防災研究所における「大都市圏地殻構造調査研究」

−近畿圏広角反射法・屈折法地震探査等の大深度弾性波探査と断層モデル等の構築−

はじめに
 文部科学省は、「ライフサイエンス」、「情報通信」、「環境」、「ナノテクノロジー・材料」、「防災」の5分野を重点分野として、あらかじめ課題等を設定して研究開発を実施する機関を選定する委託事業を平成14年度から開始した。防災分野における「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」では、地震動(強い揺れ)の予測を目指した「大都市圏地殻構造調査研究」(研究代表者:東京大学地震研究所・平田直教授)が認められた。本調査研究は東京大学地震研究所、京都大学防災研究所、(独)防災科学技術研究所がコア機関となり、大都市圏(首都圏及び近畿圏)において大規模な地殻構造の調査研究を行うことと、これに基づき、高精度の地震動予測を行うための震源断層モデル等を構築することを目的としている。ここでは、防災研究所において取り組む調査研究の概要と研究体制を紹介する。

調査研究概要
 近畿圏において大都市に被害をもたらす地震としては、フィリピン海プレートの沈み込みに起因するプレート境界巨大地震や兵庫県南部地震などの内陸地殻内地震が主として上げられる。文部科学省地震調査推進本部において東南海・南海地震の長期評価により、次の地震の発生が近づいていることが発表された。またプレート境界地震の発生に関係した内陸地殻内地震の活発化が指摘されており、これらの地震の発生メカニズムを解明し、高精度に地震動予測を行うための震源断層モデル等の構築を進める必要がある。防災研究所で行われる調査研究は以下の2テーマである。

近畿圏大深度弾性波探査
 近畿圏において、制御震源を用いた広角反射法・屈折法地震探査を行い、東京大学地震研究所の担当する深部反射法地震探査、(独)防災科学技術研究所の大深度ボーリング調査と組み合わせて、地殻・上部マントルに至る弾性波速度構造、内陸活断層の深部形状及びフィリピン海プレート形状を明らかにする。また、自然地震を用いて、制御震源による調査結果と組み合わせて、詳細な弾性波速度構造および、震源断層のイメージングを行う。近畿圏におけるこれらの調査は平成16年度からの実施が予定されている。

断層モデルなどの構築
 地質学・地震学・測地学・地震工学などの基礎研究を通して、震源断層や地下構造等のモデル化手法、地震動の予測手法の高度化を図りながら、断層の準静的モデルの構築と歪蓄積過程に関する研究や強震動予測高精度化を目的とした震源モデル等の構築に関する研究を行う。得られた手法を探査結果に適用し、主に近畿圏などに影響を及ぼし得る震源断層の断層モデルや、大阪平野を中心とする近畿圏の地殻?堆積盆地構造モデルを構築し、地震動予測(長期評価、強震動評価)の精度を向上させることを目的としている。

共同利用研究
 「断層モデル等の構築」においては、ここで行われる大規模地殻構造調査だけでなく、地形学、地質学、地震学及びその周辺研究分野の知見を生かした総合的な研究が必要とされる。東京大学地震研究所と京都大学防災研究所は全国共同利用研究所であることを生かし、平成15年度からは共同利用研究による研究を行うこととしている。京都大学防災研究所では以下の3つの研究項目をたてて研究をすすめるとともに、地震研究所の共同研究ともリンクして研究を推進していく。
+自然地震・制御震源を用いた内陸活断層の深部モデルと地殻内三次元構造モデルの構築に関する研究 +断層の準静的モデルの構築と歪蓄積過程に関する研究
+強震動予測高精度化のための震源モデル・堆積盆地構造モデルの構築に関する研究

「大都市圏地殻構造調査研究」全体についてはウェブページ http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/daidai/index.html をご参照ください。今年度の地殻構造調査として房総半島を縦断する測線が開始されております。防災研究所共同利用研究については、http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/をご参照ください。
京都大学防災研究所における「大都市圏地殻構造調査研究」概念図.
図は伊藤潔助教授作成のものに加筆して作られました。
地震災害研究部門 岩田知孝