諏訪之瀬島2000年の火山活動


諏訪之瀬島位置図

 「諏訪之瀬島」といっても,そんな火山がいったい日本のどこにあるのだろうと思われる方も多いと思われる。よく目を凝らして地図をみてみると,九州の南,屋久島と奄美大島の間に小島が点在するのがわかる。これがトカラ列島である。トカラ列島の島々は,行政区分では鹿児島県鹿児島郡十島村に属する。諏訪之瀬島はこのトカラ列島の1つの火山島であり,鹿児島市からは南南西240kmに位置する。週3便しか就航していない村営船「としま」で鹿児島港から9時間もかかる離島の中の離島なのである。島の人口はわずかに70人。しかし,この諏訪之瀬島は,日本では桜島についで2番目に頻繁に噴火が発生する火山といってよいかもしれない。

 諏訪之瀬島は1813〜1814年と1884〜1885年に,それぞれ島の中央部から西部と東部の海岸に達する安山岩質溶岩流を流出する大規模な噴火が発生した。更に,1957年ごろからは,頻繁に島の最高峰御岳(799m)山頂の火口においてストロンボリ式と小規模のブルカノ式の噴火活動を繰り返してきた。ストロンボリ式の噴火は,桜島でみられるようなブルカノ式の噴火に比べると,爆発力は弱く,噴石を数kmに渡って飛散させることは稀である。しかし,噴火の間隔は短く1分から数分の時間間隔で頻繁に爆発音を伴いながら噴火を繰り返す。
 離島の中の離島であるため,これまで火山観測はあまり行われておらず,火山観測体制も不十分である。国立大学の火山研究機関は合同で,1984年7・8月,1989年10月および1998年10月に3回の集中総合観測を実施した。また,本研究所火山活動研究センターでは,諏訪之瀬島火山の活動を常時把握するため,1989年5月に,御岳山頂から3.3kmの距離に地震計と低周波マイクロホンを1台ずつ設置し,パソコンと一般加入電話回線を用いたダイアルアップ伝送システムにより火山性地震・空気振動の観測を継続してきた。1994年には地盤変動を捕捉するためのGPSが1台設置した。
諏訪之瀬島の1989年のストロンボリ式噴火
(撮影:東京大学・鍵山恒臣)
諏訪之瀬島の山頂火口の全景(2000年12月24日)
諏訪之瀬島の新火口2における噴煙の放出 諏訪之瀬島の新火口3からの火山ガスの放出

 火山活動研究センターの1989年以降の観測によると,諏訪之瀬島は,1994年ごろまで非常に頻繁に噴火を繰り返した。例えば,1989年9月の初めには,B型地震と呼ばれる火口浅部に震源をもつ地震が,1日に200回以上も発生した後,爆発的な噴火活動が11月初めまで続いた。この期間の爆発回数は464回である。同様に,1992年の6月ごろから頻繁にB型地震および火山性地震が頻発した後,9月からストロンボリ式の爆発活動が激化し,10月21日には1日に244回の爆発が発生した。しかし,1992年〜1993年ごろの活動をピークとして,1995年以降はほとんど爆発的な噴火活動が見られなくなっていた。
 1998年10月24日に,御岳火口直下を震源とする有感地震が発生した(M=2.5,2.6)。また,2000年に入り,火山性地震及び微動の発生回数がやや増加する傾向が見られるようになった。2000年12月19日に,十島村役場より「漁船から通常の火口とは違う場所から噴煙を上げているとの連絡があった」との通報が鹿児島県庁に入った。12月12日に開聞岳山頂から薄い白煙が上がり鹿児島県庁の要請でヘリコプターからの調査及び地震計の設置を行い,「開聞岳の噴火の可能性はない」との見解を示した1週間後のことである。鹿児島県庁からは,本研究所火山活動研究センターに連絡があり,センター長石原教授は,「地震活動には,大きな変化は見られないので,大規模な火山活動に移行するとは考えにくい」との判断を示した。翌12月20日に,鹿児島県所有の消防防災ヘリコプターにより,石原教授が,鹿児島地方気象台の調査官および鹿児島県庁職員とともに諏訪之瀬島御岳火口の上空からの調査を行ったところ,現在の活動火口の北および東200〜300mの地点に新たに2箇所の噴気口が確認された。鹿児島地方気象台は臨時観測情報を発表した。火山活動研究センターは,2000年に入り地震活動の微増が見られるが,噴火活動の活発であった1990年代の初めに比べると火山性地震・微動の発生頻度は小さいので,現時点では中・小規模の噴火の発生は十分予想されるが,集落が被災するような大規模な爆発を起こすとは,考えにくいと判断した。これを受け,鹿児島県は,1997年に定めた地域防災計画の規制基準に基づき,十島村に対して火口から2km以内を立ち入り禁止にすること,3km以内の噴石に対する注意(特に,児童生徒に対してはヘルメットの着用),避難場所等の確認,周知徹底などを指示した。十島村役場は「諏訪之瀬島火山活動災害警戒本部」を設置した。緊急時に必要な対応を確認し,12月 22日警戒本部を解除した。

 12月21日には,マスコミの諏訪之瀬島火口の取材などにより,東側の新火口は,2ヶ所になっていること,また,そのうちの1つの火口は赤熱状態であるなどの情報がもたらされた。火山活動研究センターは,12月24日に,井口助教授,味喜助手を派遣し,防災ヘリコプターを利用した火口上空からの赤外線熱映像測定を実施した。新たに形成された東側の2箇所の火口では,最高温度90℃および270℃が測定された.また,これまで活動していた火口も温度が450℃に達しており,高温のマグマが御岳火口の浅部まで上昇していることが確認された.
 「12月29日午前10:30頃,大きな爆発音とともに,御岳が火山灰を噴出した」との十島村役場からの再度の通報があった.この後活発な火山灰の噴出は12月31日の午前中まで続いた.今後,噴火活動の推移を注意深く見守っていく必要がある.火山活動研究センターの観測では噴煙の放出は,火山性微動の頻発として観測されている.しかしながら,現在の観測システムでは,火山活動をリアルタイムでは観測できず,観測体制としては不十分である.また,20世紀には霧島火山帯のいくつかの火山が活発化する事例が,幾度かみられた。霧島火山帯全体に目を配る必要がある。今後の観測体制の整備が望まれる.
(火山活動研究センター 井口正人)
諏訪之瀬島における月別火山性地震の発生頻度 諏訪之瀬島火口周辺の熱映像