防災研究所一般研究集会14K-12

「治水と河川生態環境−川づくりはいかにあるべきか−」報告


 平成15年1月29日,キャンパスプラザ京都を会場として標記研究集会(研究代表者:大阪工業大学教授 綾 史郎)が開催された.平成9年の河川法改正に伴い河川環境の整備と保全が目的化されたが,治水と環境保全はこれまでトレードオフの関係で語られることが多く,河川整備の理念の再構築や評価手法の確立などの課題が山積している.それらの課題の解決には学際領域における連携・協調が不可欠であるが,本研究集会は河川水理学・生態学・環境学・生物学等の河川に関わる様々な分野の研究者・実務者が一堂に会し,現在の問題認識,特に各自の専門以外の分野に対する疑問・期待等を明らかにすることで,学際研究における課題とその解決に向けた連携の可能性を探ることを目的とした.
 発表件数は7件であり,河川生態系の現状とその課題に関する報告が3件(魚から見た河川−何のための川づくりか?,抽水植物の定量評価とその展開,木津川下流域の河川生態環境の現状と将来の目標像),河川整備やダム操作などの人的インパクトが河川環境に与える影響に関する報告が3件(河川改修と河川生態環境−淀川の事例−,川の自然再生と流域の管理,渓流における排砂が魚類に与える影響),さらに,国土交通省河川局における河川環境施策の最近の動向に関する話題提供が1件であった.参加人数は57名であった.
 これらの発表および討議を通じて,これまでの川づくりにおいて欠けていた点は何か,また川づくりの理念の転換における技術的課題はどこにあるのか,あるいは現在の技術でどこまで可能であるのか,などの点について理解を深めることができたように思われる.実際の川づくりの現場においては既に環境という概念が治水・利水をも巻き込んで総合化の様相を呈しているにもかかわらず,それを支える学際研究の取り組みやそのための研究体制づくりが十分に整っているとは言い難い.この点に関しては,残念ながら時間的な制約等から十分な議論の深まりが得られず,今後の検討課題として残った.
 なお,各発表の概要を掲載した研究集会報告書(CD−ROM版)の余部が多少ございます.興味のある方は武藤(e-mail: muto@uh31.dpri.kyoto-u.ac.jp)までご連絡ください.

災害観測実験センター 中川 一・武藤裕則