斜面災害研究センターの新設

平成15年4月1日に斜面災害研究センターが,防災研究所の6番目のセンターとして設立された。

1. 設立までの経緯
1.1 斜面災害研究推進会議
文部省で唯一の地すべり専門の研究室として,昭和34年7月に地すべり研究部門が京都大学防災研究所に設立された。昭和44年4月に地すべりの現地観測を実施するために附属徳島地すべり観測所が設立され,地すべりの実験,現地観測の両面から研究を実施できる体制となった.平成8年5月に京都大学防災研究所は,5大研究部門,5センターからなる全国共同利用研究所に改組されたが,この時,地すべり研究部門は,地盤災害研究大部門の4分野の一つとして地すべりダイナミクス研究分野として再編され,徳島地すべり観測所は,穂高砂防観測所と共に災害観測実験研究センターの土砂環境観測実験研究領域に再編成された。平成9年4月に防災研究所は,防災に関する卓越した研究拠点(Center of Excellence: COE)に指定されたのを機に,斜面災害研究をより強力に推進するためのシンクタンクとして,地盤災害研究部門の3分野と災害観測実験研究センターの土砂環境観測実験研究領域を中心として,全国の文部省/大学,総理府/科学技術庁/北海道開発庁,建設省,農水省/林野庁,通産省,労働省,運輸省/気象庁,自治省/消防庁ほか9省庁の斜面災害関連の研究機関が集まり,平成10年5月に「斜面災害研究推進会議」が組織された.斜面災害研究推進会議では,平成11年,21世紀における研究の総合的推進に向けて1999年京都アピール「斜面災害の予測と防御」を発表し,関係各方面に研究の推進を呼びかけた。

1.2 国際地質対比計画
一方,国際的には,ユネスコと国際地質学連合(IUGS)が合同で実施している国際地質対比計画(IGCP)の一つとして,平成10年から「IGCP-425:文化遺産及び社会的価値の高い地区における地すべり災害予測と軽減:Project Leader:京都大学防災研究所・佐々恭二」が開始された(DPRI Newsletter No.14,1999年)。この研究プロジェクトでは,世界18カ国から提案された31のサブプロジェクトが推進されており,参加機関の研究推進に大きな役割を果たして来た。そのため参加機関の多くがLandslides研究に関する独自の国際プログラムの創設を強く希望し,一方,ユネスコにおいてもIGCP-425がこれまでほとんど独立であった自然科学局(地球科学部と水科学部)と文化局(文化遺産部)の局をまたがるプロジェクトとして注目を集め,平成11年9月にユネスコ本部で開催したIGCP-425主催の会議「危機に瀕した文化遺産」の会議において,斜面災害研究を世界的に強力に推進するために新たな国際的協力組織とその核となる斜面災害研究センター(Research Centre on Landslides)の必要性について議論された。そしてその第1ステップとしてユネスコとIGCP-425の研究代表の属する京都大学防災研究所あるいは日本の斜面災害研究グループの間で斜面災害研究の推進に関する合意書をとりまとめるよう合意された。これを受けて合意書原案が作業グループにより作成され,平成11年12月にユネスコ事務局長(松浦晃一郎)と京都大学防災研究所長(池淵周一)との間で「21世紀の最初の四半世紀における環境保護と持続できる開発の鍵としての地すべり危険度軽減と文化・自然遺産の保護のための研究協力」の合意覚書(UNESCO/DPRI-MoU)が交わされた(DPRI Newsletter No.17, 2000年).

写真1 斜面災害研究センター設立記念写真(於:キャンパスプラザ京都)
4月3日開催の防災研究所フォーラムin 京都に際して集まった研究センターの職員,非常勤講師,研究員/外国人共同研究者


1.3 斜面災害研究センターの提案
ユネスコ防災研究所間の合意覚書(UNESCO/DPRI−MoU)に基づく活動の一環として,平成14年1月に京都においてユネスコ・京都大学共催の国際シンポジウム「斜面災害危険度軽減と文化自然遺産の保護」が開催され,この会期中に国際斜面災害研究機構(International Consortium on Landslides)の定款の採択と会長(京都大学防災研究所・佐々恭二)の指名が行われ,「2002年京都宣言:国際斜面災害研究機構の設立」が宣言された(DPRI Newsletter No.23, 2002年)。 また,この中で国際斜面災害研究計画(IPL)を発足させること,及びその中核としてのResearch Centre on Landslides(斜面災害研究センター)を設立することの重要性が議論された。
これらの国内外における斜面災害研究センター設立への要望と所内での改組検討結果を受けて,他の1センターの新設要求とともに平成13年度概算要求として「斜面災害研究センター」新設の概算要求が提出された。ついで平成14年,平成15年度概算要求として提出されたが採択に至らなかった。 そこで地盤災害研究部門の地すべりダイナミクス研究分野と災害観測実験センターの土砂環境観測実験領域(徳島地すべり観測所)を原資として,予算・人員増を伴わない所内処置として斜面災害研究センターを新設する要求が出され,防災研究所教授会,京都大学評議会の議を経て,防災研究所の6番目のセンターとして斜面災害研究センターが平成15年4月1日に新設された。

2.設立目的と組織
センターの設立目的は,「地すべりによる斜面災害から人命・財産や文化・自然遺産をまもるために,地震・豪雨時の地すべり発生運動機構の解明,地球規模での斜面災害の監視システムの開発,地すべりのフィールドにおける現地調査・計測技術の開発及び斜面災害軽減のための教育・能力開発を実施する。」である。組織(領域・観測所)と研究内容と研究担当は,下記の通りである。
センター長: 佐々恭二
図1 国際斜面災害研究機構(ICL)と国際斜面災害研究計画(IPL)及び斜面災害研究センター(RCL)の関係

1) 地すべりダイナミクス研究領域
地震時地すべりの発生機構,大きな災害を引き起こす高速長距離運動地すべりの運動機構,すべりから流動への相転換のメカニズムの研究,及び発生した地すべり,斜面崩壊の運動予測を研究するとともに,斜面災害監視をIGOS(Integral Global Observing Strategy)とも連携しつつ実施する。
研究担当:教 授 佐々恭二 
助教授 福岡 浩
助 手 竹内篤雄
2) 地すべり計測研究領域
地すべり多発地帯である徳島県三好郡池田町にある徳島地すべり観測所を基地として,地すべり計測技術開発と地すべり現地調査を実施するとともに, 大学院生,社会人,海外からの研修生等に対して地すべりに関する教育・能力開発を実施する。
研究担当:助教授 末峯 章
助 手 小西利史
<観測所>
徳島地すべり観測所
非常勤職員 小野田富子
<その他のスタッフ>
センター講師(非常勤)
汪 発武(金沢大学工学部助教授)
センター研究員/外国人共同研究者      
古谷 元(21世紀COE研究員)
王 功輝(外国人共同研究者, 日本学術振興会特別研究員)
Vladimir GREIF (外国人共同研究者, 日本学術振興会特別研究員)
Tewodros AYELE T. (外国人共同研究者, ユネスコ/京大/ICL UNITWIN Network講師)
センター事務:非常勤職員 井上 園

3. 活 動
斜面災害研究センターは,国内外において斜面災害軽減のための研究を実施するが,長期的活動としては,二つの研究計画:1)国際斜面災害研究計画 2)「ユネスコ−京都大学−国際斜面災害研究機構による社会と環境に資するための斜面災害危険度軽減共同計画」に中核的に関わる。

3.1 国際斜面災害研究計画(IPL)
斜面災害に関する国際研究計画として,ユネスコ等の国連4機関と日本政府文部科学省他の支援を得て設立された国際斜面災害研究機構のイニシテイブにより開始された国際斜面災害研究計画(IPL)に中核的に関与している。他の地域においても斜面災害研究計画を担う地域センターを設立する準備がなされており,将来的には複数のセンターが地域ごとにこの役割を担うかもしれない。
国際斜面災害研究計画は,平成14年11月に最初のプロジェクトとして計画研究(Coordinating Project)9課題と会員提案研究(Member Project)14課題が採択された。斜面災害研究センターが特に関わっているプロジェクトは,計画中の国際ジャーナル「Landslides: Journal of International Consortium on Landslides」(C100),文化自然遺産地区の斜面災害危険度評価と軽減(C101),地震豪雨時の高速長距離土砂流動現象の面的予測(M101)である。この他,イタリア政府の支援を得た「レーダー干渉を用いた環境に優しい斜面計測システム:マチュピチュへの適用」,世界銀行の支援が得られることになったノールエーの地盤災害研究センター提案の「地球規模での斜面災害危険度の高い地域(global high risk landslide disaster hotspots)の評価」,米国地質調査所(USGS)とカナダ地質調査所の共同プロジェクトである「斜面災害軽減のための最良の実践例(Best Practices)ハンドブック」プロジェクトなどがある。

3.2 「ユネスコ−京都大学−国際斜面災害研究機構による社会と環境に資するための斜面災害危険度軽減共同計画」の推進
平成15年3月18日にユネスコ,京都大学,国際斜面災害研究機構の3機関が,ユネスコが実施する大学など高等教育機関の連携協力プログラムであるUNITWIN計画の一つとして斜面災害危険度軽減共同計画に調印した。斜面災害研究センターでは京都大学における斜面災害研究・教育の中核としてこの研究計画を推進する。この詳細は,本ニュースレター(DPRI Newsletter No.28, 2003年)に独立した記事として掲載されている。
また,斜面災害研究センターの最初の活動として平成15年6月6日に京都大学宇治キャンパス内において,ユネスコ(UNITWIN計画担当),文部科学省(防災科学技術推進室及び日本ユネスコ国内委員会担当),ICLからの参加を得て設立記念式典,記念講演会,記念祝賀会を開催する(本ニュースレター行事日程参照)。

斜面災害研究センター 佐々恭二