害を軽減するのに必要な科学、工学、管理の技術を開発することに全力を挙げる。」といったものが考えられるであろう。
 防災研究所が何をやっているのかということを周知するにはどうしたらよいか。多くのレベルで色んなアウトリーチ(情報発信)の方法がある。「アウトリーチ」の主な目的とは何だろうか。一つは、一般的な教育であり、あるいは、技術移転であり、研究成果の新しい科学や新しい応用の必要性を社会に説明することである。インターネットのウェブサイトや改善されたブロードバンドといったものは、通信の色々な可能性をもたらしている。
 防災研究所の将来とは。災害の管理戦略において既に学んでしまったり含まれてしまったりしたことが最も重要であると言わねばならないくらいまで研究分野の科学が成熟したとしたら、防災研究所の役割はどうなるであろうか。  「エコノミスト」誌の最新号で、日本の人口の推移は、日本の大学の志願者よりも学生定員の方が多くなるような時期が5年ぐらいでやってくるような状況であると報道していた。このことは防災研究所にどう影響するだろうか。一方では、最近、防災研では25人ものCOEのポスドク研究者を雇っていると聞く。これらのポスドク研究者にどのような就職口や経歴を積む機会が将来あるのだろうか。
 防災研の有効性を顕示するものとして、最もヴィジビリティーの高い成功例を3つから5つ挙げるとすれば何だろうか。  防災研はだんだんと国際的な教育機関になりつつある。外国人学生にとってどうしたらもっと魅力的な研究所になるだろうか。英語は世界の第二言語になったし、科学や工学では第一言語である。全ての大学院の講義や演習を英語で行うことのメリットはどういうものがありうるだろうか。全ての論文や学位論文を英語で書かせることを推奨することはどうだろうか。

(4) ウィズナー委員
 基本として、防災研究所の中で共通の枠組みを持つこと、交流することによって得られるものを大事にすること、議論すること、お互いの論文を読み合うグループを持つこと、クロスアポイントメント(兼任や併任すること)が重要であろう。  知ることと実践することを別々にして良いだろうか。知ってかつ実践することが必要ではないか。知って実践し、また知って実践する。この作業を繰り返すのである。実践科学。根元的な原因を理解すること。参加行動型の研究。固有の技術知識。多分野の知識や技術の統合。これらを考えねばならない。
 組織としてはどうだろうか。任務を変えること(repositioning)は可能だろうか。そのような機会があることは良いことだが、危険性もある。国際的な防災研究の絶好機(Kobe 2005-2015)が来ようとしている。法人としての責任は。民営化することの危うい面を英国の大学でも見てきた。
 何をやるか。まず、国際的かつ国内的に活躍し、同時にお客さんや研究主題をちゃんと捉える必要がある。海外のパートナーや問題を戦略的に選択すること。英語を推奨し使うこと。中核となるような国際的な修士課程を作ること。外国人教授の招聘プログラムを継続し拡張すること。専門家と素人の間に位置する多様な人たちをパートナーとすること(お客さんが必ずしも受益者とは限らないことに注意。たとえば、マスコミの人に講義をしたとして、実際に利益を受ける(被災しないですむ)のは、マスコミからの情報を得た住民である)。短期の研修コースを開講すると良い(たとえば、ジャーナリストや地方自治体の職員に対して)。
 後継者を育てることも重要である。学部、修士、博士のバランスを考えねばならない。教員のサバティカルも必要であろう。中核的カリキュラム(災害学)を作ること。防災分野で女性の専門家を育成、指導することも必要である。

6.外部評価委員(日本人)の講評の概要
 以下には、日本人の講評の概要をとりまとめた。我が国の大学の事情にお詳しい先生方の講評を、防災研として期待した評価項目の順に分けて記述する。
(1) 前回の外部評価の指摘事項とそれに対する自己評価
片山委員: 全体として、大変バランスのとれた自己評価と思うが、「全研究所の立場からの総合評価」の意味がはっきりしない。特に「X」として評価を保留した項目の中に、防災研としての方向を示すべきものが多いのではないか。京大附置研として、一流の研究者を相手にするのか、一般市民を相手にするのか。両方をやろうとして中途半端になっていないか。現在の姿が、「戦略的に」形作られたものか、たまたまそうなったのか。所長のリーダーシップが発揮されているか。また、指摘事項の中には、軽重があることにも注意したい。評価「S」であるべきものが「A」に終わっているもの、「A」でも「B」でもかまわないものが混在しているので、その区別がほしい。
藤野委員: 部門・センターの報告、自己点検・評価報告書などによる限り、研究のレベルは総じて高いと見受けられる。ただし、自己点検・評価報告書は、部門・センターならびに構成員の自己点検に近く、研究所全体としての自己点検という意味ではやや不十分ではないか。1996年に共同利用研究所に改組し、内部組織もかなり変化した。それに対する研究所としての評価が欲しかった。とくに、新しく発足させた部門に対する自己評価など。
伊藤委員: 環境科学の視点を盛り込んだ自然災害研究を。広報窓口の一本化。マスメディアを効率よく活用。社会人学生に門戸を。火山噴火予知の実用化に向けて、2領域化を。火山活動の評価・予測には多角的なアプローチが必要。研究スタッフの充実を。
道上委員: 各部門・センターが開催するシンポジウム・セミナー、マスメディアでの報道に対する努力のあとが伺える(特に巨大災害研究センターなど)。法人化後このことはいっそう重要になるので、全所員がそのような考えを共有するような仕組みを。
金森委員(書面で): 防災研究所が大変広い分野をカバーしており、当初の目的を十分にうまく果たしているという印象がある。

(2) 将来の研究展望と進むべき方向
片山委員: 将来構想については、十分な情報が得られなかった。特に研究計画については今何をしているのかの説明が多く、部門・センターの重点課題にしても、部門・センター内の研究者の課題をくくったものという印象が強く、計画に則ったものとは必ずしも言えなかった。組織の構想とは別に個人が個人の興味のみで進めているだけのところがある。このことは、基礎研究とプロジェクト研究の関係をどう考えるかにもよる。高い水準の研究者が多いのであるから、京大の附置研として他の研究機関に比べてずっと高質の成果をたくさん出して当然。研究成果の内部評価ができていない。相互の批判・差別化が必要。Logistics部門の充実、海外協力部門の充実、広報担当の強化は必須。将来の研究のトップに「環境」と言っていながら、どのグループの将来計画にも「環境がトップ課題」という印象がない。単に「環境」と言うだけでなく、そのために所全体としてどう「戦略的に」取り組むかを検討すべき。
藤野委員: 部門・センターの将来構想の議論が十分でなく、さらにいえば所全体の方針、運営についての議論が十分できなかったことは否めない。お互いの研究にコメントする機会はあるのか。研究の批判・評価など必要な議論がなされているか。構成員の意見をお互いに交換する(批判できる、あるいはテンションを保つ)仕組みも必要。
道上委員: 我が国の災害科学の基礎的・総合的研究を行う唯一の大学の研究所としてバランスよく発展している姿は大変望ましい。現状の組織分類で不都合はないと思う。一部検証を必要とする分野も見受けられる。学内措置で設置された「斜面災害研究センター」は新しい柔軟な考え方である。法人化後もこのような組織化をして成果を上げたら本格的組織に。21世紀COEプログラムも大切に育ててほしい。
伊藤委員: 地球環境問題と災害との関わりを主要な研究テーマに。地震予知研究の更なる前進を(海溝型巨大地震、内陸直下地震)。山地災害対策を横断的なプロジェクトとして推進。災害史研究の拡充とデータベース化を。災害軽減のためのプロジェクトを各分野からの人材で構築。一般大衆、子供たちに対する教育・啓発活動のための情報発信拠点に。
金森委員(書面で): 何と言っても重要なことは可能な限り優秀な人材を集めることである。所定の手続きで公募するだけでは不十分であり、優秀な人に応募するように仕向けなければならない。外国人や優秀な女性研究者を導入して多様性を保つ必要があろう。防災研究の広がりから考えて、こうした多様性を広げ持続する努力を傾注することは活動的で活気に満ちた研究プログラムを強化するのに大変重要であろう。これを推進するために、国際担当事務局というようなインフラを整備する真剣な努力が必要である。

(3) 研究資源の更新および活用
片山委員: 高レベルの研究者が多数いる割には、所内の研究グループの共同作業が(少なくとも外部には)あまり見えない。全国共同利用研の役割の前に所内の共同体制を有効に利用すべき。共同研究にしても予算を差別化し、成果を評価すべき。事務方は研究のためにあるという意識を徹底すべき。
藤野委員: 防災研究所教員の年齢構成はバランスを欠く。50歳以上が教員の半分近い(50名のオーダー)。30歳台の助教授がゼロというのはかなり不自然(ちなみに東大社会基盤では講師以上は50歳台6名、40歳台8名、30歳台10名)。ただ、5年以内に10名? 10年以内に40名?の教員がリタイヤすることを考えれば、かなりの資源の更新が可能。新しい分野に展開するチャンス。研究所である以上、「学」が基本であり、「防災」を個別の分野の集合体から体系的な学のレベルにまで高めることがミッションの一つではないか。部門にしてもセンターにしても規模が小さく、目的、目標はある程度明確だが、予算、人事を管理するグループとしては、弾力性に欠けるのではないか。看板が多いことは結構だが、それと予算・人事のユニットとする必要はない。
道上委員: 我が国では重要度が低下した防災技術でも途上国では貴重であり、技術移転のニーズは高いので、その方法や組織を。たとえば、留学生の受け入れ(教育)、研究者の受け入れ(共同研究)。研究支援の技術系・事務系職員の適切な組織化と「研修制度」の充実が不可欠。
金森委員(書面で): 防災研究所は、多数の工学者と科学者が同じところで過ごしている世界でも数少ない研究所である。防災という実際的な目的に対する新しい発想を生み出すためには、このような工学者と科学者が一緒に働く環境が本質的に重要であると考える。このことは、多くの人から強調されてきたが、「言うは易し行うは難し」で、両者の接近法や文化がかなり異なるので、なかなかできなかったことは事実である。所内委員会を作るなどして、こうした動きを推進してほしい。一つのやり方として、うまくいく方法として知っているのは、大学院学生の指導教授を工学と理学の両方に求めること(2人指導教授制)である。これは、学生にとっても教授にとってもしんどいことではあるが、両方のセンスを備えた優秀な若い研究者を育てる良いシステムとして、防災研でなら実現できるのではないか。

(4) 防災研究所の意義を高めるには
片山委員: 外部評価に際して、研究者の受け止め方を統一すべき。中味、発表の仕方がまちまちで当惑した。研究者のみに頼らず民間人を取り込んだ辛口の意見をもらうシステムを作ったらどうか。所の立場から判断するのが、所長/所長補佐であるべき。所長補佐を置いたからといって執行部体制を拡充したと思うのは少し安易すぎる。外部の人が見てすぐわかる予算/決算の表し方を工夫してほしい。科研費・公募研究費の申請数・採択数の低下傾向について真剣に考える必要がある。若い人が元気が出るように。防災研が、この分野の研究所として日本で初めてのことをどんどん切り開いてほしい。
藤野委員: 学部・研究科に比べて、研究所はフレキシブルで横の連携がいろいろな形で組織的にできるのが売りではないか。防災ではなおさら、それが不可欠。それなくして、研究所の存在理由がないのでは。また、教育の負担は半分以下。倍の研究成果を出すことを期待したい(研究所2倍論)。2倍のうち半分は個人の研究、残りは共同研究、COE、教育等に。研究所の先生方はさらに倍働くこが責任と考えて欲しい。附置研究所は法人化後、学部・研究科よりは大学本部から厳しく評価されることは必至であることも理解すべき。防災研究所は、阪神震災以後、とくにプリゼンスが高い(よく世間の注目を集めている)。研究費も潤沢な今、10年先を見て。 The choices today determine the future. Avoid low hanging fruits. 所長の再任、所長補佐体制など執行部の一層の強化が必要か。企画部門の強化は。
道上委員: 災害科学の研究は息の長い地味な仕事である。目立つ他の研究に埋没しないよう、総合防災研究部門や巨大災害研究センターなどを通じて、真実味のある「災害シミュレーション」を常に国民に提示する努力を。ハードな災害対策にはコスト面からの研究が必要。

7.質疑応答採録
 以上の講評を頂いた後で、下記のような質疑応答があった。
司会(宝教授):まずは、外部評価に対する所長からのリプライをお願いします。
井上所長:まず、外部評価委員の先生方に、厚くお礼を申し上げます。われわれにとって、面映ゆい評価も、厳しい評価も頂きました。
外部評価、および、それとセットになった研究所の改組の問題は、法人化の問題と絡んでいます。最大の焦点は、大学の個性化です。大学の個性化を打ち出す要素が、附置研究所の存在だと私は思います。その点、京都大学には、いくつかの伝統あるユニークな研究所があります。では、防災研はどうか。大学の個性化に貢献しているか。今後、これが問われます。法人化されれば、研究予算なども、大学内での配分になります。まずは、防災研として、大学内でその存在理由・意義を示さねばなりません。そのためにも、今回頂戴した外部評価を十分に生かしていきたいと思います。 具体的には、特に、研究所の教官は講義負担が少ないのだから、学部教官の2倍成果を出せ、という指摘は身につまされました。2倍は無理と思いますが、今後努力していきたいと考えます。また、共同利用施設としての実態に後ろめたいものがあるのも、事実です。研究所内での研究連携が弱いとの指摘も、その通りと思います。
いずれせよ、こうした指摘を踏まえて、今後いっそうの改革を図っていきます。2日間、ありがとうございました。

司会:(井上所長コメントの英訳+)次は、将来計画検討委員会委員長の小尻先生からお願いします。
小尻教授:まずは、外部評価委員の先生方に、厚く御礼を申し上げます。
 若干、言い訳めいたことを申します。個別の研究領域ではなく、災害学、防災学の確立を、というコメントがありました。われわれとしては、たとえば、そうした方向の集大成として、「防災学ハンドブック」を出版するなどしてきました。また、ここ2、3年、今後の研究テーマ、組織体制についても内部で何度も話し合ってきました。さらに、研究所内部での部門を越えた共同研究が少ないとの指摘もありましたが、若い世代を中心にその実績、機運が出始めているのも事実です。
井上所長をトップとする新体制が始まって、まだ9ヶ月。目下、英語による講義、研究所内のスタッフのコラボレイションなど、いろいろな改革を進めているところです。その進捗状況を見てもらいたいと思います。さらに、女性スタッフの登用については、われわれも、その方向で考えているが、他方で、女性としてではなく研究者としての評価を、という声もあるので、この点配慮を願いたいと思います。
司会:(小尻教授のコメント英訳+)では、フロアーからのご意見を承ります。英語でも日本語でもどうぞ。
中島教授:ハイプル先生に質問です。「アダプティヴ・マネジメント」とは何ですか。具体例を交えて説明をお願いします。 ハイプル委員:「反省的」にしかとらえられないリスクというものが存在します。たとえば、未知の化学物質による未知の河川汚染などを考えて下さい。すべてを予め予測しておくことは不可能です。こうしたリスクが存在したことは、あとから、「反省的に」わかるだけです。ただし、可能な限り多様な事態にアダプトできるよう、また、フレキシブルにリスクをマネジメントするよう準備することは可能です。しかも、こうした研究は、自然科学、意思決定科学、その他さまざまな研究領域が共同しなければ実現不可能です。これが、アダプティヴ・マネジメントの基本となる考え方です。
中島教授:ありがとうございます。すべて理解できたわけではありませんが、時間の制約もあるので、今はこれで結構です。あと、バージェス教授にごく短い質問です。先生の配布資料に、「1月16日」とありますが、今日は日本時間で15日ですよね。これ、わざとこうされたのですか。(笑)
バージェス委員:この資料、ぜひ、明日も、読んで下さい。(笑)
中島教授:ありがとうございました。(笑)
司会:他にございますか?
Mori教授:一つコメントを。日本人の委員の先生方によるコメントと外国人の先生方のコメントには、いくらか違いがあるようです。前者には、日本の大学の実状、システムを知った上でなされた実際的なコメントが多く、その実現も、比較的容易なものが多いように思います。他方、外国人の先生方からのコメントは、国際的な視点、スタンダードから見たとき、防災研究所がどのように映るかを指摘したものになっていると思います。そのすべてを実現することは不可能でしょうし、中には、日本の大学の現状を踏まえると、少なくとも現時点では、いくらか不思議な感じのするコメントもあったと思います。また、われわれが、米国の大学になれるわけではありません。しかし、外国人の先生方のコメントには、われわれがそれを真摯に受けとめ、今後実現を目指すべきポイントがたくさん含まれていた気がします。本日は、ありがとうございました。
司会:他にございますか?
ハイプル委員:われわれ全員を代表して、もう一度、皆さんにお礼を言いたいと思います。所長、寶先生、岡田先生をはじめ、皆さんで準備頂いた今回の機会を、われわれは心から楽しむことができました。ありがとうございました。
ウィズナー委員:私も、今回の評価を通して、多くのことを学ぶことができました。
ここで、独立行政法人化とからんで、一つ短いコメントをさせて下さい。プラバタイゼイション(法人化)には、負の側面があります。それは、一言で言えば、研究成果の「需要と供給」の関係に関わります。今、世界では、水害、地滑りなどのハザードに直面している人々、地球規模の環境変化によって危機に直面している人々がたくさんいます。このうち多くの人々は、言わば、(防災研究の)需要がありながら、それに対する対価を払うことが出来ない人々です。他方で、今後、防災研の21世紀的ミッションを、ファイナンスの面も考慮しつつ考えていくためには、「売れる商品」を生産する必要があります。つまり、われわれは、売れるものを作るのか、売れなくても必要のあるものを作るのかという葛藤に苛まれることになります。
私のプレゼンでも触れたように、1970年代半ば、私がかつて、東ケニアで渇水の研究をしていた当時、そのプロジェクトは、100%政府出資の公的な研究でした。だから、どこへでも自由に行けましたし、たとえば子どもたちを救援するようなことも可能でした。しかし、2003年の今は、まったく違います。各研究者は、自分の食い扶持は100%自分で稼がねばならず、これを2年続けてできないと職を奪われます。  
さて、科学の根底は、疑問を感じることです。回答を出すことではなくて。世界で、今何が問題かを同定することが大切なのです。よって、英国におけるプライバタイゼイションの流れがもたらした結果に見られるように、この疑問を感じるプロセス、つまり、何が問題かを考えるプロセスが、市場の原理にのみ支配されるならば、それは大変危険です。稼げる研究にのみ、研究者が流れていくからです。費用という対価を払えない人々を対象にした研究についても思いを致さねばならないと考えました。ありがとうございました。
司会:何かコメントはありますか?
小尻:何か言わないと、われわれが、指摘をすべて認めたみたいなので、一言だけ。まず、世界的なセンターになるべきという意見も、非常によくわかる。もうひとつ、片山先生から指摘があったように、研究所のミッションをはっきりさせよ、ということがあります。市民なのか、世界的研究なのか。今後、このことを、われわれとしてははっきりと打ち出していきたいと思います。
司会:(小尻教授コメントの英訳+)では、ご意見も尽きたようなので、これで質疑応答を終えます。最後に、自己評価委員の委員長の岡田先生に登壇いただきます。

7.総 括
 以上の質疑応答の後、岡田自己点検・評価委員会委員長がこの外部評価会議を締めくくった。講評を聞きつつ、評価委員のいくつかのフレーズを短い時間の中で引用しながら、次のように総括を行った。
・ 今決めることが、将来を決する(Choice is Today, Determines Tomorrow)
・ 掛け値なしの世界のリーダーを目指す防災研究所(DPRI Towards Undisputed World Leader)
・ 挑戦的で取っつきやすい研究環境を醸成(Foster a Challenging Friendly Research Environment)
・ 研究協力、特に内部での協力(Coordination, Particularly Internal)
・ 手を広げすぎず質の高いものを(Do Less But Better (Do It Pinpointed And Strategically))
・ (日本人特有の)恥の文化からきらりと光る文化へ(Shy Culture To Shine Culture (DPRI's Research Culture?))
 締めくくりに、ウィズナー教授が防災研究所の五十余年の歴史に思いをはせて詠まれた英語の詩歌を岡田教授が紹介された。ここに記して、外部評価会議の概報を終えたい。
Since nineteen fifty with single trunk and deep roots;
Tree with much ripe fruit.
  五十年幾星霜 いとけき幹や地深く根づき
    育てたわわに研究の実り (岡田憲夫訳)

 今後の予定として、外部評価委員と自己点検・評価委員会との間でやりとりをしながら、3月末をめどに委員からの最終報告をいただき、4月末に外部評価報告書をとりまとめる予定である。
 最後に、この外部評価会議のためにご協力頂いた委員の皆様、全ての教職員の皆様に厚く御礼申し上げる次第である。

(文責:自己点検・評価委員会 宝 馨、
矢守克也(質疑応答部分))