特定共同研究12P-2

「災害監視・解析のための
リモートセンシングの応用に関する研究」


研究代表者 水災害研究部門  寶  馨

 リモートセンシングは、広域で発生する自然災害状況を迅速に把握し、その災害発生のメカニズムを理解するために有用な基本的観測手段である。平成12?13年度の2か年にわたる本研究では、水・土砂・地震・地盤・気象・火山・農林等の災害の各分野で利用可能な衛星及びセンサーの現状とその災害関連の応用研究を各分野の研究者が集まってレビューする。さらに、災害監視を主目的とする高分解能陸域観測衛星(2004年(平成16年)打ち上げ予定のALOSを想定)を防災の研究と実務に有効利用するための方策を考究することを目的としている。
 平成12年度は、各分野でのリモートセンシングの利用状況、利用可能性について調査した。平成13年2月21日には、宇治キャンパス(木質ホール)において「ワークショップ --自然災害の防止・軽減に関する衛星リモートセンシング技術の可能性--」を開催し、14人の方々から下記のような話題提供をいただいた。それの発表内容を、(社)資源協会・地球科学技術推進機構の地球科学技術フォーラム・地球観測委員会(防災環境サイエンスチーム、水文過程サイエンスチーム)と京都大学防災研究所のワークショップ報告書として取りまとめた。
 平成13年度前半は、それらを再構成し、特集記事として日本自然災害学会の学会誌・自然災害科学第20巻第2号に、特集記事「自然災害防止・軽減のためのリモートセンシング技術の可能性」を掲載した。平成14年1月と3月には宇宙開発事業団において、ALOSの開発担当者や防災環境サイエンスチームのメンバーとともに、衛星リモートセンシングの利用のために克服すべき課題や、今後の可能性について研究討議を行うこととしている。この結果については、別の機会に取りまとめて報告する予定である。

ワークショップ --自然災害の防止・軽減に関する衛星リモートセンシング技術の可能性--
(1)様々な災害に関する衛星データの利用
[豪雨・洪水・海岸災害]
平林由希子 (東京大学):TRMM/PRによるモザンビーク大洪水の検出
幾志 新吉 (広島工業大学) :多種衛星画像による1998年長江中流域の洪水氾濫状況の時系列モニタリング
佐渡 公明 (北見工業大学):NOAA を用いたバングラデシュの洪水危険度図の作成
坂井 伸一 (電力中央研究所):沿岸水域の防災・災害監視へのリモートセンシング情報の利用」
[地震・火山災害]
竹田  厚 (東北文化学園大学):衛星による都市災害の被害状況の把握 --阪神淡路の被害状況-
石黒 悦爾 (鹿児島大学農学部):斜面崩壊ハザードマップ
後藤恵之介 (長崎大学) :活断層の衛星温度観測による地震発生予知への布石
福井 敬一 (気象研究所地震火山研究部):火山監視への衛星データの活用の現状と将来
浦井  稔 (産業技術総合研究所地質調査所):ASTERによる火山観測--有珠山,三宅島等を例として--
大倉  博 (防災科学技術研究所)、島田政信(宇宙開発事業団): RADARSAT DInSAR による三宅島の地殻変動のモニタリング」
[農業・森林]
斎藤 元也 (農業環境技術研究所):衛星による農業災害監視システムについて

(2)防災リモートセンシングデータベース
鈴木 広隆 (大阪市立大学工学部):防災リモートセンシングデータベース構築へ向けて
バンバン・ルディアント (アジア防災センター):インターネット防災GISへの衛星データの取り込みに関する研究

(3)将来衛星(特に ALOS)の防災への利用
冨井直弥(宇宙開発事業団):陸域観測技術衛星 ALOS のミッションと計画
(4)全体討議

防災リモセンWS 議論メモ 2002.01.18

日時:2002年01月18日
場所:NASDA EORC
参加者:五十嵐(EORC)、石黒(鹿児島大)、河邑(豊橋技科大)、幾志(広島工大)、 後藤(長崎大)、近藤(千葉大)、斎藤(農環研)、鈴木(大阪市大)、宝(京大)、 竹田(東北文化学園大)、立川(京大)、田殿(EORC)、冨井(NASDA)、菱田(JAMSTEC)、 渡部(EORC) (16名、50音順)

議論内容:
1. これまでの経緯 宝

2. ALOS のミッションと災害状況把握に向けた取り組み 富井 資料3
○ミッション
・地図作成 国内 1/25,000、アジア域主要都市(100万人都市) 1/1,000,000
・地域観測 合成開口レーダーと光学センサの同時観測システムは世界初
・災害観測 全世界48時間以内に観測可能、雲がかかっていても5日以内
データ中継衛星と使って地球の裏側の観測も即時
・資源探査

○センサ
・PRISM 立体視 3方向から観測して DEM を作る。上の地図作成地域と対応。
・AVNIR2 4チャンネル、ポインティング機能。観測範囲 1700km。
・PALSAR 編波。2x2 の4通り。

○プラットフォーム
・2004年6月末打ち上げ予定
・3年のミッション、5年分の燃料
・AVNIR2 のポインティング機能を使った場合、任意の地点を2日以内に
観測可能(サブサイクル2日)。
・PALSAR の SCAN SAR mode を用いた場合だったら5日。

○実利用実証として大学が受信するのはかなり困難。受信装置が特殊である。

○NASDA の災害状況把握ミッション
・地震による地殻変動領域 <--- EORC が力を入れている。
・火山活動に伴う地形変化モニター
・洪水領域
・油汚染

○ALOS データ処理・配布方針
・世界中
・PALSAR 最初の92日間は JERS1 と同様のモードで世界中のデータを取る。この期間は特殊な運用はしない。
これを変化域を抽出する際の基本データとする。

○災害観測実施方針
・予兆現象の観測は原則的に実施しない。

予兆を観測して意味があるではないか。狼少年ではよいではないか。(後藤)。
NASDA は契約に基づく観測ミッションをもっている。それらとの関連があるので、それを無視する観測は難しい。(冨井)
災害後のことだけでなく、防災の観点からすると、予兆があることを観測すべきである。国民のニーズを考えるべきである。生命が失われないこと。(菱田)
国際的には、防災という認識よりも、災害管理(災害の後始末、減殺)が大事。disaster managemaent, disaster reduction はできるけどdisaster prevention はできるのか。防災というと予兆を意味する ことになるが、事後の対策も大事。そのためには、予兆を観測しないというのも頷ける。(竹田)
それはわかる。だけど予測できて始めて意味がある。科学の戦略に関わる問題である。(菱田)
予兆現象の観測要求は受け付けないというよりも、むしろ、プライオリティを調整して要求する場を設けるべきである。(斎藤)
観測しないという後向きな表現は避けるべきであろう。(宝)
hazard (自然現象)は prevent できない。disaster (人間活動が入る)は prevent できると理解している。hazard と disaster は同じではない。(宝)

○課題
防災・災害管理で実際の行政利用に結び付けるための課題。
今からすべきことはなにか。
ボトムアップ的な仕組み。市長村単位からのデータ要求を受け付けるような仕組みが大切。(宝)
ナホトカの例。地元から NASDA にクレームがあった。データを公開したために、地域の産業にとってマイナスとなってしまい、地元からデータを流さないようにしてほしいという要求があった。(冨井)
海上保安庁。油がどこに漂着するかを予測することが大切。
そのときは nowcast が最も有効な手段であった。技術と情報提供の議論が大切。(菱田)

○経済効果
航空写真とリモセンの違うところ。航空写真では予知は不可能。
衛星画像では予知の可能性がある。そのほうが、全体的にはお金がかからないはず。(後藤)
benefit をどのように評価するか。

3. 話題提供
○石黒先生
NOAA の受信装置 鹿児島大学。生データを配布。DVD でデータ確保。
2ヵ月間は生データをハードディスクに記録しているのでダウンロード可能。有償で passwd を発行しダウンロードを許可している。
○後藤先生
海の異変の把握に衛星データは有効である。地震に関して、熱赤外データによって活断層位置を把握できる可能性があることに注目している。300m から 500m 程度の分解能があれば活断層を抽出することが可能であろう。熱赤外センサーの高分解能化に期待する。
熱赤外センサーは高分解能化が難しい。残念なことだが、仮にできるとしても産業界からの期待は少ない。(富井)
定常的に地表面温度を測定してその差画像を常にモニタリングするような体制が大切である。
中国ではすでに行っており、非常にいい精度でモニターできるという報告を見たことがある。(近藤)
○竹田先生
東海豪雨。西びわ島、イコノス衛星がどの程度判読に役立つか。航空写真から作成した1mシミュレーション画像を用いてイコノス画像を評価した。イコノスで明確に新川堤防の破堤地点は確実に読み取れる。ポンプ排水のホースも識別可能。阪神地区のシミュレーション画像を用いた判読例を紹介。
海外での災害モニタリングにイコノス衛星は役に立つ。災害の原因を作っている箇所は全体の被災域のほんの一部。その位置を把握するのに高分解能衛星によるデータは役に立つはず。
2.5m 分解能のシミュレーションデータを作って見たところ、1m に比べると、かなり見えるが、訓練を積んでいないと識別は難しい。
ASTERによって2000年4月3日に観測された有珠火山。黒い帯は降灰地域。画像の大きさは7.5km x 8.3kmNOAA/AVHRR画像から作成したバングラデシュ国の洪水ハザードマッ プ。ハザードランクが大きいほど,洪水の危険性が高いことを示す

(水災害研究部門 寶  馨)