「コロンビア中西部地震の災害調査」

 本年1月25日、コロンビア共和国中西部にマグニチュード(M)6.2の地震が発生した。アンデス山脈の麓、キンディオ県の県都であるアルメニア市(人口27万人)を中心として多数の建物が倒壊し、死者・行方不明者は合わせて2千名近くに達した。3月3日-15日の間、文部省科学研究費による突発災害研究班としてこの地震災害の調査に参加した。

 地震火山災害の国コロンビア
 コロンビアを含む南アメリカ北部では、ナスカプレートが南米大陸プレートの下に西側から沈み込み、M7-8クラスの海溝型大地震が発生する。それに加えて、アンデス山脈に平行に発達した活断層、活構造に沿ってM6前後の地震も多く発生し、地震規模の割には大きな被害を生じる。
今回の地震は後者のタイプであるが、震源域がアルメニア市のごく近傍まで達したために、これまでの内陸型地震に比べて被害がかなり大きいものとなった。また、1985年の火砕流・泥流災害によりアルメロの町を壊滅させたネバドデル・ルイス火山にも近く、今回の地震はアルメロとはちょうど反対の西側斜面に位置する。コロンビアは赤道に近く、熱帯気候の海岸部から標高が高くなるに従い亜熱帯(今回の被災地等、コロンビア有数のコーヒー産地)、常春(首都ボゴタ等)、寒冷気候へと変化し、万年雪を頂く高山は「ネバドデル」という冠詞を付けて呼ばれる。

写真1 マシンガンを持った警察官護衛のもとでの倒壊建物の現地調査(アルメニア市北部)写真4 アルメニア市の都市計画局において復興計画策定を指揮する川島氏(中央)

 地震災害の現場より
 今回の地震災害調査は建築物被害、構造物被害、災害対応、地震情報、および地震学的調査等について行われたが、同行した2名の京都大学院生(コロンビアおよびペルーからの留学生)によるスペイン語通訳と、8名もの現地警察官による護衛のお陰で治安の心配された被災地内においても、連日、順調に進められた(写真1)。
アルメニア市の中心部から南部域、その北隣のペレイラ市の中心部では建物倒壊率が50-90%に達した。この地域に一般的なレンガ組構造が被害を大きくした訳であるが、地質、埋め立て造成などの地盤条件等が細かい被害分布と対応するようである。アンデス大学(ボゴタ市)ではレンガ組構造の強度実験・耐震研究が進められていた。レンガは生産、建設等それに関わる人口がきわめて多く、簡単には排除できないとのことである。家屋の床組、屋根組には竹材が多用され、がれきの中に多くの竹が見られると同時に、被害を受けた建物の応急的な補強にも竹材が使用されていた(写真2)。
写真3はアルメニア市中心部の元市庁舎であるが、シンメトリー構造の向かって左側が倒壊し、すでに解体されていた。市長執務室は市北部の黄金博物館に、また都市計画局はキンディオ大学の一角にそれぞれ移転し、復興計画の青写真がGISを用いて策定されつつあった。この作業は現地在住コンサルタントの川島さんが依頼を受けて指揮を執っていた(写真4)。
そこで地震発生前夜に議会承認されたという市街地総合土地利用計画図(PORTE)を見せられたが、市中央部を走る断層に沿って幅400mの緑地帯を設けるというもので、そのタイミングとこの地方都市がそこまで地震防災に取り組めるのかということに驚いてしまった。この断層は今回は動かなかったものの、今回の震源断層の延長に位置し、活断層としての活動度を調査しておくことが重要である。

写真2 壊れた建築物の補強には豊富に産する竹材が多用されていた(ペレイラ市中心部)写真3 向かって左側部分が倒壊し解体された元アルメニア市庁舎(アルメニア市中心部)

 コロンビアにおける地震観測事情
 コロンビアは先に述べたような地震多発国ではあるが、意外にも、かなり高度な地震観測網が1993年より稼働している。一つは全土20数カ所に設置された高感度地震計ネットワークで、衛星テレメータによりINGEOMINAS(コロンビア地質鉱山研究所、今回調査のカウンターパートでもある)という国立研究所に集められ、コンピュータ自動処理により地震活動が24時間監視されている。
もう一つは約100カ所に設置された強震計ネットワークで、主として都市域における強震動予測のためのデータが蓄積されている。これらはアメリカ、カナダのメーカーが全システムを納入したものである。もはや地震観測のナショナルネットワーク構築はいとも容易に予算を投入しさえすればできるということを実感した。もちろん、これはわが国をはじめとする地震研究先進国が1960年代から地震観測システムの向上を研究的に行ってきた成果でもある。
地震災害に対して脆弱な途上国においては、今後、このようなリアルタイム観測システムを地震(発生後の)被害軽減のために活用することが先進国の場合以上に重要であろう。また、我々が進めている地震発生予測の研究が多くの途上国にとって貢献することも忘れてはならない。