京都大学防災研究所 特定研究集会報告

21世紀の水防災研究を考える −最近の水災害から見えてくること−


日 時:平成12年12月6日(水)9:00〜17:00
場 所:京都大学宇治キャンパス 木質ホール
出席者:合計75名

プログラム:
09:00〜09:05 開会挨拶・・・・・・代表者 中川 一
第T部 最近の事例から(話題提供)
09:05〜09:35 地下空間での水害 ―福岡水害から学ぶ―京 大 井上和也
09:35〜10:05 都市化域での豪雨土砂災害 ―広島の土砂災害から学ぶ―広島大 福岡捷二
10:05〜10:35 東北南部・北関東の水害 ―記録的豪雨にどう対応するのか―東北大 真野 明
10:35〜10:45 休憩
10:45〜11:15 最近の高潮災害 ―台風9918号高潮が残したもの―京 大 高山知司
11:15〜11:45 中国における最近の水害 ―日本の河川工学への刺激を考える―東 大 玉井信行
11:45〜12:15 ベネズエラ水害 ―日本の災害との共通点―京 大 高橋 保
12:15〜13:30 休憩
13:30〜14:00 発展途上国における津波災害 ―低頻度災害に対する対応―東北大 今村文彦
14:00〜14:30 過去の水害を教訓とした21世紀の水防災 ―水防災研究と施策への反映― 建設省 末次忠司
 
第U部 ラウンドディスカッション 14:40〜17:00 「21世紀の水防災を考える」
モデレータ:寶 馨・戸田圭一
キーワード:地下空間の安全性、都市化と土砂災害、高潮・津波研究と教育・行政のあり方、諸外国への防災研究・技術のトランスファー、防災研究成果の実際への活用、今後なすべき研究課題と施策、環境と防災、今後の展望など

 本研究集会は、水災害の防止・軽減に携わっている研究者・実務者等が一堂に会し、近年に国内外で発生した顕著な水災害の調査研究の成果を持ち寄り、ここから得られた新たな知見、問題点等を抽出することで、来るべき21世紀の水防災研究のあり方を探ろうという趣旨のもとで開催されたものである。
 プログラムに示すように、研究集会は2部構成となっている。第T部では最近発生した水災害の事例について、災害調査の団長を務められた先生方やその方面の研究で中心となって活躍されておられる方々から話題提供していただいた。その際、水害の実態などの事実に重点を置くのではなく、その災害で何がわかり、何が課題かなど、問題点・課題の抽出に重点を置いて話題提供いただいた。これを受けて第U部のラウンドディスカッションでは、第T部で抽出された問題点・課題をどのようにして打開していくかを、キーワードに沿って参加者から自由に意見を述べてもらい、来るべき21世紀の水防災がどうあるべきかを議論した。
この第U部ではあえてパネラーを設けない、ラウンドディスカッション形式とした。ややもすればパネルディスカッションではパネラーの主張などに時間をとってしまい、フロアーからはほんの少ししかしゃべらせてもらえない、といったことがよく見受けられるが、ここでは、参加者全員が、いわばパネラーになったつもりで、積極的に議論に参加していただいた。
第U部では、水害に強い街づくりのために下水を含めた流域全体の治水モデル構築の必要性、豪雨土砂災害の予測や避難予警報等の危機管理へのレーダー情報の有効利用、大学で開発した種々の数値計算プログラムの性能照査とこれを民間が容易に利用できるような解説の提供依頼など、種々の意見が交わされた。
議論は発散してもかまわない、まとめようとはしない、重要な点については意識の共有化ができるとよい、という思想をモットーにしていたので、極めて活発で有意義な議論がなされた。その場でキーワードや議論している内容をパワーポイントで表示するという電子黒板を設けたため、予想していたほど議論は発散せず、集中して議論することができた。今後の研究集会などでは是非ともこの方式を導入されることをお勧めする。
 参加者は大学関係者が35人、公官庁関係者が12人、会社・コンサルタントが7人、学生が21人であった。学生の参加者が多かったのが特徴で、東京工大、九州大、立命館大など、防災研究所以外の学生が6人参加している。水防災研究に関心のある学生が多数参加してくれたことは大変喜ばしいことであったが、積極的に議論に参加することがなかったのは残念である。
 この研究集会を契機として、ここで議論したことの幾ばくかでもさらにきめ細かい議論へと発展し、実りある21世紀の水防災研究を進めるべく精進したい。
(研究代表者:水災害研究部門 中川 一)