「都市地震災害軽減に関する日米共同研究」の経緯と今後の方向

―文部省特別事業から科学研究費特定領域研究への移行―


1.はじめに  「都市地震災害の軽減に関する日米共同研究」は、防災研究所を担当機関とする文部省特別事業として、平成10年度から6年間の計画で発足した。その経緯と研究内容については、DPRI Newsletterの第8号と第10号の記事を参照されたい。
その後、文部省における研究経費手当に関する方針変更など状況の変化があり、日米共同研究は、発足1年で機構を変え、平成11年度から5年計画で、新たに科学研究費特定領域研究(B)に移行することになった。本文では、こうした経緯を含め、日米共同研究全般に関する活動経過をとりまとめて報告する。これにより、機構の変化にもかかわらず、研究の一貫性をできるだけ確保することを目指す指針としたい。

2.研究計画の経緯
 1995年の兵庫県南部地震と1994年のノースリッジ地震による災害は、マグニチュード7クラスの地震が大都市圏の直下で発生すると甚大な被害をもたらすという、日米共通の課題を明らかにした。大都市直下に発生する地震に対する都市基盤施設の脆弱性が浮き彫りになったことを受けて、1996年4月に東京で開催された日米首脳会談において、都市地震災害を軽減するための研究の重要性が共通議題の一つとして取り上げられた。
この共通議題を実行する構想を練るために、文部省科学研究費と米国科学財団(NSF)研究費の援助の下に「第2回都市地震災害軽減のための共同研究に関する日米ワークショップ」が1997年2月27日-3月1日に東京で開催され、重点研究課題の選定と、日米共同研究を推進するうえでの関係機関の相互関係の整理と双方に国内委員会によるコーディネーション機能を持つべきことなどの方針が合意された。

3.文部省特別事業による研究開始(平成10年度)
 上記ワークショップの結果に基づき、文部省特別会計による特別事業として「都市地震災害の軽減に関する日米共同研究」を発足させることが合意され、京都大学防災研究所を担当機関とし、全国の研究者が参加する方式で、平成10年度からの6年計画としてスタートした。研究発足については日米間で緊密な連携がとられ、米国側では、NSFにより、新規プロジェクト"US-Japan Cooperative Research on Urban Earthquake Disaster Mitigation"による研究公募が行われた。これにより採択された課題は1998(平成10)年9月に活動を開始した。
 日本側の実施体制として、防災研究所内に企画委員会(委員長:今本博健防災研究所長)を設定し、プロジェクトに実施にあたる実行委員会(委員長:亀田弘行(京大防災研))ならびに幹事会(総括幹事:佐藤忠信(京大防災研))を置き、さらに日米間の調整に当たるコーディネーション委員会(委員長:小谷俊介(東大工))を設置して、活動が開始された。平成10年度内に、企画委員会1回(7/1)、実行委員会3回(4/27, 11/20, 2/17)、日米合同コーディネーション委員会1回(東京10/7-8)が開催された。また、必要に応じて随時幹事会が開催された。

 日本側の文部省特別事業における研究課題は以下のとおりである。
1直下地震による都市の災害防止に関する先端技術の開発
1-1性能指向型設計手法に立脚した耐震技術の開発(チームリーダー:小谷俊介(東大工))
1-1-1)地震動の生成・伝播・増幅特性メカニズムの解明
1-1-2)液状化地盤の挙動と地下構築物の耐震性能評価
1-1-3)構造物応答予測の検証・改良と多面的構造性能評価手法の開発
1-1-4)要求構造性能確保のため耐震技術の開発
1-2 都市施設の高度耐震技術の開発(チームリーダー:家村浩和(京大工))
1-2-1)先端技術を利用した橋梁の補強対策法の開発
1-2-2)構造振動制御における先端技術の開発
1-2-3)構造物の損傷度検出システム
2都市地震災害防御のための高性能社会基盤システムの構築(チームリーダー:高田至郎(神大工))
2-1)社会基盤システムの地震時性能規範の提示とその方法論の確立
2-2)地震時脆弱性の低減と発災後の緊急対応のための先端技術の応用
2-3)地震危険度および災害危険度評価の高精度化
3地震災害に関する危機管理の比較防災論的研究(チームリーダー:林 春男(京大防災研))
3-1)最近の都市地震災害を事例とする事後対応過程の比較災害論的究明
3-2)総合的な損失の定量化と災害過程モデルの提示
3-3)防災に関する科学的知見の体系化支援ツールの開発
3-4)マルチメディア災害シミュレーション手法の開発

4.科学研究費特定領域研究(B)
 「日米共同研究による都市地震災害の軽減」への移行(平成11〜15年度)

 上記のように日米共同研究が発足したが、一方文部省においては、特別会計の予算枠よりも柔軟に国際共同研究を実施する方策が検討され、平成10年10月に至り、平成11年度からの日米共同研究を科学研究費特定領域研究(B)に切り替えて、継続性を持たせた形で研究を実施することが決定された。これに基づき研究の枠組みの再構築が行われた。他の特定領域研究との間での兼務の制限など種々の制約条件のもとで検討を進めなければならなかったが、できる限り特別事業との継続性を維持する方針で調整が行われた。その結果、以下のように総括班と5研究項目・10計画研究からなる「日米共同研究による都市地震災害の軽減」が、平成11年度〜15年度の計画で再出発する運びとなった。

1.総括班(領域代表:亀田弘行(京大防災研)、総括幹事:佐藤忠信(京大防災研)、コーディネーション委員長:小谷俊介(東大工)、ほか、アドバイザー2名、委員17名)
2.計画研究(かっこ内は研究代表者)
研究項目1.強震動予測と地盤の地震危険度評価
計画研究1-1都市域における破壊的強震動の高精度予測に関する研究(岩田知孝(京大防災研))
計画研究1-2強地震動と液状化に対する地中構造物の耐震性に関する研究(濱田政則(早大理工))
研究項目2.構造物の地震応答性能の向上
計画研究2-1性能基盤型設計法の開発(壁屋澤寿海(東大震研))
計画研究2-2構造物の脆性破壊防止と靱性向上(井上一朗(京大工))
研究項目3.都市施設の高度耐震技術の開発
計画研究3-1先端技術及び高機能材料を利用した都市施設の耐震性向上(川島一彦(東工大))
計画研究3-2構造物のモニタリングと損傷度検出システム(鈴木祥之(京大防災研))
研究項目4.都市地震災害防御のための高性能社会基盤システムの構築
計画研究4-1社会基盤システムの地震時性能規範評価法の開発(岡田憲夫(京大防災研))
計画研究4-2社会基盤施設のリスク分析と先端技術の応用(沖村 孝(神大都市安全))
研究項目5.都市地震災害に関する危機管理の比較防災論的研究
計画研究5-1都市地震災害過程のモデル化と総合的な損失の定量化(河田恵昭(京大防災研))
計画研究5-2マルチメディアによる地震災害の事後対応過程の検討(須藤 研(東大生産研))

 これらの新体制における情報交換と個別課題における日米間のパートナーシップを進展させるため、平成11年3月19日〜20日、カリフォルニア州ソノマにおいて、日米合同ワークショップが開催された。

5.防災研究所研究発表講演会における特別報告の実施
 平成11年2月17〜19日に開かれた平成10年度京都大学防災研究所研究発表講演会の一環として、第1日(2月17日)13:00〜17:00に宇治構内の木質ホールにおいて、特別報告「都市地震災害軽減に関する日米共同研究」が開催され、日米共同研究の各課題における研究の進捗状況とともに、本プロジェクトの経緯と科学研究費特定領域研究への移行と来年度以降への見通しが報告された。
当日は74名の参加者とともに、上記の計画研究3-2関連の会合のため防災研究所を訪問中の米国の研究者9名がオブザーバー参加し、篠塚正宣・南カリフォルニア大学教授がグループを代表して、米国の研究の状況報告とともに、今回の招待への謝辞が述べられた。

 特別報告のプログラムは以下のとおりである。
特別報告「都市地震災害軽減に関する日米共同研究」
・総括報告 1)「都市地震災害軽減に関する日米共同研究」の経緯と今後の方向 亀田弘行
1 直下地震による都市の災害防止に関する先端技術の開発
1-1 性能指向型設計手法に立脚した耐震技術の開発
  2)直下地震の強振動予測  ○入倉孝次郎 岩田知孝
  3)地盤の側方流動に対する基盤構造の耐震性 濱田政則
  4)建築物の性能評価型設計法にむけて 塩原 等
  5)多軸地震応力を受ける鉄筋コンクリート柱の損傷評価法   ○渡邊史夫 河野 進
1-2 都市施設の高度耐震技術の開発
  6)先端技術を利用した橋梁の耐震補強法の開発 川島一彦
  7)構造振動制御における先端技術の開発   ○家村浩和 鈴木祥之
  8)構造物の非線形応答の同定とヘルスモニタリング 佐藤忠信
(休憩)
2 都市地震災害防御のための高性能社会基盤システムの構築
   9)都市基盤整備としてみた災害リスクマネジメントの研究課題と展望 岡田憲夫
  10)リモートセンシング技術を用いた地震被害把握   ○山崎文雄 松岡昌志
  11)兵庫県南部地震における水道管被害の方向性と断層近傍地震動特性 高田至郎
3 地震災害に関する危機管理の比較防災論的研究
  12)最近の都市地震災害を事例とする事後対応過程の究明 立木茂雄
  13)総合的な損失の定量化と災害過程モデルの提示 河田惠昭
  14)防災に関する科学的知見の体系化支援ツールの開発 田中哮義
  15)マルチメディア災害シュミレーション手法の開発 林 春男

6.むすび
 以上、日米共同研究に関する一連の経過を報告した。文部省特別事業として防災研究所あげて取り組んだ本プロジェクトは、結局機構的には1年で終了し、科学研究費特定領域研究として平成11年度に再出発することとなった。しかしながら、この新体制は、その前段階における特別事業へ向けての努力があってこそ実現したものであり、精神的にも内容的にも継続性をもって新しい活動が始まろうとしている。特別事業としての取り組みは、研究計画の内容的な事項だけでなく、実施段階での事務的手続きも相当な苦労を伴うものであった。この1年、特別事業の実施に尽力された研究担当の各位とともに、この事業を支えて頂いた今本防災研究所長をはじめとする防災研究所の関係各位、特に事務部の経理ならびに研究助成担当の方々に深謝の意を表するものである。
 新たに発足する科学研究費特定領域研究では、各計画研究の代表者に責任が移行することになるから、全国の研究者との協力の形態はこれまでと異なったものとなるが、総括班を運営する領域代表とともに、計画研究のうち4件の代表者を防災研究所の教官が担当するなど、研究プロジェクト全体における防災研究所の責任は依然として大変大きい。今後も続くこのプロジェクトへの変わらぬご支援をお願いする次第である。
(文責:亀田弘行)