公開講座

 本年度の公開講座は,「都市の発展と防災」を主題として「災害の複合化はなぜ起こるのか」を副題として,平成14年11月29日に建設交流館で開催された.
都市が巨大化するにともない都市機能を支えている社会基盤施設の脆弱性が高くなり,単独の要因で発生した災害が引き金となって,事象が時・空間的に拡大し大きな都市災害になったり,複数の要因が複雑に絡み合って災害が発生し,何が基本的な要因になっているかを明確にすることが困難な都市災害も発生するようになってきている.こうした都市災害では災害発生から終了までの時間的尺度が長くなることが多く,災害の規模が単一の要因により発生した災害に比べて大きなものとなる.こうした観点から,災害の複合化と社会基盤施設の防災力の向上といった問題点を基本課題と考え,近年の都市の発展とともに災害の様相がどのように変化してきたか,なぜ,災害が複合化し大きな被害をもたらすようになってきたか,その対策法はどうあるべきかを社会科学的側面を含めて,以下に示す話題を40分間で分かりやすく解説して,今後の展望を述べるとともにニューヨーク同時テロ事件の対応と教訓を通してどうすれば災害の複合化を防げるのかについてのパネル討論を行なった.出席者は約120名で,各講演に対して熱心な質疑応答があり盛会裏に終了した.

講演題目と講演者:
1)「水災害の複合と波及」池淵周一,
2)「都市開発域における地震・豪雨時の斜面災害の予測と防御」佐々恭二,
3)「最近の都市における気象災害及び地球温暖化」林 泰一,
4)「複合課題としての災害対応」野田 隆,
5)ニューヨーク同時テロ事件の対応と教訓」河田恵昭,
6)活発化する南海日本の地震活動」梅田康弘
地震災害研究部門 佐藤忠信 


防災研究所フォーラム講演会

 世界有数の地震研究者であるカリフォルニア工科大学金森博雄教授が平成14年9月 から11月の間、地震予知研究センターに滞在しておられる機会を利用して、去る1 0月11日(金)に「防災研究所フォーラム」で講演していただく機会を得た。講演 のタイトルは「地震学と工学の共同研究:これまで、現在、そしてこれから」で、近 代的な計測観測(強震計)が始められた1930年代からの地震学と地震工学の歩みと連 関についての歴史を述べられ、現代社会のインフラストラクチャを守るために、近年 の新しい地震学・工学の知見を基礎として、研究者同士の一層の理解と融合が必要で あるとされた。その具体例として、先生がリアルタイム地震学の一環として米国南カ リフォルニア州で進めてきたCUBE(Caltech/USGS Broadcast of Earthquakes project)システムの設立経緯や各システムの概要を述べ、官民学の融合について話さ れた。現在は後継システムであるTriNET(Caltech/USGS/CGS network)による広帯域 地震計と強震計の観測システムの組み合わせによる数々の地震情報の提供が行われて いる。また、日本においては、JRのユレダスシステムを例にとられてリアルタイム地 震学の重要性を指摘された。さらに日本において先進的に建築されている制震ビルに ついて、巨大地震時に予測される長周期地震動に対する性能評価の重要性を指摘し、 巨大地震に対する地震学の知見の蓄積と工学者との連携について再度強調し、地震学 者と地震工学者が共存する防災研究所への期待と若手の育成についてエールを送られ た。質疑応答では、1995年兵庫県南部地震後の日本における建築・土木の動向につい ての活発な意見交換が行われた。
 尚,金森先生の滞在のようすは,別項でも紹介されている。
(地震予知研究センター 川崎一朗) 
(地震災害研究部門 岩田知孝)