ユネスコ・京都大学共催
「地すべり危険度軽減と文化自然遺産の保護」
及び国際地すべりコンソーシアム(ICL)の設立


1.はじめに
 平成14年1月21日〜24日にユネスコ・京都大学共催の国際シンポジウム「地すべり危険度軽減と文化自然遺産の保護」が、京都市において開催された。この会議では、研究成果の発表と討論を行うとともに,地すべり研究に携わる世界の主要な組織からの参加者が,地すべり研究を推進するための新たな国際組織「国際地すべりコンソーシアム(ICL)」の設立と新たなユネスコの研究計画「国際地すべりプログラム(IPL)」及びその中核となるユネスコ連携支援地すべり(斜面災害)研究センター(RCL/UNESCO)の設立について議論を行った。21カ国,3国連機関から計84名の専門家が集まり,44件の研究発表と19件のテーマ講演が行われた。プログラムは以下の通り。 《1月21日》地すべりに関する新たな国際研究協力組織について検討を行い、2002年京都宣言「国際地すべりコンソーシアムの設立」を全員一致で採択し、国際地すべりコンソーシアム(ICL)が発足した。
《1月22日》1.シンポジウム開会式:ユネスコ副事務局長代理、文部科学省、外務省、京都大学防災研究所等の挨拶と実行委員長によるシンポジウム目的の説明,2.地すべりに関連した国際的イニシアチブ:UNESCO, WMO, UN/ISDRから国連機関で実施している地すべり関連の種々の活動の紹介および討論,3.地震豪雨時の高速長距離土砂流動現象に関するセッション
《1月23日》1.文化遺産と地すべり(9:00-12:00),佐々恭二教授によるテーマ講演「世界遺産マチュピチュの調査報告」の紹介.2.地すべり計測と地すべり分布図他。 《1月24日》1.パネル討論会:「世界遺産マチュピチュの地すべり危険度」,2.円卓討論会:21世紀の地すべり研究のための「国際地すべりコンソーシアム」(10:30-12:30),3.円卓討論会:「国際地すべりプログラムとその他の活動」

2.世界遺産マチュピチュ遺跡の地すべり危険度評価に関するセッション
 2000年3月から防災研究所が中心となってペルー国文化庁等と地すべり危険度評価のための共同研究を実施している。現地調査の総合的検討結果と深層地すべりの兆候である可能性が高いクリープ的な変動観測が紹介された。ユネスコ文化遺産部、ペルー文化庁、クスコ大学教授等を交えて議論が行われ、地すべりの危険性があること及び今後さらに詳細な観測調査を実施すべきであることで一致した。

3.国際地すべりコンソーシアム(ICL)の経緯
 ユネスコと京都大学防災研究所間で「地すべり危険度軽減と文化自然遺産の保護」(MoU)に関する研究協力覚え書きが1999年12月に交わされた。2001年1月にユネスコと国際地質対比計画共催の国際シンポジウムが東京で開催され、その際に採択された「2001年東京宣言」において地すべり研究を推進するための国際組織である「国際地すべりコンソーシアム」(ICL)を設立することが決議された。その後、ユネスコと防災研究所の間で定款その他の検討が進められてきたが、今回の国際シンポジウムの中で、国際地すべりコンソーシアムの設立について合意が得られ正式に発足した。初代会長には本研究所地盤災害研究部門の佐々恭二教授が選出され、また、7名の暫定企画委員が組織された。

4.目的と構成組織
ICLの目的は以下の4項目を挙げている。
1)社会と環境に資するため、地すべり研究と教育を含む能力開発を促進すること
2)都市、農村、開発地域、および文化自然遺産地区において地すべり危険度を評価し、自然環境の保護と社会的価値の高い地域の保全に資することを目的として、地球科学と技術を適切な文化的かつ社会的状況の中で統合すること
3)地すべり危険度予測と災害軽減の研究における国際的専門技術を結合・企画調整することにより、種々の国際的国内的プロジェクトのパートナーとしての高い評価を得られる組織となること
4)地球規模で多領域にわたる地すべり研究プログラムを促進すること
ICLは、ユネスコ、国連世界気象機関(WMO)、国連食糧農業機関(FAO)、国連防災戦略事務局(UN/ISDR)、日本政府(文科省)からの特別後援を受ける4つのタイプの組織の連合体である:
1.国連機関や国際山地総合開発研究センターほか政府間組織、
2.非政府組織:国際地質学連合(IUGS)など国際学会と(社)日本地すべり学会などの国内学会、
3.イタリア環境庁(ENEA)、カナダ地質調査所など政府機関と京都大学防災研究所、フローレンス大学などの大学・研究所など公共的組織、
4.上記の3タイプ以外の組織あるいはその複合組織。
なお,ICLの今後の活動としては,以下を予定している。
1.メンバー組織の募集,2.正式に確定したメンバー組織による最初の代表者会議を開催すること,3.この代表者会議で、予算、活動内容、研究プログラム等を決定すること、4.「国際地すべりプログラム」が、ユネスコとICLの共同プログラムとして採択されるよう準備を進めること、5.ユネスコ連携支援地すべり(斜面災害)研究センターの設立準備を進めることである。
(地盤災害研究部門 佐々恭二)