防災研究所一般研究集会14K-2

「山間過疎地域における震災復興と生活再建に関するシンポジウム」報告

 本シンポジウムは(研究代表者:鳥取環境大学 北原昭男),2000年鳥取県西部地震の際に大きな被害を受けた日野郡の日野町文化センターで2002年10月6日に約250名の参加者を得て開催された。これは,前年度に同文化センターで開催された「2000年鳥取県西部地震災害シンポジウム(一般研究集会13K-1,研究代表者:鳥取大学 西田良平氏, 参加者約350名)」の姉妹版ともいうべきもので,理工学的見地からの災害の検証,対策の提言のみならず,社会,文化等の地域性を考慮した災害復興,生活再建,町おこし等を住民,行政,研究者が共に考え,その成果・問題点を社会に発信し,地域防災の推進に寄与することを主要な目的とした。また,災害体験及び科学的知識の共有と伝承,防災教育の重要性を考える時,若い世代の参加が是非とも必要であることから,新たな試みとして小中学生に登場してもらい「こまったこと,助かったこと」について体験談を発表してもらい記録として残すことを企画した。本シンポジウムの詳細は日本自然災害学会誌に特集記事として掲載予定である。ここでは,内容の一部を紹介する。
自然環境と歴史・文化の調和した町を守っていくために,平常時の町づくり計画の中で、町並みや景観の保全にも配慮する災害復興計画を考えておくことが大切である。できれば、鳥取県が提案した"災害復興補助金"の制度化と同時に、"災害復興法"の制定についても議論が必要だという提言があった。事前に教室で行われたワークショップの中で気づき興味深かったのは、自分は大変な思いをして悲しかったけれど、他の子はどうだったのだろうということに非常に関心を寄せていたことである。「自分のところも大変だったけど、あなたのところも大変だったんだね。」「あなたのところがそんなに大変だなんで知らなかった。」等の共有体験の場をつくりだすことは、子供たちの心に安心感と情報の共有をもたらすうえで重要であると思われた。

地震災害研究部門 松波孝治 

防災研究所一般研究集会

「プレート間カップリングの時空間変化に関する比較研究」報告

 新たな地震予知研究計画が平成11年度よりスタートし,この数年間で,特にプレート間カップリングの問題について多くの知見が得られてきている.これらの知見をレビューし,さらなる地震予知研究の進展をはかることを目的として,標記の研究集会(研究代表者:東北大学大学院理学研究科 松澤暢)が,2002年11月26日(火)・27日(水)に化学研究所共同研究棟大セミナー室において開催された.本研究集会は,地震予知研究協議会の「準備過程における地殻活動」計画推進部会が中心となって企画したものである.
 研究集会は三部構成で行われた.第一部では,各地域の状況に詳しい研究者が日本列島の北から南にわたって発表し,カップリングの地域性と共通点について理解を深めた.第二部では様々な分野の研究者の発表を基に,アスペリティとスロースリップについて分野間の相互理解を深めた.第三部では,今後プレート間カップリングの理解を進め,地震予知につなげるためには,どのような観測・研究と体制が望ましいかについて総合討論を行った.  これらの発表により,プレート間カップリングの性質について多くの成果が得られた.特に古い震度データの解析と構造の解析結果から,沈み込んだ海山が強いアスペリティとして振舞うことが明らかになり,この活動パターンがシミュレーションからの予測と調和的であったことは,出席者全員に深い印象を与えた.これらの成果は,様々な分野の研究者が互いに議論することによって初めて得られたものであり,今後もこのような研究集会を機会あるごとに企画していきたいと考えている.
 なお,各発表の概要は研究集会報告書に掲載される予定であるので,興味のある方は大志万E-mail:g53032@sakura.kudpc.kyoto-u.ac.jp)まで連絡をしていただきたい.

東北大学大学院理学研究科 松澤暢 
地震予知研究センター 大志万直人 

防災研究所一般研究集会 14K-07

「地殻変動、地球ダイナミックスの研究とモデル計算の最近の成果、今後の課題」報告

 平成14年12月19、20日の両日、化学研究所共同研究棟大セミナー室(19日)及び防災 研究所D570室(20日)を会場として、研究集会(研究代表者:国立天文台地球回転研究系教授 佐藤忠弘)を開催した。
 本集会は、地殻変動, 地球ダイナミックスの観測データ相互の関係や夫々の観測,物理モデルについて、解析法も含めた現状での問題点、今後の課題を広く 議論することを目的としている。また本年6-7月に札幌で開かれる International Union of Geodesy and Geophysics 総会に向けての上記分野の国内シンポジウムとしての役割も果たすべく企画された。
 参加人数は74名で、セッションを、観測と問題点(1)、同(2)、観 測とモデリング、今後の課題、と4つに分け計25編 の発表と最後の総合討論まで活発な議論が繰り広げられた。
 発表内容は多岐にわたったが、初日セッション1,2では、伸縮計(歪計)、傾斜計か らGPSにいたるこれまでの観測で蓄積されたデータに関して兵庫県南部地震との関連などを議論、その後、海洋底での観測や高安定 レーザー歪計、超伝導重力計など新しい技術を使用した観測の発表、大深度ボアホールや種々の宇宙測地技術の今後の計画などが発表さ れた。2日目には、観測された前兆的/余効 地殻変動や、プレート運動に絡む広域地殻変動から間隙弾性論を適用するローカルな現象 まで、その解釈・モデル化が主に議論され、さらに衛星重力観測など新しい話題も紹介された。最後の討論では、地球物理学的な現象 −イベントの発生を逃さず観測することの重要性と そのモデル化・解析が研究の進展に欠かせないという、本研究集会の二つのキー ワード「観測」「物理モデル」が改めて強調された。
 そして両者あいまって研究をさらに進めるため、来年度以降のの研究集会の継続的開催が提案され て閉会した。

地震予知研究センター 古澤保 

防災研究所一般研究集会

「災害数理学の現状と将来展望」報告

 「災害数理学の現状と将来展望」(研究代表者:京都大学防災研究所・佐藤忠信)の研究集会が平成14年11月11日と12日に開催された.災害の要因分析,災害要因の構造化,災害システムのモデル化,災害の予測,ライフサイクルコストを考慮した社会基盤施設の性能設計,災害保険の最適化,災害時における人間行動解析,災害時における危機管理のシステム解析,災害情報工学などの分野で利用されている最新の数理工学の学理と技術の現状を調査し「災害数理学」と名付け得る学問領域の創生が可能であるかどうかを議論することを目的とした研究集会である.
 発表件数は15件で,オブサーバーを含めて25名が研究集会に参加した.一件当たり25分の発表と10-15分の質疑応答時間を設けることにより,異なる研究領域からの参加者が発表内容を十分に理解した上で,どのような数理理論が災害の軽減と防止に有効になるかの議論を行なった.研究集会で発表された論文の内容は,「構造物とのヘルスモニタリングに関する数理理論」,「災害の波及と損失評価に関する数理理論」,「災害リスクの評価に関する数理理論」,「地震保険とリスク分散に関する数理」の4つの範疇に分類される.それぞれ我が国の第一線で活躍している若手の研究者が開発している理論の紹介があり,活発な質疑応答が行なわれ,災害の学理の研究に必要な最新の数理理論の一端が明らかにされた.

地震災害研究部門 佐藤忠信 

防災研究所一般研究集会

震源過程研究の最前線(日本地震学会夏の学校2002)

金森教授、地震学者と地震工学者の協力を促す
 世界的な地震学者であるカリフォルニア工科大学の金森博雄教授が昨年9月10日から11月26日まで防災研究所に滞在した。
 滞在中金森教授は毎週、学生とスタッフのために活気ある興味深い講義を行った。内容は「地震の物理学」「地震の動的トリガリング」「地震の予知と予報」「大気過程への地震学の応用」など多岐にわたる。また、防災研究所フォーラムでは「地震学と工学の共同研究:これまで、現在、そしてこれから」と題する講演を行った。この中で同教授は、地震の被害軽減のために、地震学者と地震工学者のコミュニケーションがいかに大切かを力説した。防災研究所は日本でも地震学と地震工学の研究者たちが最も協力しやすい態勢にある研究機関のひとつであると、同教授は指摘した。
 金森教授は「日本地震学会夏の学校2002」の特別講師も務めた。この夏の学校は防災研究所共同利用研究集会(研究代表者:京都大学総合人間学部 加藤護)として実施され、学生と大学院生60人を集めて2日間、花折断層から数百メートルという地点にある修学院離宮近くの関西セミナーハウスで開催された。同教授は世界の地震活動について述べ、地震の規模やエネルギーをどう測るかについて講義した。また、地震学の実際的な応用面にも触れ、大地震の際の被害軽減に役立つリアルタイム情報の活用などを紹介した。
 金森教授は京都滞在は楽しかったといっている。最近の日本の地震研究について新たに認識を深めたともいう。同教授が本拠地のカリフォルニア工科大学をこれほど長く留守にしたのはその25年間でこれが初めてだった。金森教授の訪問は、学生や研究者たちとの日々の接触を通して、防災研究所にとってももちろんたいへん有益なことであった。

地震予知研究センター MORI James Jiro  

防災研究所一般研究集会 14K-11

「流域の土砂流出環境を読む−工学と地形学の双方のアプローチから−」報告

日 時:平成14年9月12日(木)〜14日(土)
場 所:穂高砂防観測所(岐阜県吉城郡上宝村中尾)
出席者:眞板秀二(研究代表者:筑波大学農林工学系・助教授)
    池田 宏(筑波大学地球科学系・助教授)
    藤田裕一郎(岐阜大学流域圏科学研究センター・教授)
    他 合計29名(学生・院生7名を含む)
 流域からの土砂流出現象を総合的に明らかにすることを目的に、地形学と河川工学の研究者が野外観測で多くの成果を上げている穂高砂防観測所のフィールドで意見交換を行った。
 研究発表は12日の午後3時から5時(観測所)、夕食後の7時30分から9時30分(民宿)まで、「流域総合土砂管理」について考える地形学と水理学の接点と題して岐阜大学・藤田教授の発表など4課題について活発な討議が行われた。夕食後の4課題についてもアルコールの所為もあって自由発言なども多く時間延長で行われたが、宿が貸し切りのため他の宿泊客に迷惑を及ぼすこととはなかった。13日の午前は広島大学・小野寺教授のヒル谷試験流域の発表を含め6課題について発表があり、昼食後、1時から5時まで筑波大学・池田助教授と穂高砂防観測所・澤田助教授の案内でヒル谷の扇状地、外ヶ谷の段丘地形などについて野外巡検が行われ、小雨模様にも関わらず活発な意見交換が行われた。夕食後、午後7時30分から9時30分まで数件の飛び入り発表が行われ、前日に劣らず活発な議論が行われた。この研究集会は学生を含め若手の参加者が過半数を占め、この研究分野の将来が期待される集会であった。

写真1研究発表の様子(穂高砂防観測所) 写真2野外巡検参加者(外ヶ谷にて)
災害観測実験センター 澤田豊明