Newsletter No.30

2003年宮城県地震災害報告

写真-1　5月26日の宮城県沖の地震による築館町館下の崩壊と周辺の谷埋め盛土（黄色の線で囲った部分）。（撮影：㈱パスコ）

写真-2　7月26日の宮城県北部地震による切土斜面の崩壊（河南町久米田）。斜面は三ツ谷層の中粒砂岩で構成される。"ダルマ落し"状に層理に沿ってクラックが形成され、斜面方向（南西）に岩盤が飛び出している。

写真-3　7月26日の宮城県北部地震による切土斜面の崩壊（河南町西猿田）

図-2　7月26日の宮城県北部地震による旭山丘陵の地盤災害（背景はLANDSAT-TM画像）

1. はじめに
　今年、2003年には被害地震が相次いでいる。5月26日に宮城県沖でマグニチュード7.0、7月26日には宮城県北部でマグニチュード5.5（0時13分）、6.2（7時13分）、5.3（16時56分）の地震が発生した。5月26日の地震は震源の深さが約70kmと深く、プレート内地震と考えられるのに対し、7月26日の地震は内陸の浅い位置（約10km）に震源を持つ直下型地震であった。このように、地震の規模とタイプに違いはあるものの、いずれも東北地方南部、特に北上川下流域の平野部に被害をもたらした。
　東北脊梁山地と北上山地に挟まれた北上川の河谷平野は、中新世以降の堆積物によって埋積され、緩やかに起伏する丘陵（新第三系）と更新世段丘群、及び沖積低地から構成されている。この地域は、農業、特に米作りを産業の基盤とする地域であり、典型的な農村地帯である。しかし、発生した地盤災害はむしろ海岸沿いの埋立地や河川堤防等の水際構造物と人工地形改変斜面で顕著であり、拡大する都市域の災害としての側面が強く顕れた災害であった。ここでは、これらの地震による地盤災害、特に斜面災害について簡単に紹介する。

2. 宮城県沖の地震（5月26日）
　この地震では、岩手県内で新幹線高架橋の損傷、大船渡港で液状化、気仙沼及び石巻で岩盤斜面の崩壊、宮城県築館町館下で流動性崩壊が発生した。比較的広い範囲でしばしば1Gを超える大きな地震動（加速度）が発生したが、その割に地盤災害は比較的少なかった。短周期成分が卓越していたため、大きな地震動が被害に直接結びつかなかったと言われている。
築館の流動性崩壊
　築館町館下の崩壊では、谷埋め盛土斜面が幅約40m、長さ約200mにわたって崩壊し、流動化した。崩壊した場所は、1970年代の農地改良事業によって造成された斜面であり、前九年の役の発端となった阿久利川事件（1059年）の現場から南西に約4kmの地点である。造成の目的は畑地とも宅地への転用とも言われているが、結果的に造成後の利用が放棄され、長い間適切な維持管理がなされていない斜面であった。谷埋め盛土の材料は、尾根部を形成していた更新統の軽石流堆積物（梅ヶ沢軽石凝灰岩）であり、多孔質なため土粒子の比重が軽く、有効上載圧が小さいうえ、地下水を貯留しやすい特徴があった。図-1は滑落崖背後のS波速度断面（縦断）と自動貫入試験（ミニラム）結果である。旧谷底付近の地盤強度は特に小さく、盛土底面付近での液状化が崩壊につながった可能性が高い。崩壊した斜面の周囲には、同様の谷埋め盛土でありながら変動しなかった斜面が何箇所か存在する。これら非変動事例との比較により、変動と非変動とを分けた要因は、盛土材の種類と谷の3次元形状の相違であると考えられる。

3. 宮城県北部の地震（7月26日）
　1689年（元禄二年）5月10日（現在の6月26日）、松尾芭蕉（46才）と曾良（41才）は松島を出発、夕刻石巻に至った。付近は、当時「人跡稀に雉兎蒭蕘（ちとすうじょう）の往かふ道」であったが、現在は国道45号線に沿って広がるごく普通の田園地帯である。7月26日における一連の地震は、彼らのルート（奥の細道）から北側に広がる旭山丘陵の直下で発生し、南北方向の撓曲軸（深部では西上がりの逆断層）に沿うものと解釈されている。
地盤災害
　地震の被害は、撓曲の上盤側すなわち旭山丘陵よりも西側の地域で顕著であった。直下型地震であり被害地域は限定されるが、被害の規模と量は、5月26日の宮城県沖の地震を上回っている。土木構造物では、鳴瀬川や江合川の堤防（側方流動）と橋梁（道路と橋の擦り付け盛土の沈下）の被害が顕著であったが、これら以外では旭山丘陵内部における斜面災害が顕著であった。
切土斜面
　斜面災害は、自然斜面よりも人工斜面で圧倒的に多く発生した。旭山丘陵とその周辺では、主として三ツ谷層（中新統）の柔らかい砂岩部を対象として、建設資材用の土砂採取が盛んに行われており、その跡地が大規模な切土斜面として残されていた。農家であっても、敷地の拡大と土砂採取のために住宅の裏山を切土した例や、土砂採取の跡地に住宅を新築した例が多かった。このため、住宅の裏に切土斜面が形成され、崩壊し、災害となった。崩壊は高角の節理や小断層を利用し、滑った例が多い。こうした崩壊の形態は、地質が類似する1987年千葉県東方沖地震による上総丘陵の斜面崩壊や1999年横浜市南区中村町の崖崩れと同様である。
盛土斜面
　盛土斜面においても災害が発生した。戦後の食糧増産の施策によって、丘陵の尾根を切り込み、両側の谷壁斜面に盛土して、新田が開発された。この結果、盛土が急斜面の高い位置に張り付いている状況が生まれ、河南町西猿田や鳴瀬町中窪では、こうした盛土が崩壊した。崩壊した盛土には地下水が多量に含まれていたため、崩壊土砂が流動化し、崩壊源の高さに比べて長距離を移動した。こうした崩壊の形態は5月26日の宮城県沖の地震で発生した築館町館下の崩壊と類似している。また、旭山丘陵南部の矢本町大塩の新興住宅地では、緩斜面の谷埋め盛土が比較的広い範囲（約100×100m、2箇所）で変動し、末端の擁壁を変形させた。

4. まとめ
　一連の地震によって地盤災害が生じた箇所は、多くが高度経済成長期以降に形成された人工地盤（埋め立て地、堤防、盛土、切土斜面）であった。これらの事実は、純農村地帯であっても現在では郊外化、都市化が進行し、伝統的な"田園"が消失しつつあることを物語っている。その意味で、今回の地震による被災事例は、次の宮城県沖地震（プレート境界地震）等による大都市での災害に備えるうえで、基礎的で重要なデータであると考えられる。
調査に当たっては、応用地質（株）つくば技術開発センターの諸氏と（株）新東京ジオ・システムの瀬野孝浩氏にお世話になりました。ここに謝意を表します。

図-1　築館町館下の崩壊（5月26日発生）背後のS波速度断面（高精度表面波探査の結果）と自動貫入試験（ミニラム）の結果。貫入試験の位置で4ｍ以浅が谷埋め盛土。

（地盤災害研究部門　釜井俊孝）