京都大学宇治キャンパス公開2003報告

1.はじめに
 「京都大学宇治キャンパス公開2003」(以下、キャンパス公開)が平成15年10月3日(金)と4日(土)の両日にわたり実施されました。昨年まで、一般向けの公開は土曜日の一日だけでしたが、今年は一般参加者を増やす目的で、金曜日の午後にも一般公開が初めて実施されました。また、今年のキャンパス公開のもう一つの新企画として、昨年までと同様の宇治キャンパス内での催しに加えて、防災研究所宇治川オープンラボラトリーもキャンパス公開に参加し、二会場で開催されることになりました。開催中はよい天候に恵まれ、また、二つの新企画の効果もあり、参加者数は553名(3 日:108名、4日:445名)と昨年を約150 名近くも上回る大盛況となりました。

写真1  「総合展示」での防災研究所紹介パネルとPCによる展示 写真2 可視型地震時地すべり再現試験機の説明を聞く参加者

 宇治キャンパス会場では、パネル展示を中心とした化学研究所共同研究棟での「総合展示」、各研究所等で個別に実施された「公開ラボ」、および化学研究所共同研究棟大セミナー室で、今年のキャンパス公開の統一テーマでもある「人類の生存基盤を探求する情報科学」と題する「公開講演会」が第二日目に実施されました。防災研究所には「総合展示」で総計6枚のパネルスペースが配分され、IUGG2003 ブース展示(DPRI Newsletter No.29 参照)で作成した防災研究所の活動を全般的に説明するポスターの他に、地盤災害研究部門、地震予知研究センター、水資源研究センター、巨大災害研究センターから、最新の研究内容等を紹介するパネルや、PCを用いた展示が用意されました(写真1)。
 「公開ラボ」では、斜面災害研究センターが「土砂の流動化を調べる」というテーマで、可視型地震時地すべり再現試験機(写真2)を用いた公開実験、大気災害研究部門が「風を感じる」というテーマで、境界層風洞を用いて参加者が強風時の風圧を体感するという体験型公開実験、総合防災研究部門が「建物の強震応答を調べる」というテーマで、強震応答実験施設の見学や伝統構法木造軸組模型の展示、また、地震予知センターは「地震活動を見る」というテーマで地震活動表示システムを利用した展示が行われました。一方、「公開講演会」では、総合防災研究部門の畑山満則助手が「コンピュータでみる地図 -地図情報システム (GIS)」と題し、GIS の概要や、GIS を巧みに利用して阪神淡路大震災時の被災状況を航空写真から効率的に取得する研究手法などについて、PCを用いて大変分かりやすく紹介されました。
 今年初参加の宇治川オープンラボラトリーでは、災害観測実験研究センターと技術室により、「災害をおこす自然現象を体験する」という総合テーマで、大変よく工夫された参加型体験ツアーが3回実施されました。このツアーは、次のような公開実験で構成されていました。(1) 「地下浸水体験」: 御池通り地下街の模型を用いて地下街が浸水するときの様子を観察する。(2) 「浸水ドア体験」(写真3): 地下室が浸水した場合などで、ドアにどれくらいの水圧がかかれば開けられなくなるのかを体感する。(3) 「土石流体験」: 急斜面の水路で水を流し、土石流が発生する仕組みや、それを防ぐ砂防ダムの働きを観察する。(4)「降雨流出体験」: 琵琶湖北部の地形分布を表現する模型に散水し、河川流量がどのように変化するか観察する。(5) 「津波体験」: 水路模型で波を発生させ、津波が発生するメカニズムを観察する。(6) 「地盤液状化体験」:震動によって構造物が沈んだり浮き上がったりする現象を観察する(写真4)。いずれの実験も、大きな模型や装置を用いたもので、宇治川オープラボラトリーのスケールをうまく利用した、迫力ある、大変興味深いものばかりでした。ただ、宇治川オープンラボラトリー会場へは、宇治キャンパス会場から電車と徒歩で約40分もかかるため、参加者が多く集まるか心配されましたが、研究協力課のご尽力で京都市伏見区にも新聞折り込みを実施して頂いたためか、約50名ほどの熱心な参加者が集まりました。

写真3 「浸水ドア体験」で、渾身の力を込めてドアを開けようとする女性参加者 写真4  「地盤液状化体験」で、熱心に説明を聞く参加者たち

 防災研究所が実施した以上の催しに対する一般参加者の関心は、平成15年5月の三陸南地震で発生した地すべり現象、あるいは9月の十勝沖地震で発生した液状化現象など、自然災害に対する最近の社会的関心の高まりを反映してか、非常に高かったと思われます。食い入るように地すべり実験の説明を聞く参加者の様子や、自宅建築を予定されている参加者が熱心に建物の構造に関して質問する様子、あるいは、講演を聞いている途中に「なるほど」と何度も頷く様子など、大変印象に残りました。
 今年のキャンパス公開の幹事部局は防災研究所のため、我々も、実行委員長および広報担当委員としてキャンパス公開に参加することになりました。広報担当の主要な仕事は、キャンパス公開のパンフレットを作成することですが、パンフレット原稿が完成した7月中旬に、当初のキャンパス公開予定日であった9月26日、27日に京都大学総長選挙が実施されることが判明し、公開日程を急遽変更せざるをえなくなったときには、公開ラボなどの日程調整がうまくいくのか大変心配致しました。しかしながら、皆様のご協力によりおかげさまで今年のキャンパス公開を盛況のうちに無事終了できましたこと、紙面をお借りしまして感謝申し上げます。

(地盤災害研究部門 井合 進・大気災害研究部門 向川 均)